LC3は優れたコーデックであるが、フラウンホーファーではさらにその先も用意している。それが次世代規格の「LC3plus」である。LC3plusについてはこの連載でも触れたことがあるが、さらに詳しいことがわかった。
LC3よりも短いフレーム長、システム全体での遅延は10ms台に
まずLC3について簡単にまとめる。前回書いたように、LC3は双方向コミュニケーションのためのコーデックである。それゆえに低遅延が重要となる。データのフレーム長がとても短いのでバッファは小さくて済む。これをLE Audioのアイソクロナス転送と合わせることで、低遅延特性が十分に発揮されるわけだ。LC3はLE Audioの標準コーデックとしての役割をうまく果たしている。
この低遅延特性は、LC3を拡張したLC3plusでさらに改良されている。
LC3plusは、LC3と同様、フラウンホーファー IISとエリクソンが開発したコーデックで、ETSIで規格化されている。ETSIは欧州電気通信標準化機構のことで、アメリカでのIEEEのような標準化団体である。
LC3plusはLE Audioの標準コーデックではないが、LE Audioに対応できる。またLC3plusはBluetooth ClassicのA2DPにも対応しているので、従来のBluetooth規格でも使用できる。
フレーム長はさらに短く、LC3の10msに対して、LC3 plusは5msあるいは2.5msに短縮化している(ここは実装により異なるようだ)。エンド・トゥ・エンドの(システム全体での)遅延は、LC3が28msであるのに対して、LC3plusでは15msあるいは10msを実現できるという。
通信環境に合わせてビットレートを調整できる
LC3plusの特徴は低遅延だけではない。接続安定性を向上させ、ハイレゾ対応したコーデックでもある。2022年に日本オーディオ協会の“Hi-Res Audio Wireless”ロゴ認証を取得。最大96kHz/24bitの伝送ができる。
フラウンホーファー IISによると、LC3plusはハイレゾ再生において、同一ビットレートであれば他のコーデックより優れたTHD+N(全高調波歪み+ノイズ)性能を発揮できるという。つまり、他のハイレゾコーデックより低歪み・低ノイズで音質が良いとしている。
LC3plusは、ハイレゾ再生でフォールバック(縮退)動作が可能であるという特徴も持っている。縮退動作というのは通常よりも動作条件が悪化した場合に、品質(ビットレート)を落としても動作を続けられる機能だ。例えば、電車の中などの通信環境が悪い時に縮退動作に移行して再生を続けられる。通常は数百kbpsで動作するが、縮退動作時はそれを大幅に落とす。そして、この縮退動作モードにおいても音質を担保できるという。言い方を変えると、低ビットレートでの再生や厳しい通信環境に耐えうるハイレゾコーデックであると言える。

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