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ハイブリッドAIビジョン実現に必要な「オンデバイスAI」、米国「Lenovo Tech World」レポート

「AI PC」や「AIスマホ」の登場で何が実現する? レノボの答え

2023年11月30日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 “AI for ALL(すべての人にAIを)”というテーマを掲げ、2023年10月に米国で開催されたレノボの年次イベント「Lenovo Tech World 2023」。ここでは、大規模な汎用基盤モデル(パブリック基盤モデル)と個々の企業/個人に最適化された基盤モデル(プライベート/パーソナル基盤モデル)を組み合わせる「ハイブリッドAI」ビジョンが紹介された。

 その詳細は前回レポート記事を参照してほしいが、ここではNVIDIAとの提携に基づき、エンタープライズ顧客向けに「ハイブリッドAIソリューション」を提供していくことも発表もしている。これは、企業データセンターで基盤モデルの構築/推論を実行するためのソリューションだ。

汎用的なパブリック基盤モデルと、企業/個人ごとのプライベート/パーソナル基盤モデルを組み合わせることで、AI/生成AIを最適化する「ハイブリッドAI」ビジョンを紹介

 ただし、“ポケットからクラウドまで”を掲げ、サーバーだけでなくPCやスマートフォン(モトローラブランド)も提供するレノボでは、もちろんそうしたパーソナルデバイスにAIを搭載する「オンデバイスAI」の計画も推進している。

 PCやスマートフォンにAIを搭載することで、どのような機能が実現するのか。それを考えることで、レノボがなぜハイブリッドAIビジョンを掲げるのかも具体的に理解できるだろう。

スマートフォン搭載の生成AIで、ユーザーのファッションに合わせた壁紙を自動生成するデモ。ちなみにこのデバイスは、ぐにゃりと曲がって手首に巻き付けられる「アダプティブ・ディスプレイ」スマホの試作機

「AI PC」とは何か? なぜ必要なのか?

 Tech Worldの会期中、レノボのさまざまなエグゼクティブが口にしたのが「AI PC」というキーワードだ。この新たなカテゴリ名は、現在ではレノボだけではくPC業界全体で使われるようになっている。

 AI PCとは、高度なAI/生成AI処理(推論処理)をローカルPC上で実行する能力を持つクライアントPCを指す。ここで想定されているのは、これまでAI処理に使われてきたワークステーションクラスの高性能PCではなく、より一般的な、ビジネスユーザーやホームユーザーが使うクラスのPCだ。

 これまではPCのAI処理能力が乏しかったため、生成AIなどの大規模なAI処理についてはクラウドで処理を行い、その結果をPCで利用していた。この場合、インターネット越しにデータをやり取りするため通信の遅延が発生する。たとえばPCカメラの映像をリアルタイムに処理する、といった用途には向いていない。また、業務データやパーソナルデータを(第三者の)クラウドに送るのも、情報漏洩や悪用の懸念がつきまとう。そこで、AI PCが必要とされるようになったわけだ。

 AI PCを実現するのが、高速かつ高効率にAI処理(推論処理)を行う専用エンジン「NPU(ニューラル・プロセシング・ユニット)」を内蔵した、新しいタイプのCPUである。すでにAMDでは「Ryzen AI」と呼ぶNPUを搭載した「Ryzen Pro 7040シリーズ」をリリースしている。またインテルでは、12月に発表予定の次期「インテル Core Ultra プロセッサー(開発コード名:Meteor Lake)」において、NPUを搭載するという。また、スマートフォン向けプロセッサでも同様の動きが起きている。

基調講演にはAMDの会長兼CEO、リサ・スー(Lisa Su)氏も登壇。高いAI処理能力を持つ最新のCPUやアクセラレーターを紹介

 レノボでパーソナルデバイスのビジネスを率いるルカ・ロッシ氏は、Tech Worldの基調講演の中で、AI PCを含む“AI Powered Devices”の基本原則として3つを挙げた。ユーザー個人のための「パーソナル基盤モデル」を備えること、それが「常に学習を続け」て最適化/パーソナライズされること、さらに自然言語でのやり取りなど「自然なインタラクションの能力」を持つこと、の3つだ。

 ロッシ氏は、AI/生成AIの処理能力を備えたパーソナルデバイスに対するユーザーニーズは今後数年間で一気に高まり、それによって「大規模なPCのリプレース機会が生まれることになる」と語る。その大きな波をとらえるために、レノボではAIのイノベーションに対して3年間で10億ドル以上の投資を行う計画だ。

Lenovo Intelligent Devices Group(IDG)EVP&プレジデントのルカ・ロッシ(Luca Rossi)氏

オンデバイスAIで実現するパーソナルAIアシスタント

 それでは、PCやスマートフォンのAI処理能力が高まり、AI/生成AIが搭載されることで、具体的にどんなことが実現するのだろうか。

 Tech Worldのデモ展示会場では、AI PC向けのパーソナルAIツイン(AIアシスタント)ソリューション、「AI NOW」のコンセプトを紹介していた。ビジネス向けのAI NOWでは、社内の機密情報を外部クラウドに送信することなく、ローカルPC上の最新データに基づいてAIアシスタントが回答する。またコンシューマー向けPCのAI NOWは、個人の好みにパーソナライズされたレシピの提案などが行える。

 レノボの発表によると、このAI NOWはデバイス上に蓄積されたユーザー個人のナレッジベースとファインチューニングされたモデルに基づき、パーソナライズされた推論処理を行い、データのセキュリティやプライバシーを守りつつユーザーをアシストするという。

AI NOWのデモ。左のビジネス向けPCでは、ネットワークに接続されていない状態でAIアシスタントが質問に答えていた。右はコンシューマー向けPC

 モトローラブランドのスマートフォンでも、パーソナライズされたオンデバイスAIがユーザーを支援するさまざまな機能の計画が発表されている。

 基調講演の中でもデモを披露していたのは、ユーザーがその日の服装を撮影すると、それに基づく壁紙を自動生成してくれるAIだ。このスマホはディスプレイが曲がって手首に巻き付くため、スマホをファッションと一体化して楽しめるというわけだ。

ファッションに合わせた壁紙生成のコンセプトビデオ(レノボ・ジャパン YouTubeチャンネルより)

 そのほかにも、オンデバイスAIによるパーソナルアシスタント「MotoAI」にテキスト要約や質問応答をさせたり、レシートや絵などをカメラ撮影する際の影やシワをAIが取り除いてくれたり、SNSのスクリーンショットに含まれるプライバシー情報(名前や顔写真)に自動でぼかしを入れたり、といったデモが披露されていた。

(左)スマホ上のLLMがテキストを要約。このスマホもオフラインで動作している (右)AIがカメラ撮影時の影やシワを取り除くデモも

* * *

 このように、パーソナル基盤モデルやオンデバイスAIといったコンセプトは、現在クラウドベースで提供されているAI/生成AIの抱える課題を解消するものだ。将来的にはクラウド上のAIとオンデバイスAIが役割分担を行い、連携していく形に進化していくだろう。

 なおレノボ・ジャパンは、2023年12月5日に東京で「Lenovo Tech World Japan 2023」を開催する。米国開催時と同じテーマ「AI for All」をメインテーマに掲げており、あらためてレノボのAI戦略を理解できるはずだ。

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