まとめ:生成AIを利用する企業、個人がこれから検討すべきこと
まとめとして高橋氏は、文化庁の素案もふまえながら、次のように提言した。
「AI生成物における著作物性成立と著作権侵害成否は、完全に見通すことができない。そのため、企業や個人などの生成AIの利用者は、リスク管理を『程度問題』として考える必要がある。また、検討課題として、そもそも著作権を発生させる必要があるのかという点や、組織外利用や利益を創出する利用、継続的利用をする際には、予想外に著作権を侵害してしまった場合であってもダメージが大きくなるため、こうした用途に生成AIを利用すべきかどうかという点も考えなくてはならない」
また高橋氏は、「どのAI(ツール)を使うのか」という判断も大切だと述べた。ツールによっては、著作権侵害を引き起こしにくいような技術手段を導入しているものもある。こうしたツールを使いつつ、さらに「著作権侵害しにくいプロンプト」の採用、「アイデア出しにのみ利用する」といった制作上の制限、文章であれば個性的な表現部分が既存の著作物に含まれるものでないかの確認、といった対応が必要だと提案した。
さらに、人間が創作すべき部分や、創作にあたってクリエイターが留意すべきポイントについて、次のようにまとめた。
「著作権を発生させなければならないコアの部分は、人間が直接創作する方が安全だと言わざるを得ない。人間創作の重要性はこれからも残る。また、職務著作や制作委託、共同制作などを行う場合には、生成AIの利用可否、使用する生成AIの種類、創作物の制作方法などをあらかじめ合意しておく必要がある。合意内容は詳細であるほどよい。生成AIを使ってもいいのか、使ってほしくないのかといったといったことを決めておかないと、内部や関係者間において紛争につながる可能性がある。これからは、生成AIの利用の可否について事前の合意が必要になる」
日本では著作権法の改正は予定されておらず、基本的には司法決着を想定している。だが、司法判断には時間がかかるため、まずは新たな技術を活用した対応が重要になると高橋氏は指摘する。また、著作権法では生成AIで発生する問題点をカバーしにくく、解決策は、詐称や詐欺、肖像権、パブリシティ権、不正行為などに移っていくと予測しているという。
なお参考として、米国および中国における、生成AIの生成物に対する著作権判断の例が報告された。高橋氏は「各国の判断は横並びではなく、今後の判断基準が変わる可能性もある。生成物の海外での展開を考えるのではあれば、各国の動向を見ておく必要がある」と提案した。
* * *
なお、日本弁理士会では、「生成AI時代に適応した弁理士業務の検討」に取り組んでおり、2023年度は、生成AIに関する情報を広く収集するとともに、生成AIの諸問題に関するものや、AIツールの活用による業務の効率化を紹介する研修を実施。生成AIが持つリスクを踏まえ、会員に向けた利用に関するガイドラインの策定を進める考えを示している。さらに、諸外国の関連機関との交流においても、生成AIに関する意見交換を行っているという。
日本弁理士会 会長の鈴木一永氏は、2024年の方針について説明。「日本弁理士会では、将来の安定性を確保するための礎を築くことを目指している。能登半島地震に関しては、被災した人たちの知財財産が無になることがないように支援し、復興活動においても知財が役に立つと考えている」などとした。
また、知的財産立国を目指す日本においては、弁理士の育成が重要であるとの認識をもとに、学習動画の提供や、小中高校、大学での知的財産出張授業の開催、弁理士による指導機会の継続、キッザニアに「弁理士事務所パビリオン」を新設し、商標登録を体験できるようにする計画を明らかにした。