まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第100回
〈後編〉ダンデライオン西川代表、Sansan西村GMに聞く
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする
2024年02月11日 15時00分更新
「ショートカットできた」という体感を社内に広めたい
ダンデライオン西川 現在は私や法務担当が顧問弁護士と打ち合わせする際に過去の契約書を確認したりといった使い方が主で、案件ベースの打ち合わせで担当者レベルが契約書を読みに行くかというと、まだそこまで普及できていないのが実情です。
ただ、最近触っていて気づいたのは、たとえば契約書の内容を確認したいとき、以前なら紙の契約書を全部読みながら「あの条項はどこだっけ?」と探したり、法務に聞いて答えをもらっていたりしたのですが、今は検索するだけで答えが得られるわけです。これはずいぶんショートカットできているな、と。
この体感を社内に普及させることが必要なんだな……というのは、ここでお話ししながらあらためて思いました。
まつもと 西村さんが挙げたトラブルの1つとして「権利超過」があります。契約において、権利をそこまで与えていない/譲っていないにもかかわらず、先方が解釈を間違えて、あるいは故意にその権利を利用してしまっているというケースだと思います。
翻って、ダンデライオンさんで著作権をホールドしてビジネスする場合、制作時点の契約ではなく、完成して活用するという段階で契約の話になるはずですが、よりステータスを追いかけることが難しく、しかもずっと続く話なので、いつの間にか権利の契約期間が切れていたり、更新が漏れていたりといった問題が起こり得ると思います。そういった観点でこれまで何かトラブルはありましたか?
ダンデライオン西川 弊社でライセンス管理をしているIPのケースでは、過去には個人クリエイターの方との契約条件が、結ばれている内容よりも弊社が拡大解釈してしまっていたケースが部分的にあったようです。
お互いの認識が違っていたということは、契約をさかのぼることで判明したので、その時点で修正した契約を結び直すことになりました。そのときの経験で、仮に契約の件数が多かった場合、非常に危ないことになると感じたため、IPをホールドしてライセンスを弊社独自で管理することは積極的にやらなくなったという経緯があります。
まつもと それは逆に言うと、会社の経営としては、ビジネスの機会損失になる意味合いもありますよね。
ダンデライオン西川 そうですね。以前は1つの部署として存在していたのですが、今はその部署を廃止して、たとえば我々が商品化する際でも優先権を持っていたり、別の会社がその権利主体を持っていたりするなかで、我々が運用のお手伝いをするという立ち位置に切り替えています。
ただ、当時は法務の体制も今ほどしっかりしていなかったところもあるので、現在であればもう少し運用ベースで契約をきちんとできるかなと思います。またそれと同時に、Contract Oneは契約期限などがアラートとして定期的に通知されるので、法務も情報として常にピックアップできているというメリットもあると思います。
まつもと 契約期限の話は非常によくわかる話で、私も配信契約の際、上司から「契約期限の自動更新は絶対やめろ」と指示されていました。その理由は「更新のタイミングで契約条件を見直したいから」。要は、配信市場が拡大する予想のなか、より自社が有利な条件になるよう契約を結び直してアップデートするのが狙いだったんです。
しかしそうなると、西川さんがおっしゃったように、それぞれ契約の期限をいつ迎えるか、すべて人力で管理することになってしまい、万が一漏れていると逆に先方から問い合わせが届いて謝罪から交渉が始まり、当方があまり強く出られなくなってしまう……という話もありましたね。
個人クリエイターと「契約する」難しさ
まつもと 個人クリエイターさんとの契約のあり方については、毎日のようにSNSで話題になっています。現在、ダンデライオンさんは個人のクリエイターさんと基本的にどのような条件で契約しているのでしょう?
ダンデライオン西川 ある案件のある仕事内容を、この期間、こういう金額で、という委託契約が基本です。
まつもと これは手描きアニメの世界でもよく話題にあがるのですが、社員でなくても、クリエイターさんから上がってくる成果物は職務著作物として発注元の会社に権利があるという前提で納品してもらいます。ダンデライオンさんの場合も同様ですか?
ダンデライオン西川 そうですね。基本的に作品の権利自体、たとえばそのキャラクターのデザインなどが集約されていないとそもそもトラブルになるケースもあるので、今おっしゃったような形で契約しています。
まつもと 今度は西村さんにおうかがいします。個人クリエイターと制作会社との契約はトラブルが起こりがちだと思います。先ほどお話されていた事例ですと、契約書を送ったが読んでおらず締結もしていない、しかし締め切りが迫っているので納品はしてもらう必要がある、という話でした。
そして上記のようなやり取りを経た末に、個人クリエイターさんがSNSで「納品した私のキャラクターが相手の会社のものになっている」というような投稿をして、フォロワーたちが「ひどい会社だ」と攻撃をしてくる……といったことは日常でよくある風景です。Contract Oneはそういったトラブルをどのように防ぐことができるのでしょうか?
Sansan西村 大きく2つのアプローチがあります。1つは個人クリエイターとの契約が紙だった場合、当社では紙の契約書の印刷、製本、捺印そして発送受領などの代行をサービス内で提供しています。
※サービスの提供可否・内容は、Sansan社の状況によって異なりますのでお問い合わせください
契約が止まっている原因が、実は自社にあったという事例は少なくありません。営業担当が忙しくて契約書を発送せず「文面でフィックスしたし、あとは判子をつくだけなので、とりあえず仕事をお願いします」と。その結果、契約書が発送されない状態で納品を迎えてしまい……というような事例を耳にすることもあります。
Contract Oneでは契約書のデータがアップロードされた瞬間にオペレーションが走り出して、相手先には企業側の判子がつけられた状態で「ここにハンコをついてください」という付箋のついた契約書と、当社のセンターへの返信用の封筒に住所が書かれた状態で先方にお送りするので、契約書の回収率が非常に向上したと言われる機会も多くなっています。「時間がないから」という理由で契約が止まることを極小化しています。
まつもと 契約書の返送を催促する仕組みはありますか?
Sansan西村 それはまだできないのですが、要望としていただくケースもあるので今後検討していきたいと思っています。
まつもと 次段階はそういう話になりますよね。アニメ業界ですと、制作進行さんが原画の回収を担っていたのですが、最近「回収代行」という仕事が業界で広がっています。これも働き方改革の一環なのですが、今後は「契約書の回収代行」を担うサービスも現われるのかな、と思いました。
Sansan西村 もう1つのアプローチは、契約書がどんなステータスになっているかをContract One上で確認することです。たとえば、まつもと様にお仕事をお願いするとき、「あれ、契約書は行ってるけれど、まだ帰ってきてないな」といったステータスがわかります。
そのステータスをプロデューサーやマネジメントが把握していれば、作業にかかる前に「申し訳ないんだけれど先に判子ついて戻してもらっていいかな」というコミュニケーションが現場で図れます。こういった「手間がかからない」という意識が現場に働くことで、課題解決できるかなと考えています。
まつもと それらを紙ベースでも対応できるところが、名刺サービスでSansanさんが培ってきた強みにつながっていると思います。一気にデジタルサービスに行くのではなく、厳然たる事実として「紙」があるからこそ、そこもケアしていくというところが非常に特徴的であり、また強みでもあると感じました。
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