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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第96回

【後編】ParadeAll 鈴木貴歩さんインタビュー

AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる

2023年11月19日 15時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII

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NFT、メタバース、AI――次の音楽市場にインパクトを与えるのは?

まつもと 最後に「次に来るもの」についてうかがっていきたいと思います。現在、「NFT」「メタバース」「AI」といったキーワードが登場しています。アニメ×NFTで私も去年からいくつかイベントを開催しているのですが、形になっている部分とまだまだこれからだなという部分があり……。

 鈴木さんはこういった新領域で、音楽がどういったところに可能性を見出せばいいとお考えですか?

鈴木 Web3全般で言えば、ブロックチェーンをベースにしたインターネットという理解を私はしていて、周囲やパートナーに話しながらさまざまな企画や戦略を練っています。ブロックチェーンの利点としてはデータベースを外出しできるところですね。

まつもと データベースを外出し、とはどういうことでしょう?

鈴木 たとえば、ライブに来てくれた人を管理するために、自社でデータベースを構築して管理・メンテナンスし続けるのは非常にコストがかかりますし、定期的に変化する個人情報の取り扱い条項に従っていくことも非常に面倒です。

 しかしデータの管理にブロックチェーンを使うことで、理論上は安全かつ消えない情報を取り扱うことができると考えています。これがデータベースの外出しです。

 情報をベースにして事業を展開したり、ファンへの体験を提供したり、よりコアなファンになってもらうための道筋を作ったり……というところでWeb3の可能性は非常に大きいと思っています。

まつもと 前回のインタビューでずっと印象に残っていて、ここ10年くらいさまざまなところで私も使っている「ユーザーの回遊=カスタマージャーニー」というキーワードがありました。今のお話はブロックチェーンがカスタマージャーニーをずっと記録しておいてくれるという理解でよろしいでしょうか。

鈴木 そうですね。たとえばかつてTVしかなかった時代、TVのCMがカスタマージャーニーの一歩目だったと思います。そこからソーシャルメディアになり、YouTubeになり、ストリーミングになり……と変化していますが、やはり最初のポイントはどうしてもプラットフォーム経由になります。

 しかしブロックチェーンを活用すれば、自分たちがいつでも参照可能なデータベースにファンのデータが書き込まれているわけですから、付与されたトークンの有無で提供できる体験を変える、といったことも可能でしょう。

 つまり、カスタマージャーニーを非常に長いスパンで考えることができるのではと思っています。また、それを業界で共有できるというのも大きな可能性かなと思います。

前回のインタビューでは「ユーザーの回遊=カスタマージャーニー」がキーワードの1つだった(画像クリックで前回の記事に飛びます)

AI時代の音楽と著作権を模索する試みも始まっている

まつもと 現在、AIが熱いのですが、その分野と音楽の関わりはいかがでしょうか?

鈴木 AIは、ツールとして非常に有用で、たぶん数年後になったら誰もが活用するようになると思います。英語的な言い方ですとcopilot、つまり副操縦士のような存在になっていくかなと思います。

 一方で、人間としての表現や今ある著作権の枠組みを大きく壊すような事態にならないことも願っています。ストリーミングもそうですが、本来、誰かが得るべき収入が極端に減ってしまうような状況にならないように、上手くバランスを取っていく必要があるでしょう。

 海外では一足早く2023年2月ぐらいに「Human Artistry Campaign」というキャンペーンが立ち上がっています。

 音楽に限らずアメリカのさまざまな権利者団体が参画していて、参加団体が140を超えたというニュースもありました。ここに、私がアドバイザーをしている日本音楽制作者連盟(音制連)も参画しています。AIというのはグローバルなアジェンダなので、そこに対しての交渉力を持ち、提言できるために参加していただいた形です。

まつもと AIについての議論の中心では、すごく俗っぽく言うと、勝手に学習されて、原著作者へのリスペクトや、あるいはリターンがないまま著作物がどんどん生み出されているというところに危機感が持たれていると思うのですが、こういった取り組みや動きが出てくることで音楽業界はどうなっていくのでしょうか?

鈴木 大きく2つの流れがあります。1つは、先日EU議会で議決されたAIに対しての対応です。制作物には「AIで作りました」と表記すること、そして学習の対象に対してはオプトアウト可能にすることが決定されました。この動きはアメリカでも同様のようです。一方、日本では著作権法が2018年に改正されましたが、著作物の学習は今のところやり放題という状況になっています。

 もう1つ、アメリカや欧州ではおそらく今後、AIが学習した対象、著作物に対してきちんと収益分配が実施されるでしょう。すでに具体的に議論が始められていて、その一端としてGoogleとユニバーサル ミュージックが接触しています。

 すでにYouTubeでは「Content ID」というテクノロジーを自分たちで作って、著作物が一部でも使われていたら検出し、著作料を徴収して分配するという施策を実行できています。Content IDがなければ、著作権侵害問題などでYouTubeはここまで大きく成長できなかったでしょう。

 GoogleがContent IDをAIに対してどのようにデリバーしていくのかはまだまだこれからの話だとは思いますが、音楽だけではなくほかのAIが関わる分野で利用されていくことと思っています。

まつもと AIの学習対象をどれだけトラッキングできるのかというところは、技術者の間でも「限界がある」とか、「そもそもできるのか?」といった議論がなされていますが、プラットフォーム側がそこに何らかの仕組みを設けることが必要になってくるわけですね。

鈴木 そうですね。

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