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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第93回

〈前編〉ジャンプTOON 統括編集長 浅田貴典さんロングインタビュー

縦読みマンガにジャンプが見いだした勝機――ジャンプTOON 浅田統括編集長が語る

2023年10月28日 15時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII

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雑誌型アプリと書籍型アプリ

―― 従来の紙マンガの世界では、雑誌での連載を経て認知を高め、単行本で収益化を図るというモデルが成立しています。横開きのマンガでは、雑誌型アプリと書店型アプリでそのモデルの構築が進みました。一方で縦読みマンガについては、書店型アプリが急速に普及したけれども雑誌型アプリはこれから作っていこう、ということですね。

浅田 はい、それをやろうとしています。作品を広く読者さんに知らしめることが作家さんに渡せる価値だと思っていますので、それに即した形で事業を進めていければと。

―― とても合理的なお話だと思います。一方で、ピッコマをはじめ書店型アプリもアプリオリジナルの作品を展開するなど、雑誌的な取り組みも進めているように見えますが、それはどう捉えていますか?

浅田 自社オリジナルのコンテンツをどのくらい開発するか、予算をどれだけとるか、編集部を内製するか、近しい編集プロダクションにお願いするか、それは電子書店さんそれぞれの客筋と、それに合わせたビジネススキームでさまざまですね。

 ただ我々は「作家と作品を作る」という事業をやり続けている企業ですので、他社の動向にとらわれず作品を作り続けたいと思っています。

―― なるほど。

浅田 海外(韓国)の場合は、これがまた少し違ってきていて、映像化できる強いIP(著作物)を作りたいという指向性が強い書店型アプリもありまして、これは雑誌寄りかなとは思います。つまり、同じ電子書店でも国・地域、そして各プレイヤーによって立ち位置が異なるわけです。

ジャンプTOON 浅田統括編集長「“作品を広く読者さんに知らしめる”ことが作家さんに渡せる価値だと思っています」

「編集部を持つこと」は一見、非合理的に思えるが……

―― スマホマンガ初期の頃、たとえばcomicoはIPを持つと言う方向性を示していましたし、その立ち位置をどこに置くかは試行錯誤が続いてきましたね。しかし、電子書店すなわちIT企業が編集部を持つ、ということの難しさも見てきました。

浅田 そうですね、マンガボックスさんもDeNAさんからTBSさんのほうに移りましたしね。

―― 文化が違うというか……。

浅田 端的に言ってしまうと「非上場」というのは大きいと思います。ピッコマさんのように上場という方向がむしろ企業として正しいあり方で、我々のような非上場なのが異常です。短期的な収益に基づく判断で、作品や事業に投資を「していない」。

 普通は1~2年で儲かるかが問われるわけですが、我々は「ここに水を撒いても芽が出ないかも」という場所にも水を撒き続けていますので……。

 とは言え、「いつか芽が出る」は甘えにもつながりますので、メディアミックスなどを待たずに儲かっているところを目指さないと、ですけどね。そうしないと皆が不幸になりますから。

―― でもそれは、良く言えば強みでもあります。

浅田 非上場だからできる。正確には、非上場かつマンガという一次コンテンツから、デジタル、ライツ展開などワンストップでコンテンツからの利益を上げている企業だからこその非合理的な判断で作品を続けられる、というところはあります。

―― そこが世界にも展開できている日本のコンテンツの強み、とも言えそうですね。

浅田 どうなんでしょうね……しかし少なくとも私もアプリなどを勉強し始めていますけれども、現在の私の知識で当時の少年ジャンプ+をスタートさせようって話を聞いていたとしたら、必死に止めたと思いますよ。

 ビジネスとしては明らかに「博打」過ぎるので、まともな経営者ならあれはできない。けれども、やり切って成功している。彼らは立派なんです。

―― 少年ジャンプ+のMAU(月間アクティブユーザー数)は出版社系のマンガアプリでトップ。総合でもピッコマ、LINEマンガに次ぐ位置につけています。

浅田 そういったランキングを見るときに気をつけないといけないのは、出版社が運営する雑誌型アプリと、電子書店系アプリの位置づけは違うということですね。

 メディアなどにはランキングをもとに「日本勢は海外勢に負けている」なんて書かれちゃうんですけど、たとえばLINEマンガさん、ピッコマさんは、私たちの作品をめちゃくちゃ売ってくれていますからね。対立構造じゃないんです。

 雑誌型アプリは「特定の作品を見たい」というニーズが強く、一方で書籍型のマンガアプリにもそのニーズはあるものの、主としては「時間潰し」や「単行本を一気読みしたい」というニーズが強かったりします。つまり、利用者のモチベーションが違うんです。

―― おっしゃる通りです。経済誌などはどうしても対立構造を持ち込んで面白く書こうとしがちですが、それがそのまま一般認識になってしまうのはマズいですよね。

 一方で、MAUのようなデータが示すのは、ユーザーの限られた可処分時間のなかで、どのアプリがよく見られているのか、という点だったりもします。そういう観点から少年ジャンプ+がこの位置につけているのは意味があるかなと思っています。

浅田 この12~3年、comicoさんが先駆けとなってスマホマンガがベースとなり、LINEさんとピッコマさんがそれに続き、コロナ禍があって……という流れのなかで、マンガの強みは「細切れ時間に楽しめる」ことだなと。

 読者の動態を見ているとホントみなさん忙しいので、自由に見始められて、そしていつでも好きなところで止められる、というのは相当な優位性です。動画などもTikTokがそうですし、YouTubeもショート動画が強みを持つわけです。

 つまるところ、我々のアプリも雑誌型と電子書店系のどこに点を打ってビジネススキームを定めるかがポイントになりますので、そこはいま揉んでいるところですね。

後編はこちら

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