業務を変えるkintoneユーザー事例 第232回
釧路の小さなITサポート会社が作った業務改善だけじゃないkintoneアプリ
業務と老いの課題に向き合う 平均年齢57歳のシニアな会社がkintoneを使ったら?
2024年07月23日 07時00分更新
札幌で開催された「kintone hive 2024」のラスト登壇は、北海道釧路市でITサポートを手がけるアシスト代表取締役の浅野葉子氏。社員は6名、平均年齢57歳という年齢高めの地方企業は、業務と老いの課題に対して、どのようにkintoneを活かしているのか。
顧客情報がバラバラ kintoneのデモにピン!と来た代表
「若くて、エネルギーあふれる渡邉さんのお話の次は、50代と60代だけの小さな会社のお話です」と挨拶したのは、御年65歳の浅野葉子氏。浅野氏は、千葉県大網白里市の出身で5人兄弟の3番目として生まれ、その後、親の転勤で北海道に移住。7歳から25歳までは札幌で暮らし、就職した北海道リコー(現:リコージャパン)ではオフコンのSEとインストラクターをやっていたという。
当時は札幌で全道の案件を担当していたので、とても出張が多かったと浅野氏。出張先の釧路市のお客さまと知り合って結婚し、その後は釧路に住んでいるという。自ら手を使って、何かを生み出すことが好きで、左胸の付けた素敵なボタンも登壇前日に付けたものだという。
1986年に旦那さんといっしょに創業した釧路市浪花町のアシストで、現在は代表取締役を務める。業務内容はサーバーや複合機などの情報機器と業務アプリの販売、サポートがメインで、オフィス家具や空間も手がける。「メンバーはたった6人しかいないんです。全員50代か、60代で、平均年齢は57歳。北斗型枠さんとは20歳以上違います(笑)」と浅野氏は語る。
そんなアシストはkintone導入前、「お客さま情報の所在がバラバラ」という課題を抱えていた。具体的には固定的な情報は販売管理システム、機器情報の一部はExcel、残りは紙のファイルとPDFで管理していたという。お客さまに導入した機械やアプリについて管理していないので、提案の前の情報収集に時間がかかり、消耗品の提供やトラブル対応も迅速に対応できなかった。もちろん、メンバーが高齢化しているという(裏)課題も大きかったという。
半年かけてアプリを作成 コメント機能きっかけで社員も利用へ
kintoneとの出会いは、前職であり、取引先でもあるリコージャパンの担当者からの「今度、kintoneを扱うことになったので、デモ見ませんか?」の電話。浅野氏もkintoneは知っていたが、「正直、ある程度の人数のツールだから、うちには関係ないだろう」と考えていた。しかし、デモを見たら、「これはうちの課題を解決できるツールかもしれない」とピン!と来てしまい、すぐに導入を決めてしまった。これが4年前の2020年9月のことだ。
気に入ってしまった手前、アプリは浅野氏が作ることにした。そのときに決めたのは「一番必要なアプリから作る」「シンプルに作る」「初期データ入力は私一人で行なう」「初期データ入力を終えてから公開する」の4つ。オフコン時代から久しぶりにアプリを作るのだから、まずは社員に役立つものを作る。そして、分散しているデータを経営者としてまとめて、初期データとしてkintoneに突っ込む。その意志が4つに込められている。
導入から半年後、浅野氏によって作られたkintoneの「取引先情報アプリ」が社員に公開された。取引先の情報はもちろん、打ち合わせ内容、操作や打ち合わせ担当者の情報、導入した機器やアプリ、導入時期、リース会社などの情報が納められている。「私はこのときかなり高揚感にあふれており、『やっとできたよ。これからは便利になるから使ってね』と言いました」と浅野氏は振り返る。
満を持して公開したアプリだったが、社員の反応は薄め。「入っている情報がExcelとあまり変わらないのに、毎回ログインするのは面倒かな?」と言われてしまった。そこで浅野氏はみんなに使ってもらえるように作戦を考えた。Excelファイルに入りきらなかった情報を紙やPDFから集めて入力し、取引先情報アプリの追加。さらにメール本文で入れられる情報をあえて情報箱アプリに格納し、メールではリンクだけを飛ばしてkintoneにアクセスさせるようにしたという。
こうした地道な取り組みで、少しずつ利用されるようになったアシスト社内のkintoneだが、大きく変わったのはコメント機能がきっかけだ。「みなさんコミュニケーションに使うことが多いと思いますが、うちではほぼ記録に使っています」と浅野氏。たとえば、顧客の問い合わせと対応についてのメモ、クレームや原因、対応のメモなどなどを誰でも見られるコメントに登録するようにした。これを契機に社員もkintoneを使い始めた。
さらに浅野氏は、このコメント機能を複合機等の修理対応記録にも使うようにした。メーカーや顧客とのやりとりをコピペして記録しているだけだったが、溜まってくると修理が頻発している機種はコメントが増えてくるのがわかった。そして、コメントが増えてきた段階で、浅野氏も適格な指示が出せるようになった。その他、顧客との重要なメールもコメントに保存するようになり、コメントはアシスト社内の備忘録になったという。
旦那さんの遺品を整理中にまたピン!ときてしまう
「50代、60代は記憶力の低下も著しいけど、kintoneを使えば対応できる」(浅野氏)。kintoneの利活用で明るい兆しが見えた矢先に起こったのが、会社をともに作った浅野氏の旦那さんの死だった。「今から2年前の話です。当時、夫はアシストの仕事のほかに別の仕事もやっており、本当に曜日・昼夜関係なく働いていました」と浅野氏は振り返る。
旦那さんの死にもめげず仕事を続ける浅野氏。ある日、遺品である血圧計を見たときに、ピンときたのが「夫は亡くなってしまったが、今いる社員にはもっと健康で、長くがんばってほしい」という想い。そこで社員みんなの血圧をとることに。そして、どうせやるならみんなで楽しく血圧をとろうということで、作ったのが「血圧記録アプリ」だ。毎日16時にアラートが鳴ると、社員が誰ともなく血圧計を持ってきて、それぞれ測り出す。その数値を見て、会話をしながら、数値を記録。月に1回レポートとして配信している。
旦那さんの死を受け、社員の健康管理に目覚めてしまった浅野氏。もはや業務ではなく、健康管理のためにアプリを作り始めてしまった浅野氏の話に、重苦しかった会場は笑いを取り戻していく。「ここにいる方はあまりピンとこないかもしれませんが、人生は長いように見えて、意外と短いです。今いる社員とだって、あと何年いっしょに仕事できるかな?と思ったら、アルバムを作りたくなりました」と語る浅野氏は、自ら撮りためておいた社員やイベントの写真をkintoneでアプリ化してしまった。
写真は思い出を呼び起こし、会話を誘発する。「あのとき食べた尾花沢のスイカ本当においしかった」「誕生日会またやりたいね」といった会話を社員同士で楽しむためにkintoneの社員アルバムを使っているという。
記憶なんてkintoneに任せればいい
kintoneを使い始めて、3年半が経った。今では就業時間を30分短縮し、残業もなくなった。「みんなマイカー通勤なので、道路が混む前に帰れると、喜ばれています」。情報が得られないというストレスから開放されたので、社員の表情が柔和になった気がするという。また、kintoneの記録を元にあらかじめトラブルの種を摘んでいるため、クレームを未然に防げるようになった。
浅野氏は「アシストが使っているアプリのほとんどは、日付とタイトルと添付ファイルが登録されているだけのシンプルなモノ。シンプルだから入力しやすいし、そこに新しい情報が入ると、使ってと言わなくてもみんな使ってくれるし、仕事もこんなに大きく変わるんだなと実感してます」と振り返る。
浅野氏のもう1つのアドバイスは、「記憶なんてkintoneに任せればいい」ということ。「記憶は悲しいけどどんどん衰えていきます。でも、記憶なんてkintoneに任せればいいじゃないですか。それよりも人生経験から来る違和感や直感が大事。むしろ熟年者の強みだと思っている」と語る。「地方の小さい会社でも、kintoneを使えば業務改善ができる」。そんなメッセージをこれから伝えていきたいと浅野氏はまとめた。
2025年3月末までの限定公開です
北海道・東北地区の代表に輝いたのは………
ここまで6社のプレゼンが終わり、kintone hive 2024 sappproのファイナリストが、参加者の投票によって決められた。見事、北海道・東北地区の代表に輝いたのは北斗型枠製作所だった。渡邉氏は、サイボウズの年次イベント「Cybozu Days」内で開催されるkintone AWARDグランプリへの出場を決めた。
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