印南敦史の「ベストセラーを読む」 第8回
『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン 著、井口耕二 訳、文藝春秋)を読む
イーロン・マスク、父親の呪縛から逃れられない成功者の素顔
2023年10月19日 07時00分更新
ゲームのように危機を乗り越えていく
たとえばスペースXの7人目の社員になったグウィン・ショットウェルは、マスクの性格を次のように分析している。ちなみに彼女の夫は自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)であったため、マスクのことも理解できたようだ。
「イーロンはくそ野郎じゃないんですが、でも、おりおり、そう思われてもしかたがないことを言ったりします。自分の言葉が相手にどう受け取られるのかを考えないからです。ミッションを成功させたいーーそれしか頭にないんです」(上巻180ページより)
だからこそ、ときに仲間から激しい抵抗を受けながらも、彼はミッションを成功させてきたわけである。だがその過程においては、次から次へと「シュラバ(修羅場)」に巻き込まれることにもなる。なにしろ、誰も手をつけていないこと、それ以前に思いつきもしないことを次々と(しかも同時進行で)実現させようとするのだから無理もない話だ。それどころか、経営の危機に巻き込まれたりもする。
だが彼は、あたかもゲームをクリアしていくかのようにそれらを淡々と、ときにはエモーショナルに乗り越えていく。だから読者は、上下巻900ページ以上というものすごいボリュームでありながら、「次はどんな判断をして、どう立ち回るのだろう?」という興味にかられてページをめくり続けてしまうのだ。
事実、本書にはこのような記述もある。
激しさ、集中力、競争心、しぶとさ、戦略愛などさまざまな側面を持つマスクという人物を理解するには、彼が情熱を燃やすビデオゲームについて考えてみる必要がある。何時間もビデオゲームをプレイすることで、マスクは、ガス抜きをしたり(ガス圧が高まることもある)、ビジネスの戦略的思考や戦術スキルを磨いたりするのだ。(下巻159ページより)
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