革新的なDATレーシングコンセプト
GRヤリスがオートマチックで耐久レースに挑戦
3月22~23日、モビリティリゾートもてぎで、「ENEOS スーパー耐久シリーズ 2025 Empowered by BRIDGESTONE」が開幕した。
富士24時間耐久レースを含む全7戦で争われるこのシリーズに、完全オートマチックトランスミッション(AT)のGRヤリスで参戦するチームが現れた。開発車両である「GR Yaris DAT Racing Concept」を持ち込んだのは、老舗レーシングチームのGR Team SPiRITだ。すでにラリー競技や市販車に採用されているDAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)の精度を、さらにブラッシュアップすることを目的とした参戦とのこと。
そもそもDATと普通のオートマティックは何が違うのかを、昨年のSUPER GT GT500クラスチャンピオンであり、GRヤリスのドライバー・山下健太選手に聞いてみた。
プロドライバーが語るDATの特徴と
アマチュアへの恩恵
山下選手いわく「普通のオートマチックは、コーナーに入る時にはシフトダウンしません。ブレーキを踏みながらコーナーに入っても、ギアはそのまま。旋回が終わりアクセルを踏み込んだ時点で、加速を検知して初めてシフトダウンします。でも、DATはブレーキを踏んで車速を落とすと、その時点でシフトダウンを開始するんです。しかもクルマの挙動が乱れないように、僕たちプロドライバーがやるブリッピング(エンジンの回転数を合わせるための空ぶかし)しながら。だから最適な回転数とギアでコーナーをクリアできるからタイムロスも違和感もないんです。おそらく、ほとんどの一般ドライバーは、簡単に速く安全に走ることが可能だと思います」
シフトダウンだけでも、普通のドライバーをプロに近い領域まで連れて行ってくれる最新技術なのだ。
「レースに出るアマチュアドライバーの方には、かなりのアドバンテージだと思います。たとえばシフトアップひとつとっても、勝手に最適値でシフトアップしてくれるのですから無駄に回転数を上げてタイムをロスしてしまうことがないんです。シフトダウンに関してはお話ししたとおり、ブレーキとステアリング操作だけに集中できますから、制動距離は飛躍的に短くなりますね。ラップタイムだけで言えば、過去最高タイムを更新するドライバーは多くいるんじゃないでしょうか」
確かに最初はDレンジで走って、シフトポイントやコーナリング中のギアの選択を学習すれば思い切ったドライビングができそうだ。だからといって、いわゆるジェントルマンドライバー(アマチュアドライバー)にのみ恩恵があるわけではなく、もちろんプロにも恩恵がある。
「僕たちプロの場合、速く走るということに限ればまだまだ人間の方が速いです。ですから予選では、パドルシフトでマニュアル走行をします。でも24時間耐久みたいなレースで、疲れてきたときにはDレンジに入れて走行すると思います。それにドライバーって、走りながら色々な操作をしているんです。たとえば、ブレーキバランスを変えたり、ピットからの指示で色々な設定を変えたり。そんなときにDレンジで走っていれば、ミスもしないだろうしタイムもそれほど落ちません。タイム的には、もてぎで言えばコンマ5秒前後しか変わらないところまで来ています」とのこと。
DATの驚異的な精度にさらなる進化の可能性
SUPER GTの現役チャンピオンのマニュアル操作と、Dレンジでの走行がコンマ5秒以内の差とは、予想以上の精度だと感心させられる。では、どんな部分をブラッシュアップさせているのだろうか。
「現状のDATでも、ほぼほぼ完成に近いと思うんです。走りたいギヤを確実に選択してくれるし、シフトポイントも完璧。おそらくブレーキペダルを踏む踏力を感知して、スピードを予想してシフトダウンしてるんじゃないかな。そうすることで次のコーナーがタイトなのか、高速コーナーなのかを判断してくれる。だから変なシフトチェンジもしません。
ただ、予選でコンマ2秒削らないといけない場合はパドルで操作します。それは路面状況の変化や、タイヤの磨耗など、不確定要にはさすがにまだ対応できないので。それに同じコーナーでも1速下で引っ張ったり、上のギヤを使って走ったりと、人間の感性が優先することもありますから。でも、1年間走らせて最適化していけば最終的には人間を超える可能性もありそうですね」
予想以上に進化しているオートマチックトランスミッション。この先、ドライビングの楽しみという点ではどういう印象なのか聞いてみると「DATが進化したからといって、ドライビングが楽しくなくなることはありませんね。逆にもっとドライビングを楽しめるようになると思います。シフトチェンジを楽しみたい人はMTを選び、速く走りたい人はDATを選ぶようになるのでは? DATに限って言えば、ドライビングに対する高揚感は何ひとつ失っていません。もしかしたら、近い将来大半のドライバーがDレンジに入れてレースしているかもしれませんね」
【まとめ】レース界の変革
ATによるレース参加の増加も!?
これまで、レースで速く走るにはMTでしっかりエンジンの回転数を合わせて……というのがセオリーだったが、もはやそのような時代は変わりつつある。この先、サーキットでも一般道のように、Dレンジでレースしたりスポーツドライビングを楽しむドライバーが増えていくことは間違いなさそうだ。
■筆者紹介───折原弘之
1963年1月1日生まれ。埼玉県出身。東京写真学校入学後、オートバイ雑誌「プレイライダー」にアルバイトとして勤務。全日本モトクロス、ロードレースを中心に活動。1983年に「グランプリイラストレイテッド」誌にスタッフフォトグラファーとして参加。同誌の創設者である坪内氏に師事。89年に独立。フリーランスとして、MotoGP、F1GPを撮影。2012年より日本でレース撮影を開始する。
■写真集
3444 片山右京写真集
快速のクロニクル
7人のF1フォトグラファー
■写真展
The Eddge (F1、MotoGP写真展)Canonサロン
Winter Heat (W杯スキー写真展)エスパスタグホイヤー
Emotions(F1写真展)Canonサロン

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