◆徹底的に走り込んで鍛えるがゆえに短命になることも
徹底的に走りこむModuloの開発スタイル。それゆえ開発には長い歳月がかかります。スタートは「市販車が出た頃」から。Hondaのグループ会社なのだから、純正アクセサリーのように新車開発時に平行して開発してほしいのですが、湯沢さんによると「実際の市販車で一般道を走ることから始まります。そこから問題点を見つけて開発の方向性が決まり、パーツを作り、徹底的にテストを繰り返します」。
風洞(空力実験)を回したりもするそうですが、あくまでも実走がメイン。規模こそ違いますが、街のスピードショップに近いものがあります。気づけば1~2年という月日が流れ、結果「後出しジャンケン」になってしまうのです。それゆえ短命モデルになることもしばしばで、FIT Modulo Xに至っては、FITが登場した1年半後の2021年6月に誕生するも、翌年10月にFITがマイナーチェンジしたため、販売期間はわずか1年と4ヵ月でした。
またModulo Xは、量販車よりも高い価格設定になりがち。S660 Modulo Xに至っては300万円近い価格で多くの人を驚かせました。販売期間が短く、新車販売価格も高額。結果、販売台数は少ないことは想像に難しくありません。それは中古市場にも表れており、本稿で紹介するN BOX Modulo Xは、ベースモデルである第1世代N BOX CUSTOMの中古市場価格が70万円前後であるのに対して、N BOX Modulo Xは110万円前後。S660に至ってはノーマルグレードが160万円前後に対し、S660 Modulo Xは新車時と変わらない300万円前後で取引されています。
中古価格は、人気のバロメータという側面も部分がありますので、Modulo Xは「人気グレード」といえるでしょう。
◆Modulo Xの第1号「N BOX Modulo X」
それでは、Modulo Xの第1号であるN BOX Modulo Xをご紹介しましょう。ベースとなるのは初代N BOX CUSTOM(初代はN-BOXではなく、N BOXという表記でした)。フロントドアのデカール以外、パッと見たところベースモデルと違いがないように見えます。ヘッドライトとポジションランプ付近のパネルが、CUSTOMはクローム調メッキだった「らしい」のですが、Modulo Xはボディー同色。「らしい」というのは、この記事を作成するにあたり、ネットでN BOX CUSTOMの写真を見ていたのですが、Modulo Xとは異なるボディー同色のN BOX CUSTOMがあったから。
まずフロント部分に目を向けると、フロントグリル、エアロバンパーがModulo X専用パーツへと変更されています。中でも注目はフロントバンパーで、よくみると空気を横やシャシー下面へ積極的に流す工夫がなされています。これはのちに「実行空力」という考えへと進化していきます。空力的に効果があり、それでいてカッコいい「効くエアロ」は、この当時から行なわれていました。
Modulo X専用の15インチアルミホイールは、形状はN BOX CUSTOMと同じように見えるのですが、ブラックパール塗装へと変更。「クルマのシャシー剛性に合わせたホイール」はS660以降の話。まだ普通のホイールです。
驚いたのはブレーキディスクローターで、なんとベンチレーテッドタイプ! さらに中央部が赤く塗られてカッコよさがアップしています。このあたりに、当時の湯沢さんのこだわりが見え隠れしているように感じます。ちなみにリアはドラムブレーキで、これはノーマルと同じ。
Modulo X専用ローダウンサスペンション。当時から「赤いバネと白いダンパー」でした。ちなみに車高は15mmダウンとのこと。
タイヤそのものは当時のN BOX CUSTOMと同じなのですが、驚いたのは空気圧。FFなのにリアの方が高いのです! これは「クルマが曲がりすぎるから、空気圧で調整したのでは?」と広報担当者の弁。
室内の変更点は、インパネと本革巻のステアリングホイールとセレクトレバーが専用品になった程度。インパネには青色LEDが使われており、その青に合わせて、ステアリングホイールとセレクトレバーのステッチも青になっていました。ちなみに当時、専用シートはおごられていないようです。
10年という月日の流れを強く感じさせるのが、室内の各装備。クルーズコントロールは、ハンドル支援はおろか前走車追従式でもない、ただ一定の速度を維持するというもの。ルームミラー付近にはSOSボタンもなければ、カメラもないのでとてもスッキリしています。イマドキはType-Cじゃないと時代遅れと感じてしまうUSB充電ポートも、そもそもないというありさま。
そして今のHonda車は右手側にエンジンスタートボタンがあるのですが、当時その場所にあるのはECONと書かれた緑の走行モード切替ボタン。パーキングブレーキもフット式……。最近のクルマに慣れてしまった身には、軽いめまいを起こしてしまうことでしょう。事実、起こしました。
その一方で、ナビは2023年製の8インチ。ナビは製造完了後、ある一定の期間を過ぎると「サポート対象外」になります。この時に困るのが「マップが更新されない」ことです。ホンダアクセスは過去のN-BOXユーザー向けに新型のナビをリリースしていたのです。
助手席ダッシュボードには、土屋圭市さんのサインが描かれていました。これは、このクルマだけのもので、市販車にはありません。
グレードは「G」と「Gターボパッケージ」の2種類を展開。今回試乗したのは、Gターボパッケージで、ノーマルのN BOX CUSTOMと同じ「S07A型」と呼ばれる、排気量658㏄の直3DOHCターボで、最高出力は64PS、最大トルクは10.6kgf・mを発生します。このエンジンはN BOX誕生と同時に生まれたもので、S660も同じエンジンを搭載していました(ターボだけ異なります)。
当時の価格は、ノンターボモデル(G)が178万円、ターボモデル(Gターボパッケージ)が188万円。ちなみにN BOX CUSTOMの同グレードが、G・Lパッケージ(パワースライドドア付きモデル)で155万円、Gターボパッケージで166万円。ざっくり20万円アップという価格設定でした。

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