オープンシステムへのリホスト実績をアピール、新たなソフトウェアの提供開始も発表
“脱メインフレーム”の課題解決を支援、キヤノンITSがアプローチと強みを説明
2024年10月29日 07時00分更新
キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は2024年10月28日、2024年の事業戦略説明会を開催した。
2025年に向けた注力事業の1つとして、メインフレームのマイグレーション(リホスト)ビジネスを大きく取り上げ、30年間で120件のマイグレーションを手がけてきた実績や独自ツールなどを強みに、顧客企業の“脱メインフレーム”実現を支援していく方針を示した。マイグレーション支援のための新たなソフトウェア製品も発表している。
メインフレーム維持・運用には平均で“年間10億円超”のコスト
キヤノンITSでは、事業モデルの転換を掲げる長期事業ビジョン「VISION 2025」において、「サービス提供モデル」「システムインテグレーションモデル(SIモデル)」「ビジネス共創モデル」の3つを新たに確立したい事業モデルに掲げている。メインフレームのマイグレーションビジネスは、このうちのSIモデルにおける注力事業の1つである。
メインフレームのマイグレーション手法には、「リホスト」「リライト」「リビルド」という3つがある。このうちキヤノンITSが得意とするのが、現行の機能のまま、同じプログラム言語(COBOL)のままでオープン環境にマイグレーションを行う「リホスト」だ。他の手法と比べて短期間、低コスト、低リスクで移行が実現でき、システム更改期限が迫っているケース、移行コストを抑えてその予算をDX投資などに振り向けたいケースなどで有効だという。
キヤノンITS 常務執行役員 デジタルイノベーション事業部門担当の村松昇氏は、同社がメインフレーム利用企業に実施した調査から、維持・運用コスト(ハードウェアとソフトウェアライセンス)が1社あたり平均で月額6600万円、年間でおよそ8億円かかっていること、維持・運用の人員としては1社あたり平均で26人があたっていることを紹介した。
「ハードとソフト、人のコストを合計すると、年間平均で10億円を超える。大規模なユーザーになると、年間25億円くらいのコストがかかっている」(村松氏)
リホストによってこの高コストな状況から脱却し、DX実現のための予算と人員リソースを捻出できる“DX Ready”な状況にするというのが、キヤノンITSが提案するプランだ。当然、マイグレーションには一時的にコストがかかるが、これまでの実績で考えると、以後の大幅なコストダウンによって「2年程度」で回収するイメージが描けると村松氏は説明する。
ただし、メインフレームのリホストは「プロジェクト推進が難しい」「技術とノウハウが不足している」「高コストになりやすい」という課題があり、それが壁となって実施に踏み切れない企業も多いと考えられる。
こうした課題に対して、キヤノンITSでは「プログラムの100%自動変換を目指すツール化」「マイグレーションのスペシャリスト集団」「30年間のマイグレーション(リホスト)実績」という強みをもって解決に当たるという。
村松氏は、マイグレーションビジネスの2027年の売上目標として「2023年比で400%」という数字を挙げた。
最大の強みは「安心・安全・確実なマイグレーションの進め方」の確立
同社 ビジネスソリューション第二開発本部 本部長の山口富氏は、多くのマイグレーション実績の中で改良を重ねてきた高品質な自動変換を行える独自ツール群、上流(プロジェクト企画)から下流(サービスイン)まで全工程をカバーできるマイグレーションのスペシャリスト要員、数百万ステップの大規模案件を中心に120件を超える豊富なリホスト実績という“3つの強み”をあらためて強調した。
「当社の最大の強みは、これら3点を生かして『安心・安全・確実なマイグレーションの進め方』を確立できたこと。多くの案件を経験しながら『成功するマイグレーションの進め方』を追求してきた。これによって“落とし穴”や無駄なプロセスを回避して、プロジェクト成功への最短ルートをお客様にお伝えできるようになった」(山口氏)
キヤノンITSでは同日、メインフレームのマイグレーションビジネスに関連して、2つの発表を行った。
1つめが「オンライン基盤ソフトウェアの提供開始」である。これは、各社メインフレーム(IBM、NEC、富士通)が持つオンライン制御機能をオープンシステム上で代替するソフトウェアで、既存のオンラインプログラムの修正を最小限にとどめながら、マイグレーション後も同等の処理を実現するという。
もうひとつが「富士通メインフレーム向けツールの機能拡充」だ。富士通では、メインフレーム製品の2030年度末での販売終了、2035年度末での保守サポート終了を発表している。富士通メインフレームからオープン環境への移行を考える企業をサポートするべく、各種マイグレーションツール(オンライン、データベース、言語変換)の機能拡充を実施した。
なお山口氏は、将来像として「現在は変換ツールによるマイグレーションが主流だが、その先のステップでは生成AIの活用が鍵になる」と説明した。現状では、変換ツールを用いたリホスト(COBOLからCOBOLへ)あるいはリライト(COBOLからJavaへ)が主流だが、生成AIを用いることで業務仕様の変更も含むリビルドも、変換品質を維持したまま実現できる可能性があるという。
「COBOLのソースから生成AIがプログラム仕様書を書き起こし、それを基にピュアJava(COBOLから直接変換したプログラムではなくJava技術者が受け入れやすいJavaプログラム)を生成するという流れになる。当社では、大規模なシステムへこの技術をどう適用していくかが、ひとつのポイントになると考えている」(山口氏)
「VISION2025」の目標に向けて順調な進捗、「サービスシフトの加速」に重点
同社 代表取締役社長の金澤明氏は、2024年の取り組みと2025年に向けた事業戦略について説明した。
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループでは、2022~2025年中期経営計画において、ITソリューション事業で3000億円の年間売上達成を目標に掲げており、キヤノンITSはその牽引役としての役割を期待されているという。
現在、3000億円の売上目標は1年前倒しで達成できる見通しとなっており、キヤノンITSが「この前倒しの達成に大きく貢献できた」と金澤氏は語る。
キヤノンITSでは2021年から「VISION2025」を掲げ、「サービス提供モデル」「SIモデル」「ビジネス共創モデル」の3つを新たに目指すべき事業モデルと位置付けて、事業変革を進めてきた。
「各事業モデルは順調にトップラインを伸ばしており、2025年の目標に向けて、2024年は当初計画を上回った進捗となる見込みだ」(金澤氏)
金澤氏は、VISION2025の最終年度を迎えるうえで、目標の達成には「サービスシフトの加速」「システムインテグレーションの質的転換」「エンゲージメント経営の強化」に重点的に取り組む必要があるとして、これらに注力していくことを強調した。