西日本ネットワーク拡大への150億円投資、SIパートナーシップ強化など、国内施策も加速
ColtのLumen EMEA事業買収が日本企業にもたらすメリットとは? 大江代表に聞く
2024年01月16日 08時00分更新
2023年11月、Coltテクノロジーサービス(以下、Colt)が、米Lumen Technologies(以下、Lumen)のEMEA事業(欧州/中東/アフリカ地域の事業)を18億ドル(およそ2700億円)で買収した。これによりColtは、欧州で最大規模の法人向けネットワーク・サービス・プロバイダとなり、グローバル市場における存在感も大きく高まった。
さらに、それに先立つ8月には、日本国内での大規模な投資計画を発表している。2023年からの3年間で150億円を日本国内に投資し、西日本へのネットワーク・カバレッジを拡大、強化するというものだ。
こうした動きは、日本市場の企業顧客にどのようなインパクトを与え、どのようなメリットをもたらすものなのか。10月にColt日本法人の代表に就任した大江克哉氏に、詳しく話を聞いた。
欧州と北米のネットワーク調達が「ワンストップ」になる将来像
まずはこれまでのColtの歴史と、今回のLumen EMEA事業買収に関するファクトを簡単に整理しておきたい。
Coltは、1992年に英国で設立された。設立後、欧州(西欧)地域を中心とする主要都市への自社ファイバー網の拡充を続け、2014年には日本/アジア地域のファイバー網を持つKVHを買収するかたちでアジアへの進出も果たした。こうした経緯により、Coltは欧州とアジアのネットワーク・カバレッジに強みを持つ、法人向けネットワーク・サービス・プロバイダとなった。
今回の買収では、LumenがEMEA主要都市で保有していたネットワーク資産と大西洋横断海底ケーブルが、Coltのネットワークに加わった。これによりColtの自社ファイバー網は、世界1100以上のデータセンターと、230都市にある3万2000の商用ビルに直結されることになった。加えて、Lumenからプロフェッショナル人材も多数受け入れており、世界38カ国に80オフィスを展開し、従業員は6000人を超える企業規模となっている。
ネットワーク・サービス・プロバイダとしてのColtの特徴について、大江氏は「法人向け(B2B)に特化していること」と「世界の主要都市に自社ファイバー網を持つこと」を挙げる。法人向けに特化することで短納期かつリーズナブルなコストでのサービス提供が可能になり、また世界の主要都市で同一品質のサービスがワンストップで提供できる。
それでは、LumenのEMEA事業買収は日本の顧客企業にどんなメリットを与えるのか。大江氏は、この買収をきっかけにColtとLumenのパートナーシップがさらに密接なものとなり、Lumenが引き続きビジネスを展開する北米地域でもネットワークの調達が容易になると説明する。これは、グローバル進出する企業にとって大きなメリットだ。
「日本国内のグローバル・エンタープライズは、8割近くが欧州や北米に進出しています。さらに、日本の大手インターネット・サービス・プロバイダやデータセンター・プロバイダも、グローバル展開を強く狙っています。こうしたお客様に対して、Coltから欧州のネットワークを提供できるのはもちろんですが、将来的にはLumenが北米に持つファイバー網や太平洋海底ケーブルについてもワンストップで提供できるようになる可能性が高い。この変化は非常に大きいと考えています」
大江氏はもうひとつ、今回の買収に伴ってLumenが展開してきたセキュリティ・サービスや、そこに携わってきたプロフェッショナル人材がColtに加わったことも指摘する。将来的にはこれも、日本の顧客にメリットをもたらすことになるという。
「現在はZscalerとグローバル・パートナーシップのもとで積極的にセキュリティ・サービスを展開していますが、欧州においては他のセキュリティ・ベンダのサービス、さらにSOCのサービスも提供していくと発表しています。日本においても今後、セキュリティ・サービスが大きく強化されていくものと考えています」
需要高まる西日本へのネットワーク拡張、SIパートナー強化の意図
Lumen EMEA事業の買収により、Coltは欧州で最大手の法人向けネットワーク・サービス事業者となった。ただし、市場として現在一番伸びているのは日本を含むアジアだという。
日本市場に対する期待値の高さを表す一例として、西日本(広島、岡山、福岡)への大規模な自社ファイバー網拡張計画が挙げられる。これまで国内では、東京、大阪、名古屋、京都、神戸をカバーしていたが、今後3年間で150億円を投資して、カバーする都市を一気に福岡(北九州)にまで拡大する。
「外資系データセンターの新設、九州への半導体工場の進出といった動きを背景に、現在、西日本地区でのファイバー網の需要は非常に高まっています。さらに、九州に陸揚げされている海底ケーブルを通じて“アジアの玄関口”になっていく可能性も高い。Coltでは、まず九州まで高速なバックボーンを延長し、その間の主要都市にある商業ビルやデータセンターをバックボーンにつなぐかたちで、ネットワークを拡大していく戦略です」
ちなみに西日本に拡張したネットワークを使うのは、国内の顧客だけではない。日本のデータセンターを利用する海外のグローバル・エンタープライズも、Coltのネットワークを利用することになる。そういう意味でも商機は大きいという。
国内のSIerとのパートナーシップ強化にも、さらに力を入れていく方針だ。よく知られているとおり、日本市場においてはラージ・エンタープライズとSIパートナーの結びつきが非常に強い。そこでColt日本法人では、2023年にSIer専任担当のセールス組織とSE組織を独立させて、SIerとのパートナーシップ強化に乗り出している。この初年度、SIer経由のビジネスは目標を達成し、2ケタ成長を遂げたという。
SIerへのフォーカスは、組織体制の変更にとどまるものではない。たとえば提供するネットワーク・サービスの品質に対するSLAについても、SIパートナーが求める高い水準まで引き上げていく方針だ。
「現在のColtは、欧州を基準にしたSLAでサービスを提供しています。ただし、日本のお客様の要求品質はさらに厳しい。特に、多数のエンタープライズ顧客を抱えているSIer様が要求される品質基準は、非常に厳しいものです。それぞれに個別対応していくのではなく、その品質をグローバルの標準としていく方針です」
さらに大江氏は、「今後3年程度をかけて、SIer向けのカスタマイズをもっと柔軟にしていきたい」と述べた。SIerが顧客エンタープライズに提供するマネージド・サービスの“部品”として、Coltのサービスを採用してもらう――。そんなイメージを持っているという。
「専任組織を通じてSIer様の声をよく聞き、Coltのファイバー網でカバーすべきエリア、クリアすべきSLA、提供すべきサービスやソリューション、そうしたものを柔軟に提供していきます」
なお、こうした日本でのSIパートナーシップ強化の取り組みは、今後、グローバルのColtにおける「先行事例」にもなっていく見込みだという。大江氏は、欧州でもSIerがネットワークを含めてマネージド・サービスを提供するモデルが多く出てきており、そうした案件を獲得していくうえでも、まず先行する日本でパートナーシップのモデルを作ることが求められていると話した。
“どこでも、いつでも、どのようにでも”の高品質ネットワークを目指して
現在のColtは、ネットワーク・サービス・プロバイダではなく“デジタル・インフラストラクチャ・カンパニー”を標榜している。旧来の専用線サービスだけでなく、SD-WAN、IaaSへのダイレクト接続、オンデマンド帯域変更、帯域保証型5G/4Gアクセス、SASEソリューション、SaaSトラフィックの優先制御など、企業において利用が急増しているインターネットとクラウド(IaaS、SaaS)もサポートする、幅広いサービスをワンストップで提供できるのが強みだ。
さらに今後は、この“デジタル・インフラストラクチャ”上に、前述したSIパートナーそれぞれの独自ソリューションが展開されることになる。Coltのネットワークを通じて、より広範なサービスが提供されるわけだ。
Coltが掲げる「“どこでも、いつでも、どのようにでも”高品質なネットワークを提供する」という目標について、大江氏は「すべての基盤となるのは、やはり『グローバルなコネクティビティ』です」とまとめた。
「Lumen EMEA事業の買収を通じて、Coltは法人向けのグローバルな高速/低遅延なネットワーク・サービスを、ワンストップで提供できるベンダーになりました。お客様、そしてSIパートナー様からの声を聞きながら、これからもアジャイルに変化を続けていく。それがColtの姿勢です」