独自の視点と実行力で新しいものづくりに挑み続ける、富士高周波工業株式会社
〜堺市を拠点に独自ポジションを築き、国内外から注目を集めるイノベーティブな企業たち〜
提供: NAKAMOZUイノベーションコア創出コンソーシアム、堺市
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堺市では、中百舌鳥エリアをイノベーション創出拠点と位置づけ、社会課題の解決や地域に新しい価値をもたらす活動を支援している。先進的な事業によって独自のポジションを築き、国内外からも注目を集める産業を生み出すための支援も行っており、そのモデルとなる企業もすでに誕生している。ここでは1956年の創業から一歩先を行くものづくりの技術を事業にしてきた富士高周波工業株式会社の代表取締役である後藤光宏氏にインタビューを行い、これまでの取り組みと今後の展開について話を伺った。
最新のものづくり技術をいち早く導入して二度の創業に挑戦
富士高周波工業は製造業の工程の一つである”焼入れ”という、金属の熱処理で様々な部品を製作する技術を主力にしている企業である。現在代表取締役を務める後藤氏の祖父が当時運営していた別の製造業から、最新技術だった高周波焼入れの工程を祖母が独立させ、1956年に堺市で創業した。祖母は55歳から90歳を超えるまで現役で働き続け、後藤氏の父とその兄へ運営が引き継がれる約50年の間は、高周波焼入れ一本でものづくりを続けてきた。
後藤氏も社員の1人として会社を手伝っていたが、2008年に新たに事業を始めることを任され、外回りをしながらいろいろ情報収集している時に出会ったのがレーザ焼入れという技術だった。
「大阪府産業技術研究所で、ある大学の先生がレーザ焼入れの技術について研究発表されているのを見て、詳しく話を聞きに行ったのをきっかけに、技術の研究者や設備メーカーを紹介いただき、これは新しいビジネスチャンスになると思ってチャレンジすることを決めました。当時はまだあまり認知されていない最新技術でしたが、祖母が始めた高周波焼入れの技術も当時の最新技術でそれが創業のきっかけになったので、いわば二度目の創業だと思ってスタートしました」(後藤氏)
後藤氏がレーザ焼入れに着目したのは、それまでの焼入れに比べて省エネでエコな点であった。焼入れは金属を熱した後に冷やすという工程で、電気代や水道代、廃液処理などの費用がかかる。その点レーザ焼入れは高温のレーザでピンポイントに熱処理ができるので製造コストを大幅に抑えられる。また、製造業は環境対策の取り組みに以前から力を入れており、クライアントである大手メーカーもその点を注目するだろうと見込んだ。
「もう一つメリットとして工場を建てる場所の制約が少ないというのがあります。当社のレーザ工場は普通の住宅街の中にありますが、本社の倉庫として使われボロボロになっていた建物を私が1人でペンキ塗りから始めて、少しずつ工場へと整備していきました。社員も最初は私1人だけでしたが、今はレーザ事業部で10名ほどいて、全体で30名が働く規模になっています」
あえてライバルを育てる逆転の発想でマーケットを広げる
後藤氏はレーザ焼入れが新しい事業になるだろうと考えていたが、一方で技術としては簡単で取り入れやすく、資金があれば設備もそろえられるため、大手メーカーが取り入れてインライン化される可能性も高いと見ていた。そこで後藤氏が思いついたのが、技術をあえてオープンにしてライバルを育てるという逆転の発想だった。
「製造業は自社で開発した独自技術をもとに10年から20年食べていくのが基本路線ですが、技術をいくら隠そうとしても今はネットなどを通じて情報があっという間に広がるので、どうせマネされるなら最初から技術を公開して、広く認知してもらうことで市場を広げる方向を選びました。同業者の方がレーザ焼入れの良さがわかりますし、技術の価値を上げるために情報を共有した方が結果的に業界全体の利益につながると考えたのです」
後藤氏は地方からレーザ焼入れの技術を学びに来た人たちを受け入れてトレーニングを行い、ノウハウも全て提供したが、製造業は基本的に地域産業なので、同じ地域内でなければクライアントの奪い合いになることはほとんどないだろうとも考えていた。その考えは見事に当たり、新潟から広島、九州へとそれぞれの地域を拠点にするライバルたちは、やがてお互いに成長し高め合う仲間になり、そして困った時に助け合う関係が築かれていった。
さらに後藤氏はYouTubeで技術の紹介やZoomを使ったセミナーも実施し、レーザ焼入れに興味を持つ人たちも増やそうとしている。また、製造業関連の展示会に少なくとも年5回は出展し続けており、様々な形での発信に力を入れている。そうした先駆者的な動きは海外にも知られ、技術を学ぶために海外から堺市に訪れる技術者の受け入れも行っているという。
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