日本のアニメを、海外で、ネットで見るというと、違法なものという印象が強い。さすがにYouTubeには少なくなったが、DailymotionやVeohといったサイトには、いまでも日本アニメが、それも翻訳された字幕付きで、多数アップされているからだ。
ところが、日本アニメの海外での有料ストリーミング配信で、成功している企業がある。米国のベンチャー企業「Crunchyroll」(クランチロール)だ。
今年1月にテレビ東京と提携して、アニメ『NARTO』の配信を開始して以降、現在では世界各国の450万人の会員に向けて、約200タイトル、5000本の映像を配信しているという。
このクランチロールとは、どんなサービスで、何をねらっているのか。東京・千代田区、新丸の内ビルディングにある同社オフィスにて、日本法人のビンセント・ショーティノ代表取締役社長にお話をうかがった。
より早く、字幕付きでアップすることが
違法アップロードへの対策に
―― 配信している番組内容は、日本アニメ専門なのでしょうか?
ショーティノ 主力は日本のアニメですが、韓流ドラマなども配信しています。日本だけではなく、東アジア圏のコンテンツを、世界にストリーミング配信しています。
―― 有料で配信されているのですよね。全部有料なんですか?
ショーティノ アニメの場合、月額7ドル(約635円)を支払っていただくと、日本での放送から1時間以内に、480Pや720Pといった高解像度な映像でストリーミング配信を見られます。日本での放送から約1週間後には、CM付きの無料ストリーミング配信も行いますが、ビットレートは200kbps程度で解像度は低くなります。
―― ですが、違法にアップされたアニメなら、無料で見られますよね。しかも、ご丁寧に字幕まで付いています。それらに勝てるのでしょうか。
ショーティノ 確かに、インターネット上には、数多くの海賊版が出回っています。アニメの場合は特に、一度放送されると、「ファンサブ」と呼ばれるユーザーグループが、録画してすぐにエンコードし、字幕を付けて、各種の動画共有サイトにアップしてしまいます。
コアなアニメファンには、日本人がテレビで無料で見ているアニメを、日本人と同じタイミングで、同じように見たいという欲求があります。
だから、日本で放送されてから、違法な海賊版がアップされるよりも早く、しかもちゃんと字幕のついた映像をアップすれば、ユーザーはこっちに来るはずです。
たとえば『NARTO』。昨年、インターネットで一番人気があったアニメです。違法にアップロードされた映像も多かったのですが、昨年と今年を比較すると、海賊版のダウンロード数は74%も減ったと言われています。
有料だけれど、クランチロールが日本での放送から1時間以内に配信しているから、そっちを見よう、となるわけです。つまり、クランチロールで配信することが、海賊版の対策になります。実際、『NARTO』では最大規模の「dattebayo(だってばよ)」というファンサブは、クランチロールが『NARTO』の配信を始めたことで、違法な活動をやめていますから。
―― 要するに、日本での放送から1時間後に、字幕を付けて配信するのがポイントということですね。吹き替えはしないのでしょうか。
ショーティノ 海外のコアなアニメファンには、吹き替えは好まれませんので、英語の字幕を付けて配信しています。
―― 7ドルという価格もミソですね。5000タイトル全部が、7ドルで見放題というのは安くないですか?
ショーティノ 6ドル95セントとか、この手のサービスはだいたい7ドル程度が最適な月額料金とされていますからね。