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コーポレートベンチャリングにおけるサービス提供会社との付き合い方

スタートアップ協業の新しい流れとは?

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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複数のサービスを持つオープンイノベーション仲介業者

 OI担当者本では、個人・アカデミア・ベンチャー企業・中小企業・大企業・海外(の個人/アカデミア/ベンチャー企業/中小企業/大企業)といった協業パートナーの種類ごとに探索できるサービスの例を紹介した。例えば中小企業の場合は以下となる。

▷ケイエスピー:技術スカウトサービス
https://www.ksp.co.jp/service/matching/scout.html
▷中小企業基盤整備機構(中小機構):ジェグテック
https://jgoodtech.smrj.go.jp/pub/ja/
▷リンカーズ:Linkers Sourcing
https://corp.linkers.net/service/ls/

 それぞれ1組織1サービスを例として挙げたが、複数のサービスを提供している組織の存在については触れていなかった。例えば上記の中小機構の場合はジェグテックという単一のサービスを提供しているが、リンカーズは自社シーズの導出に活用できるLinkers Marketingやシーズ/協業パートナー候補の調査に便利なLinkers Research、情報発信に使えるTechMesse Academyといったサービスも展開している。

 またベンチャー共創プログラムという名称でコーポレートアクセラレータプログラムを提供しているゼロワンブースターは、新規事業開発に、ベンチャービルダー構築、教育・研修プログラム、協業管理SaaS、コミュニティ運営など、ベンチャー企業との協業に関する多彩なサービスを提供していることから、まさに本報告のGellifyと同じくコーポレートベンチャリングアドバイザリーと言える。

 その他スポットで専門家から話が聞けるインタビューサービスで有名なビザスクでも、顧客のニーズや特定業界の動向を調査するためのオンラインアンケートや、ノウハウを持った専門家による代行調査、自社シーズの用途探索に使えるアイデア公募、専門家による一定期間の実働支援などが提供されている。

 以上は主に国内を中心に活動しているところであるが、グローバルに展開しているデロイト傘下のデロイトトーマツベンチャーサポートも、早い段階から国内のイノベーションエコシステムで活動してきた知見を元に、大企業向けの様々なサービスを提供している。例えばオープンイノベーション活動やCVCの設立、ベンチャー企業との協業を通した新規事業創出にベンチャークライアントの支援など。

 ビジネスとしてサービス提供側の視点に立ってみると、その背景がよくわかる。例えばある1つのサービスを提供する企業があったとして、売上高を増やすには、既存顧客からより稼ぐか、新規顧客を開拓するかの2択しかない。後者は相応の費用が掛かることから、できれば前者を選択したい。しかしながら個々のサービスのニーズには限度があるため、新規のものを提供する動きになるのは、自然な流れと思われる。

オープンイノベーション仲介業者/サービスの使い分け

 オープンイノベーションチームに特定の目的、目の前の案件があるとき、類似する複数のサービスの中から最適なものを選定することが基本である。そのためには、情報収集活動を通じて多様なサービスを知っておき、資金が許す限り実際に使ってみて感触を得ておくことが望ましい。そして試行錯誤を続けていけば、自社と相性がよい少数のサービスに絞り込まれることになるだろう。

 ただし前提として、企業戦略や研究開発戦略が明確で、それらに基づいた(オープン)イノベーション活動が展開されている必要がある。しかしながら現実には、それらが存在せず、曖昧な状況に置かれているオープンイノベーション担当者が多いのではないだろうか。そのような状況においては、コーポレートベンチャリングアドバイザリーなど、複数のサービスを提供している仲介業者が役に立つ。

 その種の組織に相談すれば、課題が明確になっていない状況でも、とりあえずは手持ちのいずれかのサービスに誘導してもらえる。また各組織は提供しているサービスの棲み分けのロジックを持っていることから、イノベーション活動全般に対して幅広い知見を有しており、コンサルティングを受けられる可能性がある。社内に相談相手がいない担当者としては心強い味方と思えるのではないだろうか。

 担当者個人としては、それはそれで1つの解決策である。そもそも一時的にイノベーション活動に携わるだけであれば、数年間を乗り切れば異動の可能性が出てくるため、長期的に考える必要はないかもしれない。しかしながら企業として考える場合は、イノベーション活動をどこまで内製化していきたいかを検討する必要があり、その結果によって取るべき行動が変わってくる。

 いずれは自分たちで独り立ちしてやっていきたい場合は、複数のサービスを提供する1社に頼る中で知見やノウハウを吸収し、少しずつその他の組織が提供するサービスにも触れていくとよいだろう。同じところを使い続けるとロックインされる危険があり、注意が必要である。逆にイノベーション活動にそこまでこだわりがない場合は、ある程度効率がよくないことを踏まえた上で、1社に頼り続けるのも選択肢の1つと思われる。

著者プロフィール

羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022

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