KDDIとKDDI総合研究所が10月23~25日に「R&D 成果公開 2023」を開催。10月23日にメディア向けの説明会が開催されました。今回のテーマは「KDDI Digital Twin for All」。主に、低消費電力で大容量のデータを伝送する「オールフォトニックネットワーク」と、実空間の情報をリアルタイムで伝送する「デジタルツイン」について、パネルとデモンストレーションを用いて説明しました。
◆6Gに向けた高効率の通信技術を発表
オールフォトニックネットワークに関しては、10月20日に発表された標準光ファイバ径の光ファイバ伝送実験で、世界最大となる伝送帯域幅 115.2THzの超広帯域伝送実験に成功したことについて詳しく説明されました。
この実験は、KDDIとKDDI総合研究所が住友電気工業、古河電気工業、OFSと共同で行なったもの。標準的な250μmの光ファイバの中に、12個の独立したコアを高密度に配置した「非結合12コア光ファイバ」と、従来のC帯やL帯よりも光の増幅帯域が広く、省電力の「O帯」を用いることで、従来比24倍の超広帯域光ファイバ伝送を実現する仕組み。データの大容量化が進む6G時代のデータセンター間の大容量高速通信を支える技術となることが期待されます。
5Gに続く次世代通信システムとなるBeyond 5G/6G時代には、宇宙空間での通信利用が進むことも期待されています。KDDIとKDDI総合研究所は京都大学の研究グループと協力し、光を緻密制御する「フォトニック結晶レーザー」を用いた超高感度な自由空間光通信方式の実証に成功したことを10月18日に発表しました。
フォトニック結晶レーザーの周波数変調と、弱い光でも多くのデータ受信を可能にする「コヒーレント受信方式」の組み合わせによって、送信器から発射された光が受信側で1億分の1に減衰しても、光ファイバ増幅器を用いることなく通信が可能になるとのこと。これにより、宇宙空間における低軌道衛星-静止軌道衛星間(約3万6000km)に相当する距離で通信ができるようになるそうです。
◆デジタルツインのポイントはフィードバック
デジタルツインを活用した最新の研究成果として発表されたのが、小型・薄型の「力触覚提示技術」。会場では、卓球ラケット型のデバイスを用いて、来場者が実際に体験することもできました。
フィジカル空間においてカメラなどで感知した人物の位置や姿勢、デバイス(卓球ラケット)の位置や向きなどの情報がサイバー空間に伝送、リアルタイムで解析され、フィジカル空間のデバイスにフィードバックされる仕組み。ラケットを持つ人がボールを打つ際に、手に振動が伝わり、打つタイミングや向き、強さなどがわかる。
実際に体験してみると、ただラケットを握っているだけで、手が動かされる感覚で、卓球の返球の仕方を感覚的に学べるような印象でした。ゴルフなどほかのスポーツ、美術や書道での筆の扱い方のほか、障がい者の生活支援などの活用も想定しているそうです。
デジタルツイン分野で、もう1つ発表されたのが、高品質の3D映像をモバイル回線で伝送し、スマホで再生する技術。高効率に圧縮された360度の3Dメッシュ映像のデコード処理を2倍以上に高速化し、スマホでリアルタイム再生・視聴できる仕組み。
これによって、離れた場所でもスポーツなどの指導を受けられ、受信側はスマホの画面に映る3D映像で、さまざまな視点から見られるようになります。実際にスマホでデモ映像を見たところ、画質は鮮明で、すぐにでも商用化してほしいような印象を受けました。
ほかに、量子コンピュータ時代に向けた超高速共通鍵暗号アルゴリズム「Rocca-S」や、ChatGPTなどの生成AIを効率的に利用する「実空間指向AI」などについても展示されていました。