ポリティカル・コレクトネスとキャンセルカルチャー
キャンセルカルチャーとは、特定の人物による過去の不適切な発言や行動、犯罪などを掘り起こし、それをSNSなどで(多くの場合は否定的な意味合いを込めて)拡散させることによって、当人の社会的地位を失わせる運動および風潮を指す。
その例として挙げられているのは、東京2020オリンピック・パラリンピック開催以前に大きく問題化した小山田圭吾氏の炎上事件や、芸術とその表現方法のボーダーラインについて多くの賛否を呼ぶことになった、現代美術家・会田誠氏のキャンセル騒動などなど。
キャンセルカルチャーの特徴は、キャンセルされるような地位についた者が攻撃の対象になる一方で、同じことをしていても、キャンセルできる地位になければ無視されることだ。(55ページより)
そして、ここに絡んでくるのが、「政治的な正しさ(適切さ)」を意味する「ポリティカル・コレクトネス、いわゆる「ポリコレ」である。
いうまでもなく「道徳的・倫理的な正しさ」の基準はひとつにまとめられるものではなく、人によってばらつきがある。にもかかわらず、共同体としての社会を運営していくためには、「なにが正しく、なにが間違っているか」を政治的(Political)に決めなくてはならなくなるのだ。
もちろんそれは多くの矛盾を生み出すことにもなり、だからこそキャンセルカルチャーのような動きを引き起こしてしまうことになるわけだが。
わたしたちは、ものごとがフェアであるかどうかをものすごく気にする。社会心理学では、これを「公正世界信念(belief in a just world)」という。「世界は公正につくられていなければならない」という信念で、みんながこの思いを共有することで秩序が保たれるのだが、その一方で、「不道徳」と見なされたものに対するバッシングの原因にもなる。(237ページより)
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