リーンかエフェか?「どれが正しいか」ではなく「いつ、どこで使うか」方法論の選び方
新規事業開発の方法論③

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。
「リーンスタートアップ」と「エフェクチュエーション」の使い分け
新規事業開発において、「リーンスタートアップ」と「エフェクチュエーション」はどちらも魅力的な方法論だが、実際にどちらを使うべきか、あるいはどう使い分けるべきかという判断に迷う場面も多いのではないだろうか。
今回は、2つの理論の違いや活用シーンを比較しつつ、状況に合った最適な選択肢を見つけるヒントを探っていこう。
本連載ではリーンスタートアップとエフェクチュエーションについて個別に紹介してきたが、新規事業開発においてはこれら以外にもさまざまな方法論が存在する。
読者の多くにとって気になるのは、「どの理論をいつ、どのような状況で使えばよいのか」という点であろう。そこでまず、最も普及しているリーンスタートアップの適用限界について見ていく。
リーンスタートアップの限界と他手法との使い分け
ある研究では、材料系などの研究開発型ベンチャーにおけるリーンスタートアップの適用可能性が議論されている。このような分野では、以下のような特徴がある。
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技術の不確実性が高い(特にディープテック領域)
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製品とプロセスの革新が密接に結びついている
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ビジネスモデルがB2B中心である
リーンスタートアップはもともと消費者向けソフトウェア業界で生まれた手法であり、プログラミング言語やアーキテクチャが安定している環境でこそ効果を発揮する。しかし、技術の実現可能性自体が未知である場合や、対象となる顧客が限られている場合には、仮説検証の前提が成立しにくい。
上記研究の結論は、「リーンスタートアップは消費者向けソフトウェア市場以外にも適用できるが、分野によっては大幅にカスタマイズしなければならない」というものであった。
実際のところ、リーンスタートアップを適用する場合、分野によっては大幅なカスタマイズが求められる。ブラジルの9社の技術系ベンチャーを対象にした調査では、多くの企業がリーンスタートアップを他の手法(ビジネスプラニング、ステージゲートなど)と組み合わせている実態が報告されている。
リーンスタートアップの活用を難しくしているのは次のような要因だ。
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規制への対応
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技術や法律面での不確実性
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失敗が許されにくい文化
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製品開発サイクルの長さ
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製造や開発にまつわるコストの高さ
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漸進的な改善を受け入れにくい市場
これらを踏まえると、リーンスタートアップはあくまで選択肢の一つであり、プロジェクトの特性に応じた手法の使い分けが必要である。
多様な手法の比較と選び方
別の研究は、エフェクチュエーションを含む6つの方法論(仮説指向計画法、処方的アントレプレナーシップ、ビジネスプラニング、リーンスタートアップ、デザイン思考)を9つの評価軸で比較している。
多くの手法で「知識の拡張」「反復プロセス」「価値創造」に重きが置かれていたが、特に「方向転換力」や「ステークホルダーとの関係性」の捉え方においては差が大きく現れている。
また、フェーズごとに適した手法の傾向としては下記が示されている。
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初期段階:エフェクチュエーション(不確実性を受け入れ、試行錯誤)
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中期段階:デザイン思考やリーンスタートアップ(仮説検証と改善)
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後期段階:ビジネスプラニング(計画性と最適化)
手法は「どれが正しいか」ではなく、「いつ、どこで使うか」が重要ということだ。
おわりに
現在、多くの企業が新しい事業を立ち上げようとする中で、それを支援するサービスも数多く登場している。ただ、それぞれのサービスがどのような考え方に基づいているのか、どのような実績があるのかを見極めるのは簡単ではない。
新規事業支援が「あらゆる事業に対応可能」とうたっているサービスを見ると、まるで「すべての技術領域に対応できる」と言っているのと同じように感じてしまい、違和感を覚える人もいるかもしれない。
適切な支援者を選ぶためには、そのサービス提供者がどのような理論を理解し、過去にどのような分野・状況でそれを活かしてきたのかを確認することが、ひとつの指標となる。本記事が、その判断の一助となれば幸いである。
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