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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第775回

安定した転送速度を確保できたSCSI 消え去ったI/F史

2024年06月10日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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転送速度が倍増したSCSI-2

 SCSI-2では、SCSI-1から以下の3つが変更された。

  • HDD以外のデバイスを接続するための拡張が定義
  • 信号速度を10MHzに倍増
  • バス幅を16bitおよび32bitに拡張

 先にプリンターやスキャナー、MOやCD-Rドライブなどの話をしたが、こうしたものが接続できるようになったのはSCSI-2からである。転送速度も倍増したが、それに加えて16bitおよび32bit幅の転送オプションも定義された。ただ16bitの方は、ピン数を68ピンにすることで解決したが、32bit幅はその68ピンのコネクターをダブルで装備するという力業となり、さすがに需要が皆無であったため現実問題としてまったく普及しなかった。

左が68ピンのコネクター、右はその68ピン用のターミネーター

 SCSI-2準拠のデバイスは、50ピンがFast SCSI、68ピンがFast Wide SCSIと呼ばれている。ちなみに32bit幅のものは32bit Fast Wide SCSIと呼ばれるはずだったそうだ。なお16bit幅のものについては、LUNが4bitに拡張され、最大16デバイス(ホストコントローラー含む)が1本のバスに共存できるようになった。

 さて、ここまではSCSIの標準化はANSIのX3委員会が行なってきたが、このあとSCSIの管理はINCITS(情報技術規格国際委員会:InterNational Committee on Information Technology Standards)のT10 Technical Committee(TC)に移管される。

 INCITSはANSIの諮問機関であり、もともとは1961年に設立されたASC(Accredited Standards Committee) X3である。これがだんだん名前を変え、最終的にはINCITSになったわけだが、ANSIのX3委員会もここに含まれることになったというのがより正確に近い(X3以外にも統合されているので、X3がそのままINCITSになったというのはあまり正しくないだろう)。

 INCITSにはT10以外にもT11(Fiber ChannelやHIPPI/IPI)やT13(ATA/ATAPI/Serial ATA)といった別のTCも存在する。そのT10 TCの下でSCSIのアーキテクチャーは下の画像のように定義された。

SCSI-3はものすごく広範の規定が含まれており、しかも現在も使われているものが多い。とは言えIEEE 1394とか最近はFiber Channelもだいぶ消えて来た感も強い

 ここでParallel Busの物理プロトコルは、左下のSCSI Parallel Interface(SPI-2,SPI-5)でのみ規定され、その上位プロトコルに関してはそれぞれ別に仕様が定義されるようになった。

 そのSCSI-3では、転送速度が20MHz、40MHz、40MHz DDR、80MHz DDRの4種類が定義され、バス幅は8bitあるいは16bitということで、20~320MB/秒まで帯域が拡大された。もっともこれ、まとめて発表されたわけではない。信号速度20MHzのUltra SCSIは1995年、40MHzのUltra 2 SCSIは1998年、40MHz DDRのUltra 160は1999年、80MHz DDRのUltra 320は2001年にリリースされる。

 そのUltra 320が最後のパラレルSCSIの規格となってしまった。理由は、他に有力な規格が次々に出てきたからだ。まずHDD用途としては、コンシューマー向けはIDEが普及し始めると、SCSI HDDよりも価格が安いということでユーザーはそちらに流れるようになり、CD-ROMやDVD-ROMなどの光学ドライブ、MOなどもこれに追従した。

 IDEに比べるとSCSIは接続台数が多い(IDEは2chで最大4台、SCSIは1本で最大7台)というメリットはあるものの、HDDの大容量化にともない、多数のドライブを接続するというニーズそのものが次第に減り始めたのも一因だろう。スキャナーやプリンターは早いタイミングでUSBへの移行を始め、USB 2.0が2000年に登場すると、Fast SCSIより高速ということもあってほぼ移行は決定的となった。

 また外部ドライブ接続用としてもUSB 2.0は十分に高速(Macintoshは先にIEEE 1394に移行したという話は連載771回で説明済み)で、しかも手軽である。LUNを設定する必要もないし、通電したまま着脱できるからだ。

 そもそもHDDの転送速度はそこまで高速ではない。必然的にSCSIは企業向け、それも10000rpmや12000rpmといった高回転、小径プラッター(大径にするとシーク時間が増えるのと、回転数を上げると遠心力が強くなる関係で強度的に厳しくなる)のHDDをたくさん(本当にラック1台を埋め尽くすほどの数を)並べてRAIDを組む用途向け、という感じになってきた。

 そしてIDEがSATAに移行するのとほぼ同時期に、SCSIもSAS(Serial Attached SCSI)に移行をすることになり、パラレルSCSIは2000年代後半にはほぼ市場から消えることになった。2005年にはもう普通にSASのHDDが市場で販売されていたし、ゼロからはじめる最新サーバー選びの記事を見ると2010年の時点ですでにパラレルSCSIは過去の規格になっていたようだ。

 ちなみに連載379回の最後で、AdaptecがMicrosemiに買収されたことに触れたが、そのMicrosemiもその後Microchip Technologyに買収され、それでも辛うじてまだAdaptecの名前を冠する製品が発売されていた。ただ当然ながらSAS/SATAのみで、もうパラレルSCSI対応製品は影も形もない。

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