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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第54回

【前編】クランチロールCOO ギータ・レバプラガダ氏ロングインタビュー

世界のアニメファンに配信とサービスを届けたい、クランチロールの戦略

2023年10月14日 15時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●ASCII/村山剛史

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■日本アニメ業界におけるグッズ海外販路の課題

 近年、日本のアニメ業界ではファンのニーズが高い「グッズ」が新たな収益源として注目されている。

 グッズの販売形態には2種類ある。1つは「ライセンスビジネス」。海外も含めた他企業に作品版権を使用する許諾を与え、代わりにロイヤリティーを受け取るというもの。

 そしてもう1つが、近年注目されている「直接販売」だ。版権を持つ会社自身がグッズを作りファンに向けて販売することで、ロイヤリティーよりも高い収益を得られる。「ジャンプショップ」「プレミアムバンダイ」「TOHO animation STORE」「京アニショップ」などがそれに相当する。

 だが、「海外発送」となると対応できる企業はまだ少ない。大きなハードルは、輸送費、各国ごとに異なる宅配対応、そして現地言語対応可能な人材の不足だ。また海外に常設店舗を置くことは難しいため、海外イベント会場で直接物販を実施する企業も多い。

■ファンが楽しむためのインフラ整備

ギータ いろんな関心を持ったファンがいるけれども、クランチロールでは「アニメに関するすべてのこと」を取り扱い、信頼してもらえるサービスを目指しています。ゲームや製品ももちろんそうですが、クランチロールが届けている「ニュース*」もそれにあたります。
*日本からの閲覧は不可。

 作品や業界に関するニュースを作り、加えてそのニュースから独自の記事も書いてファンに11言語で世界に届けています。ここは力を入れているところです。

―― 「ニュース」に力を入れているのはなぜですか?

ギータ アニメに関するすべての情報をファンに与えよう、という思いからです。ファンにとって「クランチロールが一番信頼できるアニメの原点だ」と思ってもらえるような位置付けにしていきたいと考えています。

―― 御社の目的は「多様な趣味を持つファンを受け入れる」だけでなく、「海外アニメファンにとってコアにあたる立ち位置を獲得する」ところにもありそうです。

ギータ アニメに関する信頼を得るという点で、ニュースと同様に「クランチロール・アニメアワード」も重要です。「アワード」では、アニメに関するすべてのことを祝うようなお祭りをしたい。そういう点には価値があると思うので、強く意識しています。2024年のクランチロール・アニメアワード授賞式は再び日本で開催します。

■ファンとクリエイターを結ぶコミュニティーを作りたい

ギータ アニメの成長にともない、ファンダムの多様性や興味も広がっています。クランチロールは、それぞれのファンが、好きなジャンルをより深く網羅できるような場所になることができればと思っています。

―― 御社の持ち味の1つは「ファンが楽しむ場所のインフラ整備」だと思いますが、より強いコミュニティーを作る構想があるということですか。

ギータ はい。ファンとファンだけでなく、ファンとクリエイターもつなげたい。さまざまな分野に関心を持つファンに興味を持ってアクセスしてもらえるようなインフラを作り上げていきたいです。

 最初にクランチロールでは「現地語の吹替版に力を入れている」というお話をしました。この施策は、世界各国にいるお客様に現地言語でのSNSやコミュニケーションを楽しんでもらうための準備でもあるのです。

―― 御社が配信で現地言語の拡充に取り組んでいるのは、コミュニティー展開も見据えてのことなんですね。

ギータ はい。できるだけ多様な言語を持つファンに向けて、ファンとつながる方法を作っていこうと考えており、コミュニティーもその1つです。

■『鬼滅の刃』タイムズスクエア広告や「アワード」に巨額の費用を投じた理由

―― 今年(2023年)3月に、御社の「クランチロール・アニメアワード 2023」が日本で初開催されました。私もプレスとして参加しましたが、その規模の大きさ、豪華さに圧倒されました。また、6月は『鬼滅の刃』最終回に合わせたニューヨークの一等地・タイムズスクエア全面広告ジャックに驚かされました。

 どちらも日本のアニメ業界では考えられないほど多額の費用を投じて「華やかさ」を演出した理由をお聞かせ下さい。

ギータ 『鬼滅の刃』のタイムズスクエア広告については、アニメ自体のコンテンツの美しさ、作品としての成功を、そのまま反映したいというのがプロモーションのやり方に現われたと思っています。

 『鬼滅の刃』は世界中のファンに影響を与えた作品で、みんなが好きなアニメとなっている。だからそれを世界中の人が知っている大きな場所、タイムズスクエアでお祝いすることでそれを表現したいと考えました。

 そしてもう1つ、大きい理由があるんです。

 ……昔、「アニメ」はニッチな存在で、狭い範囲で知られるものでした。

 それが今は世界中で常に数百万人が「アニメ」を話題にしているほど、グローバルなポップカルチャーに育ちました。

 アニメの立ち位置は大きく変わったのです。私たちはそれを反映する形で、「アワード」も含めたイベント、そしてプロモーションを常に華やかにしていくことが大切だと考えています。

―― ルーツが2000年代アメリカのアニメファンにある御社らしい言葉だと思いました。日本アニメがまだニッチと言われていた時代、アメリカではさらにニッチという位置づけだったかもしれません。

 次回はかつてない規模で開催された日本アニメ作品の授賞式「クランチロール・アニメアワード」からお話をうかがっていきたいと思います。

後編はこちら

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