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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第75回

商業漫画にAIが使われるようになってきた

2024年08月12日 07時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

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「育児疲れの顔に見えない」

 その一方で、SNSでは「AIの顔が気持ち悪い」とか、「原作の微妙なキャラクターの表情の描き分けができていない」といった意見も出ていました。

 実際、登場人物を見てみると、男性はみんな似たような顔のイケメンで、おじいさんはやたらとリアルと全体的な情報量がバラバラの印象を受けます。主人公の顔はある程度コントロールされているため、同じような顔を出せるように専用LoRA(追加学習モデル)を作成しているのかもしれませんが、全体的に画像生成AI「Stable Diffusion v1.5(SD1.5)」特有の顔立ちの印象を受けます。同じシーンに立っているキャラクターのライティングがすべて別々というおかしなところも複数あります。別々に生成してあとで合成したと考えられるのですが、コントロール不足を感じさせるシーンは少なくありません。

 このリメイクのプロジェクトは、昨年夏頃から始まったようなので、タイミング的な課題もあって、SD1.5が選定されたと考えられます。昨年8月の「Stable Diffusion XL(SDXL)」がリリースされた直後で、現在ほど使いやすい環境が整ってもいませんでした。そのため、だいぶ古い技術を使っているなという印象を受けます。

 ストーリーの展開が始まる重要なシーンでもある「主人公のところに相談に来た育児疲れをした母親と、泣いている赤ちゃん」のコマがあるのですが、原作の白黒ではうまく表現されていた表情が、妙に艶めかしい顔になっているといった不自然さがありました。これを受けて、画像生成AIユーザーたちの間では「疲れた顔」をもっとうまく表現できるのではないかというチャレンジが広まりました。画像生成AIでは美少女ばかりが作られる傾向が多いため、疲れた顔の女性といったキャラクターが描かれることはほぼありません。そのため画像生成AIに苦手そうな画像を出力できるかという実験的な意味もあったのです。

 上原友里さんは、Dall-E3(ChatGPT)を利用して、疲れた顔のワードをかなり模索して画像を作成されています。

 漫画家のRootportさんは、Stable Diffusion拡張機能「ControlNet」の「Anytest」を使うことで、元の画像の線を活かしながら、着彩ができる可能性を提案しました。

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