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ビジネスの魔法?「エフェクチュエーション」の呪文を解読せよ

新規事業開発の方法論②

連載
羽山友治の【新規事業が動く思考スイッチ】

著者紹介●羽山 友治(はやま・ともはる)
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー。10年以上にわたり、世界中のオープンイノベーションの研究論文を精査し、体系化。戦略策定・現場・仲介それぞれの立場での経験を持つ。著書に『オープンイノベーション担当者が最初に読む本:外部を活用して成果を生み出すための手引きと実践ガイド』がある。

「使える予算は限られているし、人もいない。だけど、何かを始めなければならない」

 新規事業の現場では、こうした状況にしばしば直面する。
 そうした制約の中で成果を出すための考え方として注目されているのが、「エフェクチュエーション」である。

 「手中の鳥」「レモネード」「飛行中のパイロット」など、ややユニークなキーワードに驚くかもしれないが、その背景には実務にも活かせる知恵が詰まっている。

 本稿では、このエフェクチュエーションの原則と、大企業における活用の可能性について解説する。

 新規事業開発の方法論として、リーンスタートアップと並んで近年注目されているのが「エフェクチュエーション」である。この理論は、成功した起業家たちの共通する意思決定の特徴を抽出し、不確実性の高い状況でも活用できるよう体系化されたものである。

 エフェクチュエーションの中核をなすのは、次の5つの原則である。

  • 手中の鳥:目標からの逆算ではなく、現在手元にあるリソースから可能性を探る

  • 許容可能な損失:期待される利益よりも、リスクとして受け入れられる損失を重視する

  • パッチワークキルト:他者を競争相手と捉えるのではなく、共創のパートナーとして関係性を築く

  • レモネード:計画外の出来事を障害とみなすのではなく、活用可能な機会と捉える

  • 飛行中のパイロット:既存の計画や外的トレンドに縛られず、柔軟に進路を変える

 これらは一見すると抽象的だが、特に変化の激しい環境下では極めて実践的な原則である。

 例えば、マレーシアの航空会社であるエアアジアが、パートナーとのネットワークを強化し、事業開発を推進してきた経緯にエフェクチュエーションを当てはめた事例が報告されている。

 そして、エフェクチュエーションの対となる概念が「コーゼーション」である。これは、最初に明確なゴールを設定し、それに向けて計画的に手段を選んでいくアプローチである。従来の大企業の意思決定は、どちらかといえばコーゼーション型であることが多い。

 しかしある調査によれば、不確実性の高い部門に所属する管理職の間でエフェクチュエーションの方が2倍多く使われているという結果が報告されている。これは意外であると同時に、大企業でも状況によっては柔軟な思考法が求められていることを示唆している。

 とはいえ、すべての原則がそのまま企業に当てはまるわけではない。「手中の鳥」や「レモネード」のように、個人の動機や柔軟性に依存する原則は、企業の意思決定構造と噛み合わないこともある。とりわけ企業ミッションや事業ドメインが明確に定義されている場合、その範囲を超えた挑戦には社内での許容が得られにくいという現実もある。

 重要なのは、エフェクチュエーションを「使えるか、使えないか」で判断するのではなく、状況に応じて部分的に取り入れることである。たとえば、プロジェクト初期の段階で目標が曖昧な場合には、利用可能なリソースを起点に柔軟に進めていくエフェクチュエーションが有効である。その後、方向性が定まってきた段階でコーゼーションに切り替え、明確な市場戦略を立てていくのが理想的と思われる。

まとめ

 エフェクチュエーションは、スタートアップのための方法論と思われがちだが、実は大企業の不確実な業務環境にも適応できる。

 その本質は、「手持ちのリソースを最大限に活かし、動きながら考える」ことである。

 計画的アプローチだけでは通用しない局面において、この柔軟な思考法は、新規事業担当者にとって大きな武器となるはずだ。


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