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ベンチャークライアントの体制と位置付け

ベンチャークライアントを読み解く。どうやってスタートアップと提携して価値を生み出すのか?

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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ベンチャークライアントの体制

 ベンチャークライアントを実施するチームの実務以外で参考になる記載を見てみよう。

 5章では、本手法を取り入れるにあたっての戦略が議論されている。注力すべき分野に加えて、前述のプッシュ/プル戦略のバランスなどを含めた3年間のロードマップを作ることや、獲得したベンチャー企業のソリューションのポートフォリオを作成して類似した課題に流用していくことが推奨されている。

 組織を扱う6章では、チームメンバーが担う7つの役割が紹介されている。とりわけ製品やサービスの購買周りの業務と、セキュリティーやデータなどのIT周りの業務が特徴的である。小規模なチームでは1人が多数の役割を担う一方で、大きくなると各メンバーが専門に特化して役割分担が進んでいくことが基本的な考え方となる。

 勤務場所に関しては、シリコンバレー・テルアビブ・ベルリンのようなイノベーションのホットスポットではなく、中核事業の意思決定者に近い場所が優先されると書かれている。これは中核事業こそがベンチャークライアントが主に支援対象とすべきであって、そのためには社外におけるネットワークを構築する以上に、社内での活動が重要であることからきている。

 8章は社内の法務部に関する話題を扱っており、実施主体がベンチャー企業のエコシステムの知見を持たない場合に、社外のプロフェッショナル起用が推奨されている。ただし、ベンチャークライアントのプロセス全体が遅くなりかねない懸念から、法務部を巻き込んだ知的財産権に関する議論はパイロットフェイズの後にすべきとの記載がある。

 9章ではベンチャークライアントチームの予算管理が取り上げられている。大きく分けるとコストセンターとするか、支援部門からサービス料金を徴収するプロフィットセンターとするかの2つの選択肢がある。最も効果的なアプローチとして、初期の時点では中央からの予算でまなかうコストセンターとして立ち上げ、長期的には費用を各部門に分散化することが勧められている。

オープンイノベーション/コーポレートベンチャリング/ベンチャークライアントの位置付け

 余談にはなるが、筆者のOI担当者本では、コーポレートベンチャリングを「対象をベンチャー・スタートアップ企業に限定したオープンイノベーション活動」として定義し、ベンチャークライアントをその中の手法として位置付けた。本書では、まさにそれを表した以下の図が掲載されており、コーポレートベンチャリング以外のオープンイノベーションとして、クラウドソーシングやIPのライセンシング、ユーザーイノベーションなどが紹介されている。

*以下を元に著者作成
*Gutmann, Tobias, Sebastian Greiss and Christian Huettenhein [2024], Venture Clienting: How to Partner with Startups to Create Value, Kogan Page.

 興味深いのは「よくある誤解として、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)をコーポレートベンチャリングと同等のものとして扱うことがある」との記載で、Gutmannらが活動しているドイツでも、CVCがオープンイノベーションと同一視される日本と似た状況にあることが察せられる。このような取り違えは、オープンイノベーションの可能性を狭めてしまうことにつながりかねないので、注意が必要である。

 またコーポレートベンチャリングのさまざまな手法の特徴をまとめた表や、時間と予算の2軸でマッピングした図などが記載されており、目的に応じた使い分けの参考になる。さらにはベンチャー企業の製品/サービスの購入で得られた知見をCVCチームに提供するなど、イノベーション活動全体におけるベンチャークライアントの位置付けを考えるうえで役立つ話が所々見られる。

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