リフォームをはじめ空間デザインを手がける三井デザインテックは、住宅リフォーム事業において約10年稼働していた営業支援システム(SFA)をkintoneにリプレース。基幹システムと同時にリプレースというハードなプロジェクトを富士通Japanとともに乗り越えた。三井デザインテックでkintone導入に携わった山内裕真氏と富士通Japanでkintone開発を手がけた乾健二氏、増田露美氏に話を聞いた。
基幹システムと営業支援システムを同時に刷新 富士通Japanがリード
三井デザインテックは、三井不動産グループで空間デザインを担う会社。マンション・戸建住宅などのリフォーム、事業用建物のコンバージョン・リニューアル、家具・インテリアの企画提案・商品販売を行なう「ライフスタイル事業本部」とオフィス・ホテルなどの空間・内装の企画・デザイン・設計・施工を行なう「スペースデザイン事業本部」の2つの組織があり、今回取材した山内裕真氏は、ライフスタイル事業本部の業務推進室に所属する。業務推進室は事業本部のラインスタッフ部門であり、山内氏はシステムを担当するグループに所属する。
今回のプロジェクトの領域としては、ライフスタイル事業本部の中でもマンション・戸建住宅などのリフォーム事業が該当する。特筆すべき点は、基幹システムと営業支援システムのリプレースを同時に行なった点だ。そのため、営業支援システムの構築は、基幹システムとの連携も前提で行なわれた。プロジェクトも、営業支援システムの導入や開発は業務推進室がリードしつつ、基幹システムとの連携に関しては全社のIT領域部門を管轄する情報システム部門と連携するという形で進められた。
リプレースされることになった旧営業支援システムは2012年から10年以上利用し、製品のサポートも終了することになった。老朽化し、機能が不足していたとともに、データの不整合も生産性を落としていたという。「同じお客さまのデータが重複していたり、登録されている項目やデータの入力精度にも担当者によってばらつきがあり、分析に向かない状態でした」と山内氏は振り返る。また、営業支援システムとスケジューラーを別々に登録しなければならないという非効率性もあった。
こうした背景から営業支援システムの製品およびベンダー選定に入ったのが2021年7月となる。最終的には4社からの提案があり、旧製品のバージョンアップや他社製品、そしてkintoneも2社のベンダー選択があったが、半年後の12月には富士通Japanによるkintone導入に決定した。
製品の選定に関しては、グループ会社のすまいサポート社がkintone導入を先行させていたこともあり、コスト面と連携のメリットを考慮した結果kintoneになった。また、ベンダー選定に関しては、kintoneと連携を行なう基幹システムの開発ベンダーとして富士通が決まっていたため、同グループの富士通Japanとなった。「基幹システムとkintoneとの連携を考えると、両方とも富士通グループにお願いした方がメリットにつながると判断しました」と山内氏は語る。
基幹システムとkintoneが連携 案件情報が一目でみられるように
kintoneアプリの開発は富士通Japanに委託した。三井デザインテックでの要件定義は、現場メンバーやグループ長に集まってもらいヒアリングや座談会を行なった上、基本は業務推進室が担当した。とはいえ、システム開発での知見が乏しいということもあり、ベンダーとの交渉の間に入る立場としてコンサルティング会社も参加。情報システム部門のメンバーも参加した大型プロジェクトとなったが、ベンダーとコンサルティング会社のメンバーもきちんと意思疎通ができていたため、スムーズで短期間の開発につながったという。
富士通Japanとしては、三井デザインテックが利用していた営業支援システムをベースに、kintoneの特徴を活かしながら開発を行なった。富士通Japanの乾健二氏は、「課題がデータだったので、『きれいなデータを入れる基盤』を目指しました。データの不整合を防ぐためのチェック機能を入れたり、“面倒だから入力しない”とならない、使い勝手のよさを目指しました」と語る。
開発自体は他のSI案件と基本的には同じように進めたが、一点だけ異なったのはkintoneの機能を拡張するプラグインの存在。今回の事例では、カレンダーの二重登録を防ぐためのプラグインを導入しているが、kintone特有の仕組みであり、コストがかかる話でもあるので、ユーザーの納得感が必要だった。
これに関しては、kintoneの有資格者である富士通Japanの増田露美氏がデモを交えて、ユーザー側が求める使い勝手と齟齬が出ないよう注意を払ったという。「kintoneやプラグインでは、できることももちろんですが、制限事項もきちんとお伝えしなければなりません。今回はカスタマイズも加えているので、項目を増やしすぎるとプログラムに影響が出ます。できること、できないことの伝え方が難しかったです」(増田氏)。
懸案である基幹システムとの連携に関しては、kintoneに登録された顧客と案件の情報が基幹システムに登録されるようになっている。登録された情報を元に見積もりが可能になり、受注、売上のタイミングでそれぞれの情報がkintoneへ返ってくるようになっている。「基幹システムのデータが更新されると、kintoneにある案件ステータスも変わります。他のシステムをのぞかなくても、kintoneを見れば一目で案件の状況がわかるようになったのは大きいと思います」(山内氏)。
カットオーバーは2023年5月。一度のスケジュール調整を挟んだが、大きな遅延はなかった。山内氏は「今回はスケジュール的にもかなりタイトでしたし、なにしろkintone開発だけではなく、基幹システムのリプレースと同時だったので、富士通Japanさんにはスケジュール管理や数多くの調整でご苦労をかけました」とコメントする。
できる前提で相談に応えてくれたのがありがたかった
現在kintoneは同社のライフスタイル事業本部リフォーム事業の営業支援システムとして利用されており、ライセンス数は250程度。利用形態は部門によってさまざまでWebサイトの運営やイベントの企画立案を行なう営業推進室は情報獲得施策や販売促進に活用、業務推進室では実績集計と報告などに活用されている。現場部門では、案件や受注の管理など一般的な営業・顧客管理システムとして用いられている。
kintone化でもっとも効果が出ているのは、同じkintoneを利用しているグループ会社のすまいサポート社との連携だ。三井デザインテックは大規模なリフォーム、すまいサポート社は中小規模のリフォームを得意としており、今までも両社で案件情報を共有していたが、あくまでメールベースだった。「Excelにお客さま名やリフォーム内容を記入し、セキュアなメールで送っていたのですが、結局はkintoneへの転記が必要でした」と山内氏は振り返る。しかし、今回のkintone化でゲストスペースを活用できるので、連携は圧倒的に楽になったという。「極端な話、ボタン一つで相手方にリフォーム情報を共有できます。先方は通知が来たら、その内容を取り込めば済みます」と山内氏は語る。
また、今回のシステムは、運用開始後の画面の改良を三井デザインテック自身で行なえる点が特筆すべきポイントだ。これは「内製化は敷居が高いが、改良はなるべく自らやりたい」というクライアントの声があったため。このニーズに応えるべく、富士通Japanでも変更しても問題ない環境、触ってはいけない環境をスペース単位で分け、適切なアクセス制限も行なったという。
変更に関しては、基本的に富士通Japanに相談し、定義書の内容もきちんと同期を図っているとのこと。「画面が変更できるので、なるべくお客さまの要望通り触ってもらいたいと思う反面、制限をかけなければならないところもあったので、そこらへんは協議し悩みながら進めました」と乾氏は語る。
こうして安全な環境を用意した上で、プログラミングの知識やスキルが必要ない、項目名の変更や入力制限などは、富士通Japanと相談の上、業務推進室のメンバーが自ら行なっている。山内氏は、「ユーザーからの要望にはいち早く応えてあげたい。こうした要望に対して、スピーディに応えられるのはよかったと思います。CMのように簡単に画面が作れるというのも事実だと思いました」と語る。
kintoneについて知識やノウハウはなかったが、富士通Japanのサポートがあったため、不安や疑問もスピーディに解決できた。山内氏は、「kintoneに詳しい増田さんのような方がいたので、困ったときは相談させてもらいました。無茶ぶりもあったかもしれませんが、『できません』ではなく、『こうすればできるかもしれません』といった具合で、一つ一つ丁寧に対応していただいたので、とてもありがたかったです」と評価も高い。
ユーザー浸透と他システムへの連携 データ活用もやりきりたい
カットオーバーから約半年が経過したが、富士通Japanには追加開発の依頼を出しており、定期的にミーティングを持っている。3月には追加開発が終わり、今後はより利活用のフェーズに入る。
今後の課題は現場ユーザーの巻き込み。なにしろ十年に渡って使ってきた営業支援システムに加え、基幹システムまで変えてしまったので、現場がかなり混乱してしまったのは事実だという。そのため、直近はkintoneに変わったメリットをアピールし、ユーザーにもメリットを実感してもらう必要があるという。
とはいえ、kintoneを評価し、意見を出してくれる社員も少しずつ増えている。また、管理部門やCS推進室から「こんな用途でkintoneを使えないか?」と相談されることも出てきた。kintoneを活用するための機運は確実に醸成されつつある。
もう1つの課題は、社内で利用しているマーケティングオートメーションとkintoneの連携が欠けているという点。現在はkintoneから吐き出した顧客データリストを手動でMAシステムにアップロードして、メールを配信するといったピンポイントでの活用にとどまっているため、来期は両者を連携させ、自動化につなげたいという。
総じて導入から半年経って、ようやく落ち着いてきたこともあり、これからkintoneの活用と定着を進めていくという段階。「溜まってきたデータを分析して、業務効率化や売上に貢献できるようにしていく。ユーザーに便利さを実感してもらって、初めて導入成功と言えるので、そこはしっかりやりきりたいですね」と山内氏。今後のkintoneの利用拡大に向けて、想いを新たにしているという。