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印南敦史の「ベストセラーを読む」 第3回

『ペットロス いつか来る「その日」のために』(伊藤秀倫 著、文春新書)を読む

「ペットロス」ということばは軽すぎる 「親ロス」とは言わないのに……

2023年09月07日 07時00分更新

文● 印南敦史 編集●ASCII

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 タイトルを『ペットロス いつか来る「その日」のために』(伊藤秀倫 著、文春新書)とはしたものの、著者は「ペットロス」ということばには少なからず抵抗感を持っているのだそうだ。自身が数年前に愛犬を亡くした経験をお持ちであるため、その際に受けた衝撃にくらべ、ことばそのものが「軽い」と感じてしまうというのである。

 私も数年前に、かわいがっていたセキセイインコを亡くしたことがあるので、その感じ方には共感できるものがある。犬であろうがインコであろうが、猫であろうが子豚であろうが、飼い主にとってペットは「家族」にほかならない。いいかえれば、“ペット以上”の存在価値があるということだ。このことについては、著者も次のように述べている。

飼い主にとっては、愛するペットを失う悲しみは、大切な存在を失うという意味では、家族や親しい友人を失う悲しみとまったく変わらない。だが、家族や親しい友人に先立たれた状況を「親ロス」とか「親友ロス」とは言わないだろう。なぜなら、残された人となくなった人の間の物語や関係性の重さが、そうした言葉が入り込む隙を許さないからだ。(16〜17ページより)

 その存在が家族と同等であるのだとしたら、当然ペットにも同じ感覚が当てはまるはずだ。でも残念なことにそれは、ペットを飼ったことがない人には理解しづらいものでもある。だから彼らには、ペットを失った飼い主が憔悴するほど悲しんでいる状態は理解しづらい。そのため「ペットロス」ということばには、“家族や親しい友人の死とは別の悲しみ”としての意味が加わることになる。

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ペットロス いつか来る「その日」のために (文春新書)

「ペットの死」ピンとこないほうが自然

 ペットロスという言葉が生まれ、浸透したことの背景には、「ペットが死んだくらいでそんなに悲しむなんて……」という“ペットを持たない人の視線”が絡みついている。

 ただし念のために書き添えておくが、それは決して“ペットを持たない人”を非難したいということではない。そうではなく、ペットを持たない以上、「ピンとこないことのほうが自然」なのだ。したがって、ペットを持つ人と持たざる人との間の溝が埋まらないのは当然のことなのである。

 まず、その点を前提にしておかないと、ペットロスに関する問題を客観視することはなかなか難しい。

 だが、そもそも「ペットロス」ということばをどう定義するべきなのだろうか? ペットロスに詳しい日本獣医生命科学大学の濱野佐代子教授は著者の取材に対し、「『ペットロス』とは、『ペットを亡くしたときの飼い主の深い悲しみの反応と立ち直りまでの全容』と定義している」と答えている。

重要なのは「歩み寄り」

 ペットを失った直後に、深い悲しみや孤独感、後悔や罪悪感といった感情を抱くことはごく自然な反応。問題はその期間が長引き、精神的不調のみならず、睡眠障害や消化器症状、食欲異常、頭痛などの身体症状が生じ、「なにもする気が起きない」というような無気力状態が持続してしまう場合だ。現実的にそういったことが少なくないからこそ、ペットロスは「病気」のひとつとして扱われがちでもあるのだろう。重要なポイントは、濱野氏の以下のことばだ。

「誤解してはいけないのは、ペットロスは病気ではないということです。大切な存在を失うという意味では、家族とか親しい友人をなくすのと同じです。ただペットロスの場合、周囲の理解を得られにくい」(24〜25ページより)

 だから前述のような、「ペットが死んだくらいで……」というような反応が生まれてしまうのだ。それどころか、飼い主自身が「こんなに悲しむ自分はおかしいんじゃないか」と思ってしまうことさえあるという。

 だとすれば、重要なのは「歩み寄り」ではないだろうか? もちろんペットを持たない人にとって、ペットが死んで悲しむ人の気持ちは理解しづらいだろう。だからこそ、その悲しみの対象を、家族や友人など、自分にとっていちばん大切な相手に置き換えて考えてみればいい。繰り返しになるが、ペットを亡くす悲しみと、家族や友人を亡くす悲しみは、本来同等であるはずだからだ。

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筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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