丸の内にある美術館にお勤めの方に、館の魅力や近隣の美味しいお店情報をお聞きする人気シリーズ「丸の内のアート人に聞く!」。
前回は、静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)の館長を務める安村敏信氏の口から、「ぬいぐるみ」「アロハ」といった予想もしなかったワードが飛び出し、面食らいつつも、普段中々伺えない興味深いアートな話をお届けすることができました。
「ほぼ実寸の曜変天目ぬいぐるみ」が話題沸騰! 丸の内のアート人に聞く! ~静嘉堂文庫美術館 安村館長編~
https://lovewalker.jp/elem/000/004/142/4142744/
第2回目の「丸の内のアート人に聞く!」は、JR東京駅丸の内北口改札前にある東京ステーションギャラリーにお邪魔し、学芸室で広報を担当されている羽鳥綾さんに、意外と知られていない東京ステーションギャラリーの歴史や所蔵品から、オススメのランチスポットなどを伺ってきました。
美術館の中の人から見た東京ステーションギャラリーの魅力や見どころ、また館の立ち位置など、これを読めばすぐにでも東京ステーションギャラリーへ行きたくなる興味深いお話満載です。
中村:まずは、東京ステーションギャラリーの成り立ち、歴史について教えて下さい。
羽鳥:国鉄分割民営化によりJR各社が誕生した1987年の翌年に、東京ステーションギャラリーは開館しました。当初は現在ある場所ではなく、丸の内駅舎2階の一部を改装した展示室でした。
中村:今ある場所に移ったのはいつからでしょう?
羽鳥:18年間105本の展覧会を開催し、2006年に東京駅復原工事のために休館しました。2012年10月に、新しい東京ステーションギャラリーとして現在の丸の内北口に装いも新たに展示スペースも拡張し、リニューアル・オープンしました。
中村:リニューアル・オープンしてから、10年が経過し、これまで以上に多くの注目を集める美術館となりましたが、東京ステーションギャラリーならではの魅力は何があげられるでしょうか?
羽鳥:当館は活動方針の三本柱を掲げ、それを指針として特徴ある展覧会の運営に当たっています。その1点目は、開館以来の特徴である、知られざる作家の発掘や見過ごされてきた美術の紹介などを中心とする「近代美術の再検証」です。2点目は、辰野金吾設計による重要文化財の丸の内駅舎にある美術館としての「鉄道・建築・デザイン」です。最後3点目に、さらに新しい時代、新しい丸の内に相応しい「現代アートへの誘い」を指針としています。
中村:確かにこれまでの東京ステーションギャラリーでの展覧会を振り返ってみると、その三本柱に沿った独自性豊かな展示を観た記憶がよみがえってきます。特に、近代の知られざる画家はこの美術館の真骨頂だと思います。
羽鳥:リニューアル・オープン後だけでも、「幻の画家 不染鉄展」「横山華山」「ルート・ブリュック 蝶の軌跡」「メスキータ」「坂田一男 捲土重来」「神田日勝 大地への筆触」「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜」「小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌」など、名前を聞いてもピンとこない作家を毎年のように取り上げています。今年の夏に開催した「甲斐荘楠音の全貌」もおかげさまで大変好評でした。
中村:知られていないと言えば、東京ステーションギャラリーさんの所蔵作品ではないでしょうか。バラエティーに富んだ作品をお持ちですよね。
羽鳥:1988年の開館以来ゼロからスタートし、美術館活動の中で少しずつ所蔵品を増やしてきました。常設展示室を併設していないので、常時、所蔵品を公開することはできませんが、企画展の中で関連作品を展示したり、積極的に貸し出しに応じたりしています。
中村:羽鳥さんが選ぶ東京ステーションギャラリーの名品この1点!をあげるとしたらどの作品になるでしょうか。
羽鳥:とても難しいですが、吉村芳生 (1950-2013)の《SCENE 85-8》(1985年)でしょうか。一見写真のように見えますが、紙に鉛筆で描かれています。郷里の山口県で多くの作品を残した吉村が、まだ東京に住んでいた頃、丸の内のオフィス街を撮影した写真を元に、均等に区分した画面を一コマごとに鉛筆で正確に写し取るという反復作業を続けて描きあげた作品です。「吉村芳生 超絶技巧を超えて」や、開館30年を迎えるにあたり初めて当館の収蔵品をまとめて紹介した企画展「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」で公開しました。
中村:2018年に観た「吉村芳生 超絶技巧を超えて」展の衝撃は今でも鮮明に覚えています。膨大な量の新聞や自分を記録していく作品群と、郷里の花畑を大胆に描くシリーズの対比が東京ステーションギャラリーの雰囲気の異なる2、3階展示室でそれぞれ輝きを放っていました。
青い日記帳「吉村芳生 超絶技巧を超えて」
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=5305
羽鳥:地理的・歴史的に近現代日本の中心に位置する、東京駅丸の内駅舎という「場」に美術館があることの意義を常に意識しながら美術館運営、展覧会開催に臨んでいます。その結果として皆さまの記憶に深く残るようであれば、これ以上の喜びはありません。
中村:最後に「丸の内のアート人に聞く!」恒例の美術館近くにある羽鳥さんおススメの美味しいお店を紹介して下さい。
羽鳥:これまた迷いますね~。東京エキナカを敢えて避けて、新丸ビルにある以下の2軒を私のおススメ店として紹介します。どちらもよく知られているかもしれませんが、何度行っても飽きない美味しさを提供してくれるお店です。
旨酒・料理 酢重ダイニング
東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸ビル5F
https://www.suju-masayuki.com/shops/marunouchi.php
https://www.marunouchi.com/tenants/4506/index.html
欧風小皿料理 沢村
東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸ビル 7F
https://www.b-sawamura.com/
https://www.marunouchi.com/tenants/4711/index.html
東京ステーションギャラリー
住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1
開館時間:10:00~18:00、金曜日 10:00~20:00 入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:原則、月曜日(祝日の場合は翌平日/ただし会期最終週、ゴールデンウィーク・お盆期間中の月曜日は開館)、年末年始、展示替期間
TEL:03-3212-2485
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
【展覧会スケジュール】
「春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ」
2023年9月16日(土)~11月12日(日)
「みちのく いとしい仏たち」
2023年12月2日(土)~2024年2月12日(月)
「生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真」
2024年2月23日(金・祝)~4月14日(日)
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