東京・渋谷を拠点に、Jリーグ参入を目指すサッカークラブがあるのをご存じだろうか。その名はSHIBUYA CITY FC。2014年に設立され、11年目の現在は東京都リーグ1部に所属しており、来年の関東2部リーグ入りを目指して戦っている。
同クラブは街に密着した活動を行っているのも特徴だが、具体的にどのようなプロジェクトを展開しているのか、代表取締役CEOの小泉翔氏に取材した。
都会のど真ん中で生まれたサッカークラブ
SHIBUYA CITY FCは、2014年に小泉氏や取締役会長の山内一樹氏らによって設立されたサッカークラブだ。では、なぜ渋谷という街でサッカークラブを作ったのだろうか。
小泉氏によると「渋谷の街が好きだったこともあるが、大都会である東京の中でも特にトレンドの発信地である渋谷にサッカークラブがないのが不思議だった。海外のフットボールが盛んな国では、都会のど真ん中に伝統的なクラブがあることが多く、そこからカルチャーが生まれている。日本でも、渋谷に格好いいサッカークラブが誕生すれば、日本のサッカー界が盛り上がるのではと考えた」という。
世界中で知られているサッカークラブは、そもそもビッグシティーを拠点としている。同じように、日本にある街で、世界中で知られていて、注目を集めている街といえば渋谷だ。海外には渋谷が好きという人が多く、渋谷目的で訪日する人も多い。「渋谷」というワードは海外に向けても非常に強い意味を持つ。もし渋谷に強いサッカークラブを作るとなれば、海外に向けて「渋谷」という言葉が強い武器になるということも考え、渋谷を拠点にしたという。
SHIBUYA CITY FCの目標は「渋谷から世界で最もわくわくするサッカークラブを作ること」だ。とはいえ、小泉氏は「リアルな話をすると世界一は正直難しい」としており、まずは「アジアで1番」を目指している。
多くのスポンサーを獲得できた要因
2014年に発足したSHIBUYA CITY FCは、2019年に「株式会社PLAYNEW」として法人化。その際、初のプロ契約選手である阿部翔平選手が加入し、大きな注目を集めた。2022年に小泉氏が代表に就任し、今年で3シーズン目。現在は東京1部リーグから関東2部リーグ入りを目指して戦っているが、過去2年は昇格を阻まれている。
関東2部リーグへは、一発勝負の昇格戦を連続で勝利しないとに入ることができない。リーグでは圧倒的な戦力で勝利を重ねているが、昇格戦は運の要素もあり、そう簡単なことではない。残念ながら上位リーグへの昇格は阻まれているが、チームの状況としてはポジティブな面が多いという。
例えば事業面。現在のスポンサーの数は220社を超えており、非常に多くの企業からサポートが受けられている。これほどのサポートを受けることができれば、上位カテゴリーから選手を獲得することも可能になる。
実際に、チーム運営が向上してきたここ数年は有力選手が加入し続けており、東京都リーグ1部とは思えないほど戦力が充実。実際、天皇杯予選や社会人サッカー大会では、関東1部リーグのチームに対して連続で勝利しており、小泉氏は「現保有戦力であれば、関東リーグはもちろん、JFLでも良い戦いができるほどだと思っている」と話す。
これだけ多くのスポンサーが集められた理由として、「スポンサーに対して、しっかりと費用対効果のある仕組みを作ったこと」が挙げられるという。
従来の寄付に近いようなスポンサーの在り方では、スポンサーに満足してもらうことは難しい。そこで、「経営する側として、地域から何が求められているのか、スポンサーに対して何を返すことができるのかを、真摯(しんし)に考え、実行すること」で、スポンサーになることの明確な価値を生み出すことに成功した。
例えば、SHIBUYA CITY FCでは、オフィシャルトップパートナーの「株式会社オーチュー」との共同事業として、渋谷区の区民施設「千駄ヶ谷区民施設」の指定管理事業を行っている。
同事業では、SHIBUYA CITY FCがオーチューと渋谷区との橋渡しとなることで、プロジェクトを実現。チームをサポートしてもらうことの対価になり、地域連携にもなる、スポンサーアクティベーションの最も分かりやすい取り組み例だといえる。
また、220社のスポンサーがあれば、そのすべてに営業を行なうことができる。チーム側がスポンサー同士の橋渡しをして、新しい事業を生み出すことも可能だ。例えば、オフィスの移転事業を行う会社と、オフィスの改装を行う会社との連携は、実際にあった例として挙げられます。このケースでは、いわゆる仲介料をチームがもらうことで、三方が良しとなる形が産みだせる。
他にも、選手へのセカンドキャリア形成も注力しているポイント。所属選手は午前中は練習を行ない、午後からスポンサー企業へと働きに行く。選手は両方からお給料をもらって生活する形だが、契約満了後は派遣先の企業にそのまま就職するなど、良い形でのサイクルが生まれている。
街と一緒に成長していくクラブ
SHIBUYA CITY FCは「渋谷百年構想プロジェクト」という、チームと街が一緒に成長し、魅力あるものになるためのプロジェクトを掲げている。
そのため、渋谷区をどのように盛り上げていくか、渋谷区内にあるステークホルダーとどのような形で関わっていくのかを、行政や地元企業と一緒になって協議を重ねている。先述の「千駄ヶ谷区民施設」の指定管理事業が実現できたのは、こうした行政との信頼関係が基盤になっている。
実際に街の清掃や少年サッカークラブでの授業など、さまざまな地域貢献活動を行っている。加えて、渋谷らしい、新しく、とがった企画を数多く打ち立てているのも特徴だ。例えば、2021年から1年に1度のペースで開催している、サッカーフェス「Football Jam」は、渋谷駅周辺をジャックする話題性の高い取り組みだ。
イベント以外にも、アメリカの人気アパレルブランド「NEWERA」と、サッカーチームでは世界初のサプライヤー契約を結んだことも特筆すべき点だ。NEWERAのファンが多いアメリカや南米エリアでは注目されているトピックスで、海外の人気YouTuberから問い合わせが来るなど反響は大きいという。
ブロックチェーン技術を活用したWeb3サービスとして、サッカークラブの先駆けとしてトークンを販売したこともSHIBUYA CITY FCらしい挑戦のひとつ。同取り組みでは、累計3000万以上の資金調達に成功。トークンの単価が400倍になるなど大きな話題になった。
渋谷に新サッカースタジアムを建設したい
発足当時はそこまで大きな話題にはならなかったが、チームが活躍し、少しずつ企業との連携が増えるにつれ、話題性も大きくなった。法人化した2019年、2020年には友人やSNSでの知り合いが中心だったが、地元での活動が増えていく中で地域の人々の認知が高まり、試合に足を運んでくれる地元の人が増加。現在ではホームゲームに1000人もの人が集まっている。
渋谷という街でサッカークラブを運営する上で意識していることついて、小泉氏は「渋谷は、生まれて住み続けている人、面白いから通っている人、働いている人、多様な人が存在する街。渋谷とひとくくりにするのではうまくいかない。渋谷にいるどのような人に向けて、何をするのかを解像度を高めることが大事」と話す。
その上で、「『PLAYNEW&Scramble』というテーマを掲げている。PLAYNEWは新しく面白いことを遊び心を持って行う。Scrambleは渋谷のスクランブル交差点のことで、いろんな人を巻き込むという意味がある。面白いと思ったことにいろんな人を巻き込んで楽しむ。いろんな人を巻き込むためにも、デザインなどクリエイティブな部分には力を入れている。スポーツにおいては後回しになりやすい点だが、格好良くないと誰も関心を持ってくれない。人に興味をもってもらう上では重要」だという。
最後に今後の目標を聞いたところ、「代々木に新しいサッカースタジアムを造ることは大きな目標にしている。ハードルの高い目標だが、クラブとしてひとつずつステップアップしつつ、サッカースタジアム実現に向けて、渋谷らしい取り組みでスポーツの魅力を広げていきたい」とのこと。
他にも、「同じ23区内、中でも同じ巨大繁華街にあるチームとして、新宿を拠点とする『クリアソン新宿』の存在は大きい。同じ都心に存在するチームが複数あることは確実に盛り上がりにつながる。例えば、今後もし渋谷と新宿とのダービーマッチが実現すれば、確実に注目される試合になるはず」と、今後の展望を語った。
スポンサー集めに苦心するスポーツクラブが多い中、SHIBUYA CITY FCは渋谷という街の特徴やスポンサーへのリターンを工夫することで、理想的なクラブ経営を実現している。現在は上位リーグへの昇格を目指し奮闘しているが、渋谷からJリーグ、さらにはアジアのトップを目指して今後どのような展開を見せるのか、SHIBUYA CITY FCの今後に期待したい。