ネットアップは、2023年5月からスタートしている同社2024年度の国内事業戦略について説明した。シンプリシティ、セキュリティ、セービング(コスト削減)、サステナビリティの4つのSを価値として提供すべく、データファブリックとクラウドの2つのプラットフォームを提供。データ、クラウド、AIの3つのトレンドに対応するとアピールした。
4つのSを提供するデータファブリックとクラウドの製品群
登壇したネットアップ 代表執行役員社長の中島シハブ ドゥグラ氏は、「ネットアップの基本戦略は、すべての製品やサービスにおいて、シンプリシティ、セキュリティ、セービング(コスト削減)、サステナビリティの4つのSによる価値を提供することである」とアピールした。
その上でドゥグラ氏は、「シンプリシティではインフラの統合、簡素化、自動化による業界最断端の技術を提供。セキュリティではランサムウェア対策や災害対策におけるデータ保護と回復性を確実なものにする。セービングではハイブリッド/マルチクラウド環境において、データのライフサイクル全体でのコストの最適化を実現する。サステナビリティでは、データインフラの効率性を高め、ストレージのデータ消去、機材の適正な廃棄の観点からも顧客を支援する」と述べた。
また、ネットアップの事業領域を、ストレージおよびデータによる「データファブリックプラットフォーム」と、クラウドオペレーションによる「クラウドネイティブアプリケーションプラットフォーム」と定義し、それらを構成する主要製品について説明した。
データファブリックプラットフォームでは、データファブリックを具現化する統合データ管理コンソールの「NetApp BlueXP」と、オンプレミスデータストレージ、クラウドデータストレージで構成しているという。
NetApp BlueXPは、2022年11月に開催した同社年次イベント「NetApp INSIGHT」で発表したもので、ハイブリッド/マルチクラウド環境において、操作性が異なったり、アーキテクチャーの違いがあった場合にも、エンタープライズデータの統一管理を実現。バックアップ、セキュリティ、コンプライアンスといった企業のITポリシーに基づいたデータ管理が可能になる。
ネットアップ チーフテクノロジーエバンジェリストの神原豊彦氏は、「セキュアにデータを格納するだけでなく、シームレスに連携し、ハイブリッドストレージとして機能し、データにモビリティを与え、管理ポリシーによる制御ができる。データを自由に活用するための管理ツールになる」と位置づけた。
フラッシュストレージが高価という概念は覆っている
また、データストレージにおいては、QLCを採用したAFF C-Seriesが市場から高い評価を得ていることを示しながら、「ストレージの購入を検討している企業には、必ずこの製品を提案している」と語り、「QLCがエンタープライズ分野でも利用できる水準となり、記憶容量が飛躍的に増加。GBあたりの容量単価は、既存のストレージと比べても、すでに逆転現象が起きている。フラッシュストレージが、高価格であるという概念を覆している」とした。
AFF C-Seriesでは、従来比50倍以上の高密度化を実現。SAS HDDで1.5PBの環境を構築するのに1200本のストレージが必要となり、42Uラックでは2.5個分を埋めてしまうのに対して、AFF C-Seriesではわずか2Uに収めることができることを示した。「フラッシュによる高速性とともに、ラックスペースは98%削減でき、消費電力も97%削減できる。サステナビリティの観点からも効果がある」(神原氏)と語った。
新たな製品として、SAN専用フラッシュストレージのASA Seriesを投入。ミッドレンジでありながらも、99.9999%の高可用性を実現し、年間ダウンタイムは32秒以下を達成できることから、VMwareやミッションクリティカル用途に最適な製品と位置づけた。神原氏は「ネットアップでは、すでに2万社を超えるお客様でのSANワークロードの採用実績があり、SAPやOracle Database、VMwareなど、高い可用性が求められる環境で稼働している。ASA Seriesでは99.9999%の可用性を保証するプログラムを用意し、安心感を提供し、デジタルシフトを支援することができる」と述べた。
ネットアップでは、この2つの製品以外にも、HDDとSSDの混在環境を実現するFAS Series、性能重視のフラッシュストレージであるAFF A-Seriesを用意。4つのストレージ製品群をラインアップしている。これらのすべてのストレージ製品を、ONTAP を通じて、シングルアーキテクチャーによる同一操作で利用でき、パブリッククラウドのストレージを含めて統一した利用ができる点も強調した。
このほど、ONTAPの新たなソフトウェアライセンスモデルとして、「ONTAP One」の提供を開始したことも発表した。ネットアップのすべてのストレージ製品で利用できるとともに、ランサムウェアに関する予防や検知、復旧を可能にする対策機能や、バックアップや災害対応などのデータ保護機能、スケールアップを容易にする管理機能なども提供する。
「NetApp BlueXPやストレージ製品、ONTAP Oneを通じて、4つのSを同時に解決することができる。また、データファブリックプラットフォームを実現する上で、ストレージをシームレスに追加ができること、ひとつのソフトウェアですべての製品を管理できる。これが、ネットアップのデータファブリックプラットフォーム戦略の特徴になる」(神原氏)とした。
クラウドの手軽さをオンプレミスで実現するサブスクリプション型ストレージサービスのNetApp Keystoneについても言及した。
神原氏は、「NetApp Keystoneは、多くのクラウドベンダーとの協業によって実現してきたストレージサービスの知見を、オンプレミスにも適用することができるものになる。オンプレミスとパブリッククラウドの間で、データやワークロードを柔軟に移動できるほか、サブスクリプション型によるシームレスなハイブリッドエクスペリエンスを提供できる。Keystoneの案件数は前年比で約3倍、提携パートナー数は約2倍に増加している」などと述べた。
2つの新プログラムとAIに向けた取り組み
また、2つの新たなプログラムを開始したことを発表した。
ひとつめは、保証を強化した「NetApp Advance」である。これまでに提供してきたフラッシュメディア交換保証プログラムやストレージ容量効率化保証プログラムなどに加えて、新たなプログラムとして、無期限のコントローラアップグレードなどを提供するストレージライフサイクルプログラム、プロフェッショナルにわる導入設計のほか、バックアップデータから確実なデータ復旧を保証するランサムウェアリカバリ保証プログラム、ミッションクリティカルユーザーを対象に、ASA Series の可用性を保証する99.9999%のデータ可用性保証プログラムを追加した。神原氏は、「これらのプログラムを通じて、安心して利用してもらえる環境を実現し、『NetApp体験』を提供できる」と語った。
もうひとつは、新年度からスタートしたパートナーを対象にした新たな支援プログラムの「Partner Sphere」である。同プログラムの詳細については説明しなかったが、「データ、クラウド、AI、カスタマエクスペリエンスを全方位で向上させる仕組みで、パートナーに価値を提供できるようになる」と述べた。
一方で、AI分野において、NVIDIAとの協業を進めていることも紹介。ビデオメッセージを寄せたエヌビディア 日本代表の大崎真孝氏は、「実効性のあるAIインフラの提供に向けて長年に渡り、共同で取り組んできた。エンタープライズAIインフラとなるNVIDIA DGXと、ネットアップのオールフラッシュストレージを組み合わせたリフアレンスアーキテクチャの導入は、AIワークロードの統合、簡素化、ROIの向上を実現。様々な産業におけるAI開発を加速させ、企業におけるAIの社会実装を短期間で実現できる」などとした。
ネットアップでは、AIプラットフォームリファレンスアーキテクチャとして、「NetApp Data Pipeline」を発表している。「エッジ、コア、クラウドのデータの流れに着目した業界唯一のリファレンス アーキテクチャーである。ハードウェアに加え、ソフトウェアツールをセットにして提供することで、データの自由な移動を、シンプルで、セキュアに実現することができる。NVIDIA AI Enterprise with NetAppにより、AIをプロダクション環境で利用するための堅牢性、セキュリティ、信頼性を高めることができる」(神原氏)などと語った。
日本法人も25周年 イノベーションがDNA
また、会見では、1998年に日本法人を設立してから、25周年を迎えたことに触れた。
ドゥグラ氏は、「米本社が設立してから6年後に日本に進出した。当時はインターネット黎明期であると同時に、エンタープライズデータストレージの初期段階であり、ネットアップは、その時点から日本で事業を開始している。ネットアップはイノベーションがDNAであり、新たなストレージアーキテクチャーを世界に送り出してきた経緯がある。NASは、ストレージ市場を大きく変えたが、ネットアップはいまでも国内NAS市場においてトップシェアを獲得している。また、仮想ストレージ技術や、複数のクラウドをまたがるデータファブリックの実現など、ユニークで価値があるソリューションを提供してきた。さらに、SANストレージやオブジェクトストレージ、暗号化技術などの開発を継続。これらは標準化に貢献することにもつながっている」などと振り返った。
さらに、「3つのメガトレンドとして、データ、クラウド、AIの流れがあり、いまは、これらが交わるエンタープライズITの大きな交差点にいる。新たなデータが毎秒作られ、多くの企業がデータ駆動型経営に移行し、クラウドがDXを加速し、AIがすべての産業においてゲームチェンジャーになる時代が訪れている。ネットアップだけが、データ、クラウド、AIの3点に関わることができる企業である」とコメントする。
その上で、「その一方で、98%の技術担当上級管理職が、オンプレミスやクラウドに分散したデータの複雑性が上昇していると指摘し、これがDXによるビジネス推進に大きな影響を与えている。日本をはじめとした世界中の企業がシンプルさを求めており、この解決にネットアップは貢献できる。シンプリシティ、セキュリティ、セービング、サステナビリティの4つのSによって、新たな時代における企業のイノベーションの加速を支援していく。次の25年に向けて、顧客とパートナーとのネットワークを通じて、360度のアプローチを進めていく」と語った。