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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第730回

昨今のAI事情とプロセッサー事情 AIプロセッサーの昨今

2023年07月31日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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 AIプロセッサーシリーズも気が付いたら66回もの連載になっており、やっと主要なAIプロセッサーは網羅したかな、という感じになってきた。厳密に言えば、まだ触れてない製品もいくつかあるのだが、おおむね問題ないかと思う。

 ちなみに外したものの代表例は、AmazonがAWSで採用しているInferentia/Inferentia 2、Tensentが出資しているEnframe DTU 1.0、MetaのMTIA、それと現在マイクロソフトが開発中と言う自社製AIプロセッサー(まだ完成していない模様)などで、いずれも自社のサービス向けに自社で開発、外販はしないものである。

生き残りをかけ必死なAIプロセッサーベンダー

 そんなAIプロセッサーの市場であるが、やはり当然のように淘汰は激しい。連載で言えば、連載568回で取り上げたWave Computingは2020年4月にChapter-11(米連邦破産法11条)入りを発表したところまで説明したが、その後の破産オークションでTallwood Venture Capitalが再び同社の権利を獲得。社名をMIPS Computingに改め、現在も存続している。ただしもともとのAIプロセッサーの路線はおろか、MIPSのアーキテクチャーも捨て、現在はRISC-VプロセッサーIPの会社に変身した。

 連載603回のETA Computeは、2020年にSynapticsにコア技術をライセンスすることを発表したところまでは説明したが、同社はその後もいろいろやっていたものの、2022年1月にClaus Stetter氏をSales and Business Developmentの副社長として迎え入れるという発表があって以降の動向が不明である。

 実はClaus Stetter氏、それ以前はDSP Groupという会社でMarketing and Communicationsの副社長を務めており、ところが同社はSynapticsに買収されている。要するにこの人事はSynapticsによりETA Computeに対してのコントロールの強化(もともと2020年に1250万ドルの投資の際に、取締役会にSynapticsからの人間が送り込まれている)と見なすのが正しい気がする。

 ただし同氏は昨年9月に退任しているあたりを見ると、現状ETA Computeがどこまでちゃんと活動しているのかはかなり怪しいものがある。一応2022年10月にはAIカメラ関連のリリースもあるので、一応まだ会社そのものはあると思われるのだが、ビジネス的にはかなり厳しそうである。

 連載589回で触れたFlex Logicは、会社そのものはまだ健在だし、ビジネスも順調であるが、InferX X1のチップ販売というビジネスからは撤退し、InferX X1の核となるAIプロセッサーのIPを提供するビジネスに転換したことを今年4月24日に発表した。元々同社はIPを提供する企業であり、Infer X1は同社としては初のチップ売りビジネスであったが、必ずしも順調には進まなかったようだ。

 GraphCoreは連載622回連載658回で紹介しているが、同社は昨年末に大幅なリストラを敢行している。実際同社のAbout usページのタイムラインを見ると、2021年末の時点では本社のあるブリストル以外にロンドン、ケンブリッジ、パロアルト、オスロ、北京、新竹(台湾)、ソウル、シアトル、オースチン、ミュンヘン、パリ、東京と13拠点も存在することが示されていたのに、Contact usページの“Where to find us”ではパロアルト、オスロ、新竹、ソウル、シアトル、オースチン、ニューヨーク、ミュンヘン、パリ、東京が落ちているのがわかる。

昨今のAI事情とプロセッサー事情 AIプロセッサーの昨今

この後上海と深圳、ポーランドのグダニスクが追加され、ピーク時で本社以外に16拠点を構えていた

昨今のAI事情とプロセッサー事情 AIプロセッサーの昨今

ヨーロッパと中国の開発拠点だけを残した感じ。アメリカは完全撤退である

 東京オフィスは2022年いっぱいで閉鎖になり、GraphCoreの日本のカントリーマネージャーだった中野氏がTenstorrentの日本のカントリーマネージャーになった、という話は連載713回で触れた通りだ。まだ本社のメンバーは残っているが、特にパロアルトやオースチンで勤務していたエンジニアが一斉に他社になだれ込んだという話が伝わっており、まだ会社の存続が疑われるほどではないにせよ、ある程度引き締めないとまずい状況になっていると推察される。

 連載684回で取り上げてBIREN BR100は、発表直後に米中貿易戦争に巻き込まれて輸出の道が閉ざされ、次いで米中半導体戦争のおかげでTSMCでの製造が不可能になった結果、製品出荷の目途が立たなくなった。Broombergは7月18日、同社が香港で新規上場株式を予定していると報じているが、どうやって製造を再開させるつもりなのかは不明である。

 筆者が把握しているのはこの程度だが、競争が激しい分野なだけに、今後も撤退していくプレイヤーは少なくないだろう。逆に順調に新製品を投入しているメーカーもある。連載572回で紹介したCerebrasは、すでに7nm世代で製造したWSE-2を2021年に完成させ、システムの出荷および同社のクラウドサービスを利用しての計算能力の提供を行なっているし、連載595回で触れたSambaNovaは、SN10から計算能力を倍増させたSN30を2022年に出荷開始しており、すでにこちらが製品の主流になっている。

 市場そのものが拡大していけば、ある程度は各AIプロセッサーベンダーの獲得できる規模も広がっていきそうな気はする。まずはその範囲で生き残りを図るのが各AIプロセッサーベンダーの戦略、ということになるだろう。

 もっともこの業界の場合、市場が広がるにつれ寡占化が進む、という事例が多い。x86しかり、Armしかりである。その意味では、ある程度のサイズを超えて市場が広がったら、再び激しい生き残り競争が勃発するという可能性もあるわけで、そのあたりまで踏まえてベンダー各社がどういう戦略を立てているかは重要なポイントとなりそうだ。

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