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ベンチャークライアントの今後の展開は?

ベンチャークライアントを読み解く。どうやってスタートアップと提携して価値を生み出すのか?

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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ベンチャークライアントの今後の展開

 本書の12章では、ベンチャークライアントの今後に関する10個の予測が記されている。AIを活用した大企業のニーズとベンチャー企業のシーズのマッチングやCrunchbaseのようなプラットフォームを活用したデータ主導のアプローチ、企業内サンドボックスの普及といったしばしば耳にする話である。一方で本書ならではの視点も提供されていることから、2点ばかり紹介したい。

 1つ目は、政府の支援の強化である。一般的なイノベーション政策はベンチャー企業を対象としたものであるが、それをベンチャークライアントに取り組む大企業にまで拡大する動きが予想されている。その根拠の1つとして紹介されているのが、ドイツのイノベーションクラスターであるit’s OWLが主導するベンチャークライアントイニシアティブのStratosfareである。

 大企業が自分たちのために組織化したベンチャークライアントとしては、ドイツのStart-up Autobahn(ドイツ)、スウェーデンのIGNITEやCombient Foundry、スペインのBIND4.0、フィンランドのRapid Tampereなどがあるが、Stratosfareはクラスター主導であるところが特徴的である。エコシステムが発展すること自体が利益となる中央/地方政府にとって、ベンチャークライアントを支援する動機は十分にあるだろう。
*Machon, Fabian, Lennard Haarmann, Martin Rabe, Roman Dumitrescu, Marie Bierbüssen, Tack Mareen, Rebecca Hanke and Daniel Kinder, [2023], "Mehr Innovationen durch Venture Clienting – Fallstudie zur Initiative "Stratosfare"," 17th Symposium für Vorausschau und Technologieplanung, 101-124.

 2つ目として上記とも関連するが、大企業間の連携が挙げられている。複数の大企業間で活動のノウハウを共有するだけでなく、ベンチャー企業の共同探索やソリューションの流用を行うことで、ベンチャークライアントを効率よく実施できる。この点に関しては、OI担当者本でも紹介した少数の企業グループで形成されるコーポレートベンチャリングスクワッド(CVS)の取り組みがすでに確認されている。
*Prats, Mª Julia, Josemaria Siota, Carla Bustamante and Beatriz Camacho [2023],
Open Innovation Corporate Venturing Squads: Teaming Up with Other Corporations to Better Innovate with Start-Ups, IESE.

おわりに

 本書にはベンチャークライアントを実施するうえで有用な情報が多数記載されている一方で、「There is no one-size-fits-all approach」とあるように、他のイノベーション活動と同じく、各企業が自社の実情に合わせて最適化していく必要性についても言及されている。翻訳されていないこともあって少々ハードルが高いかもしれないが、もし本格的に実施するつもりであれば、購入して読むだけの価値はあるのではないだろうか。

著者プロフィール

羽山 友治
スイス・ビジネス・ハブ 投資促進部 イノベーション・アドバイザー
2008年 チューリヒ大学 有機化学研究科 博士課程修了。複数の日系/外資系化学メーカーでの研究/製品開発に加えて、オープンイノベーション仲介業者における技術探索活動や一般消費財メーカーでのオープンイノベーション活動に従事。戦略策定者・現場担当者・仲介業者それぞれの立場からオープンイノベーション活動に携わった経験を持つ。
https://www.s-ge.com/ja/article/niyusu/openinnovationhayama2022

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