IBM「Granite」OSS化や「InstructLab」「RHEL AI」「OpenShift AI」など、Red Hat Summit 2024で
レッドハット、生成AI時代のコミュニティ貢献と製品アップデートを発表
2024年06月10日 16時00分更新
レッドハットが2024年5月30日、米国で開催された年次グローバルイベント「Red Hat Summit 2024」の内容を、日本法人の各製品担当者が解説する説明会を実施した。
Red Hat Summit 2024は、2024年5月6日~9日に米コロラド州デンバーで開催された。注目のAI/生成AIに関連するレッドハットの取り組みや製品アップデートのほか、IT運用の自動化、エッジコンピューティング、車載などの幅広い領域における最新情報や導入事例が紹介された。
AIオープンソースコミュニティへの貢献方針と「InstructLab」の発表
Red Hat Summit 2024で注目を集めたのが、同社のAI戦略である。創業以来オープンソーステクノロジーの進化と併走してきた同社がAI分野においてどのように貢献するのか、またオープンソースコミュニティで生まれたAIをレッドハット製品にどう組み込むのか、という2つの視点から説明がなされた。
まず前者のオープンソースAIへの貢献については、IBM Researchとの協働によるLLM「Granite」基盤モデルのオープンソース化(Hugging Face上でApache 2.0ライセンスを適用し公開)、新発表の「InstructLab」によるオープンなLLM開発モデルの公開を通じて、オープンソースのエコシステムを支援していくことを強調した。
レッドハット CEOのマット・ヒックス氏は、初日の基調講演で、現在のLLMコミュニティでは、モデル自体は公開されていてもコントリビュートやファインチューニングが一部の人に限定されている点を指摘。「レッドハットは、この課題を解決し、誰もが貢献できる環境に変えていく」と宣言した。
InstructLabは、コントリビューターが持つスキルや知識をGitHub上のリポジトリに追加して、それを基に新たな学習データの生成やLLMのファインチューニングを実行するという、新たなLLM開発のアプローチ。追加されたデータは、Teacher modelが拡張やフィルタリングを行ったうえで、事前学習済みのLLMに追加学習が行われる。
レッドハットではInstructLabを通じて、これまでは専門性を持つ一部のデータサイエンティストにしかできなかったファインチューニングのハードルを引き下げ、「AIの民主化」を実現するとアピールしている。また、ローカルPC上での生成AI活用アプリケーションの開発を容易にするツールセットを「Podman Desktop」の拡張機能として提供し、InstructLabを使った生成AIアプリの開発を加速できることも紹介された。
RHELやOpenShiftにも生成AI機能「LightSpeed」を適用
一方、後者のレッドハット製品へのAIの組み込みについては、AIを活用した複数のコア製品強化を発表している。
まずは「Red Hat LightSpeed」だ。これは、自然言語の指示によって生成AIがAnsibleのコードを自動生成する「Ansible LightSpeed」(昨年一般提供を開始)の仕組みを、「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」や「Red Hat OpenShift」にも拡張するというもの。これにより、技術的な利用ハードルを引き下げ、開発者や運用者の生産性向上に寄与していくという。
また、生成AI開発/運用のためのプラットフォームとして「Red Hat OpenShift AI」を新たに発表。加えて「RHEL AI」も発表し、RHELにおいてもAI開発支援機能を追加していく。RHEL AIは、生成AIアプリケーションのシームレスな開発、テスト、実行を行うためのプラットフォームとなる(現在はデベロッパープレビューとして公開)。なおRHELでは、新たなリリースとして「RHEL 8.10/9.4」も発表されている。RHEL 8.10は、RHEL 8.xにおける最終マイナーリリース更新となる。
それぞれの新製品の位置付けについて、レッドハット ソリューションアーキテクトの石川純平氏は、「InstructLabはコミュニティプロジェクトであり、デスクトップ環境で小規模なデータセットとLLMを使った実験が可能になる。ここで実験したモデルを商用環境(本番環境)に移行したい場合に、単一サーバー上で活用できるRHEL AI、クラスタのスケーラビリティを持ったOpenShift AIが利用できる」と説明する。
またレッドハット シニアソリューションアーキテクトの橋本賢弥氏は、レッドハットの基本姿勢について、あらためて次のように述べた。
「レッドハットは、イノベーションがオープンコミュニティから生まれることを信じている。ただしそれ(イノベーション)を、エンタープライズユーザーが信頼して利用できるようにするためには、オープンコミュニティの健全性維持や継続的発展を支援すること、顧客(エンタープライズユーザー)のニーズをコミュニティにフィードバックできる仕組みを提供することが大切。そのために、レッドハットではソフトウェアとハードウェアとの統合や動作確認を行い、安定した品質、ライフサイクルをサポートするための製品を提供している」(橋本氏)
橋本氏はこれに続けて、レッドハットは生成AIにおいても同様の考え方であり、RHEL AIの発表はこうした狙いに基づくものだと説明した。「お客様、パートナー、コミュニティの架け橋になることがレッドハットの役割だ」(橋本氏)。
なお今回、AI分野におけるパートナーとのコラボレーション強化も発表している。NVIDIAやインテル、AMDのほか、Stability AIやElastic、Run:aiといった企業のソリューションとOpenShift AIの組み合わせ提案により、多様なニーズに対応できるようになるという。