スケジュール最適化を突き詰めると量子コンピューティングに行き着く
大谷:Babelの特徴であるAIエージェントの動作についてももう少し詳しく教えてください。
元木:現状では10体のAIエージェントが並列的に動作して、システムを作り上げています。ただ、プログラムを作るには順序が重要。たとえば爪を作るには、先に爪の細胞が必要だし、髪も毛根の細胞が先に必要になります。システムもどの段階でユーザーのデータを取り込むか、どの段階で脳にあたるプログラムで処理するかの順序が重要。ここではスケジュール最適化という問題に突き当たります。
実はここからが私の出身でもある量子コンピューティングにつながってきます。量子コンピューティングで今まで手がけてきた処理ってタクシーの配車や営業マンの巡回ルート、飛行機の離発着など。でも、これらはけっこう規模が大きくて、国家レベルのデータが必要になる。社会実装するのにあたっては「データ集まらない問題」の方が大きいんです。
私もいろいろなプロジェクトに関わりましたが、結果的にはどこにどのデータがあるのかを調べたり、データをもらうところで苦労します。「データを溜める池」はあるのに、堰が切れてないので、データがたまらない状態です。で、いざデータを集めてみたはいいが、データはごちゃごちゃ。量子コンピューティングではきれいなデータしか理解できないので、じゃあ人間がごちゃごちゃのデータをきれいにするんですか、という話になるんです。
大谷:集まった池の水は清い水じゃなかったですね。
元木:そうなんです(笑)。でも、非構造化データがLLMに集まり、きれいに整理整頓されるようになった。しかも、仮想環境でシステムを「作っては壊し」がやりやすくなった。今では作れるファイル数も限界ありますが、スパコンを使えば万単位、億単位でファイルを生成できるはず。このレベルになれば、量子コンピューティングをしっかり活用できます。
大谷:AIにデータを整理させ、シミュレーションを繰り返せば、現在のコンピューティングリソースで量子コンピューティングをうまく使えるということですかね。
元木:あるいは社会課題が溜まったら、それを解決するためのSaaSを作ってしまうことも可能です。AIの力をまさに開放できるんです。
急成長するシステム生成AI Babelは100点までの道のりを支援する
大谷:プロダクトとしてのBabelの今後や戦略を教えてください。
元木:システム生成AIは、いままさに急激に拡大している領域。4象限で見れば、ノーコード系もプログラマー向けもあり、フロントエンド系もバックエンド系もあります。この領域のそれぞれで、プロダクトがどんどん増えています。その中でBabelは競合しないところを狙っていかなければならないと思っています。
生成AIでの開発ってプロトタイプを作るのはあっという間。たとえば、Vercel V0とか使えば、対話しながらサイトを構築し、コード生成や実行、デバッグまでやってくれます。でも、そこからプロダクションレベルまで作ろうとするとわりと地道な開発が必要になります。V0で作ったサイトも、専門のエンジニアに聞くとまだまだという感じ。フロントエンドなのでバックエンドをつなぎ合わせるのは難しい。
つまり、ゼロからイチを作ったり、100レベルをブラッシュアップするのはできそうですが、その間が難しそう。このレベルを埋めていかないと、実用レベルにならない。ここをBabelでとって行きたいと思います。
大谷:一合目から頂上まで登るのに必要なツールということですね。
元木:そもそもシステム開発は市場規模も大きいので、この領域にもツールがわんさか出てくるのはわかっています。だから、市場動向を見ながら、どの領域に進むのかを見定めていくことになると思います。
60点から100点くらいまでの試行としては、複数のAIエージェントで異なるアプローチを試させて、どれがよいかをテストドリブン開発させています。10人の生徒に同じ問題を出して、回答を先生が評価し、生徒たちで話し合ってもらいます。最高が80点だったら、それ以上の得点を挙げるにはどうしたらよいかを考えて、得点を100点に近づけるアプローチですね。
機械語から自然言語へ 次は直感でシステムが作れるように
大谷:月並みな質問になるのですが、生成AIがシステムを作るとなると、エンジニアの仕事はなくなっていくのでしょうか?
元木:エンジニアの仕事がなくなるとは思えないのですが、AIを使っている人たちとそうじゃない人たちの開発効率はあきらかに違ってくるはずです。そういう意味での淘汰は起こりえます。
ただ、人間の属性ってざっくりジェネラリストとスペシャリストに分けられますが、どちらもAIでブーストされ、結局世の中はあまり変わらないのでは。Excel使うのと同じように、みんながAIを使うだけと思っています。
その意味で私が作っているのはジェネラリスト向け。今まで設計図しか書けなかった人がシステムまで作れる世界です。一方で、特定領域に尖った知見に関しては、それを学んだAIがいないと仕事になりません。
先ほど話したVercel V0ってnext.jsを抱えているので、世界最高峰のフロントエンドエンジニアがいます。その人たちが育てたAIを月額3000円で利用できるよというのがV0。その意味で、V0はVercelのエンジニアクローンです。
だから、特定領域のエンジニアは自身のノウハウを教え込ませたAIを作ることで、100以上のレベルアップに集中できます。画像に関しても同じですね。自分のイラストのテイストを教え込ませることで、いつもやっている作業はAIにやらせて、クオリティアップに集中する。ジェネラリストはできることが増え、スペシャリストはやれることが深まっていくという感じになるだけだと思います。
大谷:こうして生成AIを活用するとなると、言語能力がエンジニアのスキルを左右すると思うのですが、いかがですか?
元木:うーん。言語化能力を高めればいいかというと、もちろん高い方がいいですけど、なくてもいいのかなとも思います。AIの言語化能力も上がってきています。だから、先ほども大谷さんの要望を聞いて、箇条書きにして、一度確かめているじゃないですか。
大谷:確かにAI側がリクエストを正しく認知しているか確認するフェーズを経ていましたね。
元木:言語能力って人間が長い歴史の中で後天的に獲得してきたものじゃないですか。その極みが機械に指示を出すプログラミング言語だと思うと、AIのおかげでそれが自然言語に戻ってきている印象があるんですよね。実際に私もAIと話しながら、プログラム作っていますからね。
だから、次は直感でシステム作れるようになるのかなと思っています。いまTikTokでバズっている人って、言語化能力とは異なる能力ですよね。Babelで視覚的なエディターを入れているのもそういう理由。Webページ見ながら、ここらへんをこうしたいというと自動的に書き換わるみたいな。こうなると、もはや魔法の世界に戻りますね(笑)。