日本のAI利用が停滞している理由は? AI活用の最新グローバル調査の解説も
「Slack AI」の日本上陸は4月17日に 会話やチャットをAI活用
2024年03月29日 10時15分更新
Slackは、2024年3月28日、同社のSlackに生成AIをネイティブ統合した「Slack AI」に関する説明会を開催。Slack AIの日本語版の提供開始を4月17日に予定していることを発表した。
冒頭、セールスフォース・ジャパンの製品統括部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアディレクターである山瀬浩明氏は、「Slackは単にコラボレーションツールというだけではなく、自動化やAIの仕組みも組み込まれている」と強調。既に、毎日300万のワークフローで自動化が実行され、2023年に開発されたAIを使用したカスタムアプリの数は1万3000個になるという。
「業務上でSlackを使えば使うほどデータが蓄積され、ビジネスを加速するための自動化のプロセスも進み、更にはAIの潜在能力も高まる」と山瀬氏。間もなく登場するSlack AIは、Slackを業務で利用する中で蓄積された非構造データを活用して、さらに生産性を向上させる生成AI機能という位置づけだ。
“業務で使える”Slack AI シンプルで使う場面が多い3つの機能
山瀬氏は、企業の生成AI活用における課題として、プロンプト(AIに対する命令文)を書くスキルに応じて、得られる結果にバラツキが出てしまうことを挙げる。一方で、Slack AIは基本的にマウス操作だけで生成AI機能が利用でき、「プロンプトを書く必要は一切ない」と説明する。
また、Slack AIが参照するデータは、Slack上に蓄積された会話やチャット、ファイルやドキュメントといった自社内のコラボレーションデータとなる。そのため、一般的なナレッジ(インターネット上のテキストなど)だけを参照する生成AIとは異なり「業務で使える」ことが特徴だという。加えて、独自の大規模言語モデル(LLM)はSlackのデータセンターで運用されているため、ユーザーのコラボレーションデータが外部に流出する心配はなく、LLMの学習に使用されることもない。
Slack AIでは、シンプルながら使う場面の多い3つの機能を提供する。
ひとつ目は「回答の検索」。蓄積された非構造化データを活用する上で、要となる機能だ。従来のキーワード検索と異なり、自然言語での対話形式で回答や要約が得られる。ポイントとなるのは、会話データなどの参照元が容易に把握できる点だといい、「誰の情報かで、コンテンツの信頼性が変わる。検索結果の確からしさを直観で判断できる」と山瀬氏。
さらに、参加していないチャンネルの情報も、オープンな設定であれば回答に反映され、社内全体のナレッジを活かした良質な解決策を提示する。検索するユーザーがアクセス可能なデータのみを参照するため、情報漏えいやプライバシー侵害の心配をすることもない。
2つ目は「チャンネルの要約」だ。チャネルのSlack AIボタンをクリックし、未読や期間などの対象を選択するだけで、チャンネルのハイライトを要約してくれる。仕事を離れていた際のキャッチアップや対象チャネルの最新情報の把握などを短期間で行なえる。
3つ目は「スレッドの要約」で、こちらはスレッド単位での要約機能となる。長いスレッドであってもワンクリックで背景や経緯、決定事項、次のステップなどを確認できる。
これらSlack AIの機能は、2月14日より英語版を展開しており、4月17日には日本語を含む多言語対応を実施する予定だ。日本語版は、英語版と同様に「Enterprise Grid」プランのユーザーが利用できる見込みであり、具体的な追加費用やその他の料金体系はまだ決定していないという。
日本のAI活用の鍵は“ガイドラインの明確化”
また説明会では、Slackのユーザーインターフェース/ユーザー エクスペリエンス担当SVPであるクリスティーナ・ジャンザー(Christina Janzer)氏より、業務でのAI活用に関する最新調査について解説された。調査は、米国、オーストラリア、フランス、ドイツ、日本、英国の10281人のデスクワーカー(経営幹部などもを含む)を対象に、2024年1月に実施されている。
調査では、「業務でAIを利用したことがある」デスクワーカーは4人に1人という結果になった。2023年9年の調査(5人に1人)から24%増加している。日本にフォーカスすると、AIを利用したことがあるデスクワーカーは5人に1人と、調査対象国では最も低い結果だった。「注目すべきは、日本のAI利用が2023年9月から19%“減って”いること」とジャンザー氏。
ただし、日本のデスクワーカーがAIに対してネガティブかというと、それは違うという。AIや自動化の業務適用を肯定的に受け入れているデスクワーカーは、グローバルの42%に対して、日本は53%であり、対象国で一番高かった。Slackでは、このような結果を、日本ではAI利用を促進する機会があると捉えている。
一方で、経営幹部のAI導入の意識をみてみると、グローバルの81%が、AIツール導入に関して緊急性を感じている。日本の経営幹部は87%であり、ここでも対象国で最も高い。「日本の経営幹部も緊急性を感じているにも関わらず、実際の利用につながっていないのが興味深い」とジャンザー氏。
デスクワーカーに、自社のAI活用に対するスタンスを聞いてみると、43%が「ガイダンスを受けていない」と回答。さらに、日本は対象国で最も高い49%となった。ここからジャンザー氏は、「新しいテクノロジーであるAIに慎重になることは理解できるが、これでは従業員は、AIを業務に使ってよいか、どう使ったらよいか、どのツールを利用すればよいかが分からない。だから利用が進んでいないのではないか」と分析する。
それを裏付けるように、自社がAIのガイドラインを提示しているデスクワーカーは、ガイドラインがないデスクワーカーと比べて、AIツールの利用経験が6倍高かったという。
これらの調査結果を受けてジャンザー氏は3つの提言をする。ひとつ目は、「ガイドラインの明確化」だ。使用方法や推奨するツール、データの扱いなどをガイドラインとして明確化することで、AIの業務利用は加速するという。
2つ目は、「実験を受け入れる」ことだ。AIはすべての業務で画一的に活用できるわけではないという。従業員にAIを試せる環境であると感じてもらい、AIへの理解を深めて業務にどう取り入れるかを実験してもらう。
3つ目は、「相互学習やチーム学習の推進」だ。同僚からAIのメリットを知ること、つまり、役職が近い従業員の成功体験が重要だとジャンザー氏。「実際AIを利用して、その経験をチーム全体で共有する。ひとつの経験から他の人たちも学ぶことができる」と語った。