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自転車に乗れなくても乗れる!人の足を拡張する電動三輪「ストリーモ」

ホンダのものづくり理念から生まれた新しいマイクロモビリティ

連載
このスタートアップに聞きたい

 近年、電動キックボードが普及する一方で、事故や交通違反が増え、安全性に対する批判的な声も上がっている。しかし、免許返納後の高齢者の生活の足としての需要や炭素排出量の削減といった環境への配慮から、電動のマイクロモビリティへのニーズは依然として高い。賛否両論の中、高い安全性を備えた新しいモビリティとして期待されているのが株式会社ストリーモの開発する「Striemo(ストリーモ)」だ。同社代表取締役CEOの森 庸太朗氏に「ストリーモ」の開発背景と特徴について話を伺った。

 株式会社ストリーモは、ホンダの新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」から生まれたスタートアップ。同社が開発する1人乗り電動三輪マイクロモビリティ「ストリーモ」は、独自のバランスアシスト機構により、ゆっくり歩くような速さから、自転車程度まで安定した走行が特徴だ。0.1mm単位で重心バランスを計算した緻密な設計が施されており、乗る人が自然とバランスを取りやすく、転びづらい構造となっている。

立ち乗り電動三輪モビリティ「ストリーモ」

 現在発売されているストリーモは2モデルあり、特定小型原動機付自転車の「S01JTA」は、最高速度を時速6キロ・12キロ・20キロの3つのモードに切り替えられ、加速のしかたも自分のペースに合わせられる。また、最高速度時速6キロ未満の歩行者扱いとなる移動用小型車モデル「S01JW」は、自治体や企業との実証実験、導入が行われている。

 スマホと連携し、ソフトウェア・アップデートで常に最新の状態が保てるのも特徴のひとつだ。専用アプリでは、走行モードの切り替えや車両の電子ロック、バッテリー残量や走行距離の確認、車両の貸し借りなどが行える。乗車履歴では、自動車の代替とした場合のCO2の低減効果も表示可能だ。

「足を着かずに停止できる」バランス技術をマイクロモビリティに実装

 ホンダでバイクの開発に従事していた森氏は、低速走行時に足を着けることなくバランスが取れる技術を研究していたそうだ。しかし森氏は、「大型のバイクでは、スピードを出して走るため、そもそも移動中はほとんど足を着くことがない。じゃあ、この技術は何のために必要なのだろう」と疑問を感じていたという。

 一方で、当時は電動キックボードのシェアリングが世界で始まり、森氏はマイクロモビリティの可能性に目を向けた。「車や自転車ではない、5キロ圏内の日々の気軽な移動手段を提供することで、クリーンな街づくりにも貢献できる。マイクロモビリティと私が研究に携わってきたバランス技術を組み合わせることで、新しい街の形、暮らしの形ができるのでは、と考えました」

 こうして、森氏は自宅のガレージでストリーモの試作を始め、製品として世に出すために社内の新事業創出プログラム「IGNITION」に応募。IGNITION発のベンチャー企業第2号として、2022年に株式会社ストリーモを設立する。

ストリーモの初号機は森氏のガレージで開発された

キックボードとは発想の起点が違う。コンセプトは「人の足を拡張する」

 そもそもキックボードはなぜ危ないのかというと、低速になるほど不安定になるからだ。加速しているときはいいが、人や障害物をよけるためにスピードを落としたとたんにぐらついてしまい、重大な事故を招く恐れがある。

 ここでキックボードの歴史を振り返ってみよう。1910年代にはキックボードに通ずる立ち乗り車両が登場していた。また、1970年代にはホンダも三輪の「ローラースルーGOGO」と海外向けの二輪タイプを発売し、子どもたちの遊び道具として人気を集めた。90年代にアルミ製の折りたたみ式が登場し、子供や若い世代でブームになる。その後、一部のギークがモーターを取り付けて電動キックボードが誕生。さらに2017年頃、中国で自転車シェアリングサービスで使われていた安価なスマートロックを電動キックボードに取り付けることで、現在のシェアリングサービスが生まれた。つまり、遊具から始まり、日常の移動手段に進化する過程で、安全性や耐久性を付加してきたのが現在のキックボードだ。

 森氏は、「キックボードとは発想の起点が違います」と話す。ストリーモは、“人の足を拡張する”というコンセプトのもと、「歩く」、「走る」、「立ち止まる」を自由に楽しめる新しいモビリティとしてイチから開発されている。これは、ホンダの“世の中にない新しい形を提供する”という理念にも通じる。

「このコンセプトを実現するために、突き詰めたのは『人研究』です。人は無意識にバランスを取ることができる。その仕組みを徹底的に考え抜きました。その結果、ストリーモは人と協調してストレスなく立ち止まれるシームレスな移動体験を実現しています」(森氏)

 ストリーモの特許技術である「バランスアシストシステム」は、停止していても自立し、低速でもふらつくことなく安定走行できる。このバランスアシストシステムのメリットは、自転車に乗れない人こそ感じられるという。坂の多い場所に住む人や自転車のバランス取りに不安を感じていたユーザーからは「ストリーモのおかげで生活の幅が広がった」と喜ばれているそうだ。自転車程度のスピードで楽しみながら乗れるストリーモは、「まだまだシニアカーは乗りたくない」という高齢者にも受け入れられる懐を持つ。

ステップの高さは15センチと低く乗り降りしやすい

マイクロモビリティならではの新たな点検整備サービスのスタイルを模索

 ただし、乗り心地や走行性能がよくても、取り扱いやメンテナンスが面倒だと使うのがおっくうになる。日常使いには、多少雑に扱っても壊れないママチャリのような気軽さがほしい。その点もストリーモは考慮されている。

 例えば、ストリーモはフレームの外にケーブルが出ておらず、スタンドなどの出っ張りのない、スッキリとしたデザインだ。これは、見た目の美しさだけでなく、気軽に折りたたんで持ち運ぶことが考慮されている。車に積み込んだり室内に持ち込む際もケーブルが引っかかる心配がない。バッテリーもフレーム前面からパコっと簡単に着脱でき、家庭用コンセント(100V)で充電可能だ。

レバーひとつで折りたたむことができ、玄関に立てて置ける

 購入時のセットアップも簡単だ。同社は配送委託先として佐川急便と提携しており、配送ドライバーが箱から出してナンバープレートの取り付けなどをしてくれる。さらに、点検整備については従来の来店型のスタイルだけでなく、宅配での対応も模索しているという。「これまでのバイクは故障時には車に乗せて持っていくか、引き取りに来てもらうしかなかった。マイクロモビリティは、小さいので宅配で送れる」と森氏。新しいモビリティは代理店が近くにないのが不安要素という声もあるが、宅配を使った点検整備が選択肢として確立されれば、マイクロモビリティの普及も加速しそうだ。

 特定小型原付モデルの「ストリーモ S01JTA」の販売価格は30万円。2024年11月にはシリーズAで5億円を資金調達し、月額9500円からのサブスクリプションサービス(β版)を開始している。じっくり試してから検討したい人や、登録や点検の手間なく手軽に乗りたい人にうれしいオプションだ。現在は、東京・神奈川・千葉・埼玉とエリア限定だが、全国展開が待ち遠しい。

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