インフォマティカ・ジャパン(Informatica)は2024年8月22日、事業戦略説明会を開催した。ETLツールメーカーとして1993年に創業した同社は、時代とともに「データの役割」が大きく変化するなかで製品と戦略を変えてきた。現在のAIの時代に、インフォマティカはどのような戦略をとっているのか。
オンプレミスのETLから「データマネジメントクラウド」への進化
4月にインフォマティカ・ジャパンの代表取締役社長に就任した小澤泰斗氏は、インフォマティカの現在について「オールクラウドのデータマネジメントクラウド」と表現する。
米インフォマティカは2015年に一度上場停止し、2021年の再上場までの間に、オンプレミスだった製品をクラウドネイティブのプラットフォームに変えた。「インフォマティカのパーパスは『データをバリューに変えていくこと』。インフォマティカジャパンとしても、データに力を与えることでお客様のビジネスが革新され、それにより日本社会に価値創造を与えることを目指している」(小澤氏)。
データをバリューに変えるために、インフォマティカが提唱するフレームワークが「DIKWピラミッド」だ。データ(D)、インフォメーション(I)、ナレッジ(K)、ウィズダム(W)の頭文字をとったもので、意味をなさない記号や信号に過ぎないデータが、最終的に判断や行動の理由になるウィズダムへと昇華することを表現している。
インフォマティカは、整備(データウェアハウス/レイク、アプリモダン化)、知識(顧客やサプライヤーなどビジネス上重要なデータを360度で集約・掛け合わせる)、価値(データガバナンスとプライバシー)の3つのフェイズで支援する。
このDIKWを実現するためにインフォマティカが提供するのが、データ連携、データカタログ、マスターデータ管理、データガバナンスといったデータマネジメントの要素を集めたプラットフォーム「Intelligent Data Management Cloud」である。データマネジメントに必要なすべての領域をすべて備えた、唯一無二のプラットフォーム」だと小澤氏は説明する。
ライセンス体系も一新した。新たに導入した「Informatica Processing Unit(IPU)」は利用するクラウドサービスのボリュームに応じて課金すると言うもので、「ユーザーのデータの成熟度やロードマップに合わせて伴走できるライセンス体型」(グローバル・パートナーテクニカルセールス ソリューションアーキテクト & エバンジェリストの森本卓也氏)と言う。
同社の顧客は現在、グローバルで5000社以上。5月に発表した2024年第1四半期の決算では、売上高が前年同期比6%増の3億8860万ドル、クラウドサブスクリプションのARR(年間経常収益)は同35%増の6億5300万ドルとなっている。
AIとデータマネジメント、2つのアプローチ
「データをバリューに変えていく」インフォマティカの、現在のフォーカスは言うまでもなく「AI」だ。小澤氏は「AI単体では価値は生まない。AIとデータを組み合わせることで価値につながる」とし、そのためには品質の良いデータが重要だと続ける。
ここで必要なのが「データの民主化」だという。「ビジネスを理解している人がAIにデータを組み合わせることで、AIの精度が高まり、AIを使いこなせるようになる」からだ。
そこで、Intelligent Data Management Cloudの土台にAIエンジンの「CLAIRE」を置いている。
製品について説明した森本卓也氏は、企業が生成AIで抱える課題として、データの品質、データの保護とプライバシー、AI倫理、ガバナンスなどを挙げる。こうした多様な課題があるために、同社の調査では、企業CDO(最高データ責任者)の58%は「生成AIをサポートするには『5つ以上のデータ管理ツール』が必要」だと回答している。“データ管理ツールのサイロ化”が起きているわけだ。
こうした状況に対して、森本氏は「次世代のデータマネジメントが必要」だと訴えたうえで、Intelligent Data Management Cloudは必要な機能がすべて揃い、AIを備え、マルチクラウド対応、オンプレやプライベートクラウドなどハイブリッド対応である点を強調した。
インフォマティカが目指すのは「データのスイス(Switzerland of Data)」だという。スイスは“永世中立国”として知られるが、同じように「ベンダーやクラウド、技術の垣根なくデータを活用し、データの相互運用を可能にしていくことで、ビジネスの世界に解放する」と、森本氏は説明する。
AIエンジンのCLAIREには、「AIのためのデータマネジメント」「データマネジメントのためのAI」という2つの側面がある。森本氏はそれぞれの最近機能を紹介した。
前者の「AIのためのデータマネジメント」の機能が「CLAIRE copilot」だ。これはデータマネジメントの作業を、AIを活用して自動化・効率化していくというもので、自然言語で操作ができる。「CLAIREはデータ連携のデータから学習しているため、“次の作業”を提案できる」と森本氏。
たとえば、データの中に個人情報が含まれている場合は「データウェアハウスやデータレイクに連携する前にマスキング処理してはどうか」といった提案も行ってくれるという。期待される効果として、「開発者の効率が28%改善、ETL作業のワークロードが90%削減」と森本氏は紹介した。データの品質についての提案も行ってくれるという。
後者の「データマネジメントのためのAI」では「CLAIRE GPT」を紹介した。5月に発表した新機能で、現在は英語のみの対応となる。「ChatGPT」のように「顧客に関するデータを表示して」といったプロンプトを入力し、その結果に対してさらに「概要を見せて」「データのリネージュを見せて」といった対話を進めることができる。得られたデータを継続的に表示するために、マッピングを作成し連携処理を自動生成して、週次のデータ連携サービスとしてスケジュール化するといったことも可能だという。
これをSnowflakeやDatabricksなどに対して1つのインターフェイスで行うことができる、と森本氏。「CLAIRE GPTを使うことで、誰もがデータをマネジメントしながら活用できる」(森本氏)。
CLAIRE GPTは日本語版も準備中であり、将来的には日本語でも利用できるようになる予定だ。
最後に森本氏はインフォマティカの戦略として、データマネジメントプロダクトとそれを支えるクラウドネイティブのデータマネジメントプラットフォームを今後も改善し、マルチベンダー/マルチ&ハイブリッドクラウド対応(データのスイス)としてのポジションを強固にしていくとした。