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業務を変えるkintoneユーザー事例 第228回

福岡の不動産会社が現場第一で挑んだ、初めてのシステム外注

kintoneでのインボイス対応から生まれた「DXのファーストペンギン」

2024年07月01日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp  写真●サイボウズ

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 kintoneユーザーによる事例・ノウハウの共有イベント「kintone hive 2024 fukuoka」が開催された。

 本記事では、3番手を務めた福岡県の不動産会社、ネクステップの上野正貴氏・平井剛氏によるプレゼン「ファーストペンギンDX ~kintone活用のススメ~」をレポートする。

ネクステップ 情報システム室 上野正貴氏

停滞化していたkintone活用、再始動のきっかけはインボイス対応

 ネクステップは、1989年に創業、福岡県那珂川市で賃貸管理業を中心に展開する総合不動産会社だ。

 同社のkintoneの導入は2018年。営業管理アプリを作成したものの、「活用の広がりがないまま、停滞期が長く続いていた」と上野氏 。変化の契機となったのは、2023年10月より始まった「インボイス制度」だ。同制度への対応が社内のDXにおける“ファーストペンギン”となり、社名同様に、kintone活用も次の段階へ進むことになる。

ネクステップのkintone活用の歩み

 インボイス制度について調べた結果、同社の業務にも多数の影響が出ることが判明。特に工事領域の業務は、既存システムでの対応が難しかったという。対策を練るも、業務システムのカスタマイズは、時間的に間に合わず断念。新規のシステム構築も1500万円と高額だったため断念した。

 頭を抱えていた中、上野氏が思い当たったのが、kintone Café 福岡で出会った「kintoneのプロフェッショナル」。システム開発を手掛けるAISICの代表取締役でkintone エバンジェリストでもある久米純矢氏だ。同氏に相談したところ、納期は4か月、開発費用も新規構築の5分の1で実現できるという。結果としてAISICの協力を得て、インボイス制度に対応した「工事管理アプリ」を間に合わせることができた。

システム外注によりインボイス対応は無事間に合った

 このkintoneアプリを外注するという決断は、多くの不安がつきまとっていたという。まず、短納期で遅延が許されず、仕様も複雑でノーコードでは対応できなかった。加えて、社内にエンジニアがいないためノウハウがなく、一番の懸念点は、そもそもシステム開発を外注した経験がなかったことだ。

 「非IT系企業であれば、いずれかの問題にぶつかったことがあるのではないでしょうか。特にシステム開発の窓口になった経験があるユーザー企業の方は少ないと思います」(上野氏)

 それでも、このプロジェクトやりきったことがDXのファーストペンギン、さらにはセカンドペンギンを呼び込んだきっかけとなった。プロジェクトの立役者となったのは、最初に海に飛び込んだ勇敢なペンギンである、現場担当者である平井氏だ。

インボイス対応をきっかけにファーストペンギンが生まれた

現場リーダー平井氏の「ファーストペンギン」チャレンジ

 インボイス対応の工事管理アプリが無事完成したのには、2つの要因があったという。

 ひとつ目が、打ち合わせには必ず、現場部署のリーダーである平井氏が参加したことだ。平井氏は、施設管理課で現場一筋のベテラン、一番業務に精通するリーダーだ。平井氏を巻き込めたことで、仕様について迅速に判断でき、プロジェクトを4か月で終えられた。

 「最初に話をいただいた時、システムのことも分からず、業務も忙しくて手が一杯な状況でした。いざ参加してみると、開発会社にこれまでの知見を伝えるだけで、だんだんとアプリが出来上がってくる。不便に感じていたものが意見として反映されていき、次第に期待が高まっていきました」(平井氏)

ネクステップ 管理部 施設管理課 平井剛氏

 今回のプロジェクトで、同社が意識していたのは、「自分達のシステムは自分達でつくる」こと。この信念のもとで、より仕事が良くなるよう、実際に使えるよう仕様にこだわった。そのための第一歩として、現場のキーパーソンである平井氏に、“自分事化”してもらうことに成功した。

 2つ目の成功要因は、アジャイル開発の手法をとったことだ。「システム外注の初心者にとっても、取り組みやすくなる」と上野氏。最小機能でまずは作ってみて、実際に使ってみつかった問題点や改善点も、仕様に反映することができた。

 kintoneだからこそ、上手くいったこともあった。開発の途中でも気軽に試すことができたため、通常業務と兼任してプロジェクトを進められたこと、システムに業務を合わせるのではなく、現場の改善意見を反映してより良いアプリに近づけられたこと。そして、インボイス制度だけではなく電子帳簿保存法にも同時に対応できたことも大きかった。

社内教育や施策で「ペンギン」を増やす次のステップに

 開発会社とのプロジェクトは成功に終わったが、kintoneの活用はそこで終わらなかった。成功体験を得たことで、目に見えて変化が起こり始め、更なるDX推進につながっていく。

 まず、停滞していた社内のkintoneアプリ開発が活性化し始めた。既存システムに足りなかった要素をkintoneアプリで補い、業務やサービスをレベルアップする取り組みが始まった。実際に、施設管理課の業務システムを拡張するプロジェクトが、8割方進捗済みだ。

kintoneを活用した施設管理課の業務システムの拡張

 kintone開発を横に広げる動きも始まった。課題を抱える社員に対して、ここまで得た経験値で解決策を提示できないかという想いで、「Next Lab.」と称した勉強会を開催。

 勉強会には、4名の社員が自主的に参加し、同社では彼らのことを「セカンドペンギン」と呼んだ。このうち3名は、平井氏が所属し、kintoneアプリでの変革が進んでいる施設管理課のメンバーである。

施設管理課からは3名のセカンドペンギンを輩出

 「実際にアプリを使い始めると、社員同士で意見を出し合うようになり、部署内の連携も高まりました。kintoneで業務改善できたのはもちろん、気持ちの面でも前向きに取り組めるようになりました」(平井氏)

 ネクステップでは、この火を絶やさぬよう、業務改善インセンティブ制度も新設。平井氏もkintoneプロジェクトを通じてインセンティブを受け取ったという。今後もNext Lab.を中心にkintoneアプリを作れる人を増やしていき、それぞれの部署が中心となって、より複雑なアプリも開発会社と生み出せるような体制を築いていく。

 平井氏は、「最初のプロジェクトが始まってから1年間経ち、決して楽ではなかったですが、振り返ると前進している自分に気づきます。出来上がったアプリは、会社から与えられたものでもなく、既製品でもありません。私と上野さん、開発会社のAISICさんと血の通った打合せをして、出来上がったものです」と締めくくった。

ファーストペンギンに必要なのは「きっかけ」と「根気」

 プレゼン後にはサイボウズ 九州営業グループ福岡オフィスの大南友誉氏から質問が飛んだ。

大南氏:やはり、最初の一人目はものすごく難しくて、現場の仕事も忙しい中で兼任するのは大変だったかと思います。ファーストペンギンを作っていくために大事なことはあるでしょうか。

平井氏:まず課題感がないと、動き出すことができないです。きっかけをチャンスとして捉えるのがスタートになります。後は、業務改善をしてもすぐ楽にはならないので、覚悟を持って根気よく取り組むことも大事かと思います。我々は、kintoneの性質上、形になっているものを目の前で見られたのが大きかったです。

プレゼン後のアフタートークの様子

大南氏:開発パートナーと一緒にプロジェクトを進める際の秘訣はありますでしょうか。

上野氏:とにかく現場が使いやすいかを第一として、システム的に意見が分かれるところも、時間をかけて議論しました。今回はパートナーから、kintoneのノウハウを用いた、様々なフィードバックをいただけたのが、非常にありがたかったです。

大南氏:膝を突き合わせて伴走してくれるパートナーの選定というのも、kintone開発の成功の鍵ですね。

 

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