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東京での初開催を前に、車両開発やセッティング、レース戦略の要となるデータ共有環境を説明

フォーミュラE ポルシェを「データ」で支えるネットアップ、裏側を語る

2024年03月29日 08時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 電気自動車(EV)の世界最高峰チャンピオンシップ「ABB FIAフォーミュラE世界選手権(以下、フォーミュラE)」が、2024年3月30日、日本で初めて開催される。ネットアップでは、レースに参戦するポルシェチームとのパートナーシップにより、データ分析の領域から同チームのレース戦略を下支えしている。ネットアップの取り組みを聞いた。

サンパウロのサーキットを走るポルシェチームのマシン「Porsche 99X Electric」(写真提供:ポルシェ)

ネットアップ チーフテクノロジーエヴァンジェリストの神原豊彦氏

「リアルタイムデータコラボレーション環境」でポルシェチームを支援

 フォーミュラEは「電気自動車のF1」とも呼ばれるカーレースだ。2014年に中国・北京で初めて開催され、今年は10シーズン目という節目の年となる。

 3月30日に開催される今シーズン第5戦目「2024 Tokyo E-prix」は、11チーム22人のドライバーが参戦し、東京・有明の東京ビッグサイト周辺の公道をサーキットとしてレースを行う。1周2582メートルのこのコースは、20のターンを持ち、90°コーナーや長いストレートも備える。公道サーキットによる国際カーレースは、日本で初めての開催となる。

フォーミュラEは、市街地(公道)サーキットで行われるEVカーレースだ

 ネットアップでは、2022年7月からポルシェチームと複数年にわたるパートナーシップを結び、ポルシェチームのIT部門と緊密に連携しながら、年間を通じて同チームのフォーミュラEレースをサポートしている。F1ではアストンマーティンチームを、MotoGPではドゥカティチームをそれぞれサポートするネットアップだが、フォーミュラEでのサポートはそれに次ぐものとなる。

 ネットアップ チーフテクノロジーエヴァンジェリストの神原豊彦氏は、「ポルシェは長年にわたるネットアップのユーザー企業であり、それをきっかけにフォーミュラEの参戦を支援してきた」と、その経緯を説明する。

 フォーミュラEに参戦するチームにとって、正確なデータを迅速かつ大量に収集し、分析やシミュレーションが行える優れたITシステムの存在は、極めて重要なものとなっている。ネットアップがサポートするのは、そうした「リアルタイムデータコラボレーション環境」の実現だ。

 「レースごとに、マシン1台あたり最低でも50GBのデータを収集する。このデータを分析して車両開発に生かしたり、レースに向けたマシンのセットアップを行ったりして、練習走行でその結果を検証する。また、最適なタイヤ交換が行えるピットインタイミングをふまえたレースプランの立案も行っている。ネットアップにとってはリアルタイムデータコラボレーションの実現であり、同時にデジタルツインのショーケースにもなっている」(神原氏)

共同設計のリアルタイムデータコラボレーション環境を通じてレースをサポートしている

サーキットと開発本部でデータを共有、分析結果を車両調整やレース戦略に生かす

 ポルシェチームにおいて大量のデータがどのように活用されているのか、より詳しく見ていこう。

 フォーミュラEカーは多数のセンサーを搭載しており、パワートレインの状況から車体の挙動、タイヤや路面の状況など、収集するデータは多岐にわたる。ここに、外部から提供される気象データなども組み合わせて、データ分析を行うことになる。

大量のデータ収集と分析が繰り返し必要とされる

 シーズン中は、ひとつのレースが終了すると、次のレースの開催までに約2~3週間の期間がある。その期間中には、ポルシェモータースポーツ本社工場にある開発本部で、収集したデータに基づくシミュレーションを繰り返し、次のレースに向けたマシンのセットアップが行われる。

 たとえばフォーミュラEの車両では、ブレーキは前輪にだけ用意されており、後輪は回生ブレーキを使用する。そのため、前輪と後輪のブレーキのバランスが重要な要素であり、コースに合わせたパラメーター調整が行われる。さらに、バッテリーの残量をなるべく蓄えておきながら、必要な場面でブーストするといったレース展開の設計も必要となる。レース当日の天候、サーキットの状況といった要素も加味しながら、次のレースに最適なセッティングを目指すのだ。

サンパウロのサーキットを走るポルシェチームのマシン(写真提供:ポルシェ)

 ただし、フォーミュラEは公道サーキットでの開催が基本となっているため、事前にコースデータが収集しにくいという課題がある。レース開催前日の練習走行までコースデータが得られないという状況が、毎回のように発生するという。

 そのため練習走行時には、サーキットの現場で迅速かつ正確にデータを取得し、そのデータを開発本部とリアルタイムに共有することが求められる。これが、レースの勝利に向けた重要な要素なのだ。

 「得られた現場の生データをもとに、開発本部でシミュレーションを行い、セッティングを行うが、練習走行で試せるのは開催前日の1回だけ。そこで、リアルタイムで収集したデータをもとに、パラメーターの調整を行いながらレースに臨んでいる」(神原氏)

 練習走行だけでなく、レース中もリアルタイムなデータ共有を行っている。高精度なシミュレーションを行うことで、レースの最適なアプローチの選択やプランの修正などのレース戦略の決定に役立てているという。

 こうした高度なデータ管理を実現しなければならない一方で、フォーミュラEのサーキット現場では、ITを担当できる人員はほぼ1人に限定される。そのため、シンプルで効率的なデータ管理手段が求められる点も見逃せない。

 「およそ70人でチームが構成されるF1とは大きく異なり、フォーミュラEではサステナビリティの観点から、1チームのスタッフ構成は『監督やメカニックを含めて12人まで』と規定されている。そのため、現場でIT分野に割ける人員は1人であり、IT担当は1人ですべてを見なくてはならない。ITの視点で見たときには『シンプルさ』と『効率性』が重要な要素であり、ネットアップの強みが生かせる部分でもある」(神原氏)

Azureクラウドでの集約と現場でのキャッシュ、データ活用と保護を両立

 ポルシェチームが採用しているITシステムでは、モニタリング、ログ解析、分析および洞察を行うアプリケーションを、Microsoft Azureクラウド上で稼働させている。サーキットの現場で発生するデータは、ピットに配置する小型のモバイルデータセンターで収集し、クラウド上の「NetApp Cloud Volumes ONTAP」に集約される。

 一方、サーキットの現場や本社工場の開発本部で必要なデータは、各現場の「GFC Edge(Global File Cache Edge)」でローカルにキャッシュされるかたちだ。これには、世界各地のサーキットを転戦するフォーミュラEならではの理由もあるという。

 「(サーキットの)国や会場によってインターネット環境が大きく異なるため、データをキャッシュすることで、帯域幅の違いによる影響を少なくしている。ストレージに蓄積されたデータのうち、すぐに必要となるのは約2割というのが一般的な割合だが、これはフォーミュラEでも当てはまる。また(GFC Edgeでは)データが自動的にキャッシュされるため、利便性が高いのも強みだ」(神原氏)

ポルシェチームにおけるデータ共有システムの概要

 こうしたデータの管理は、ネットアップのセントラルマネジメント機能によって本部の管理者から一元管理されており、サーキット現場のIT担当者は複雑な管理作業をする必要がない。また、クラウドとオンプレミスをまたぐこうしたシステム全体を、NetApp BlueXPのクラウドバックアップで保護している。

 「クラウド上にあるデータをオンプレミス環境でも利用できるようにするキャッシング技術では、ネットアップには一日の長がある。分散データの整合性や、分散環境でのロック管理ができる点などはネットアップならでの特徴である。また、クラウドに加えて、オンプレミスまでを含めたハイブリッド環境におけるデータ保護にもネットアップの強みが発揮できる。これらは、NetApp BlueXPならではの機能だ」(神原氏)

 ちなみに映画制作会社のドリームワークスでは、ネットアップの技術を活用することで、データの分散共有環境を実現。クリエイターが膨大な映像データを活用できる環境や、キャッシングによる同期環境を実現している。また日本では、新海誠監督の映画「すずめの戸締まり」の制作において、コミックス・ウェーブ・フィルムがネットアップの技術を活用し、クラウドストレージでありながらもローカルストレージと遜色ない使用感を実現できたという。こうしたノウハウは、ポルシェチームのITシステムにおいても活用されている。

サステナビリティも重要なテーマ、レースで得た知見をITの世界で生かす

 フォーミュラEにおいては「サステナビリティ」も重要な要素だ。各チームのCO2排出量がスコアリングされており、レースにおける順位とは別に、サステナビリティもポイントとして加算される仕組みになっているからだ。たとえばフォーミュラカーの車両製造や車両の移動などにおいても、CO2排出量を低減し「カーボンネットゼロ」を達成することが求められている。

 そうした取り組みの中で、課題となるのがITによる電力消費だ。世界の電力使用量のうちITが占める割合は、2020年の2%から2030年には8~15%にまで増加すると予測されている。また、データ量の爆発的な増大によってデータストレージの電力消費割合も増加しており、2030年にはデータセンターの総電力要件の38%を占めるようになると言われている。

 フォーミュラEにおいても、車両開発に必要な風洞実験や剛性検査などのシミュレーションで大量のデータを扱うことになる。神原氏は、この「ITサステナビリティ」の側面で、ネットアップが貢献できる部分は大きいと説明する。たとえば、必要最低限のデータだけをキャッシュする技術、あまり使わないコールドデータはSSDからオブジェクトストレージに移動する自動階層化の技術などが、消費電力とコストの削減を実現するという。

 神原氏は「フォーミュラEは『ゼロカーボン』の使命を持つスポーツイベントであり、サステナビリティのショーケースとしての役割も担っている」と述べたうえで、ネットアップとしても、フォーミュラEへの支援を通じて電力消費量低減のノウハウを蓄積し、それをITの世界でも生かしていくという前向きな姿勢を見せた。

* * *

 3月30日に開催される2024 Tokyo E-prixにおいて、ポルシェのフォーミュラEカー「Porsche 99X Electric」は2チーム/4台が参戦する。この99X Electricが搭載するパワートレインの技術は、市販の「Porsche Taycan(タイカン)」にも搭載されているという。

 タグ・ホイヤー・ポルシェフォーミュラEチームからは、パスカル・ウェーレイン(ドイツ)氏と、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(ポルトガル)氏のドライバー2名がエントリー。ウェーレーン氏はドライバーズポイントで総合2位にランクしており、トップとは4ポイント差に迫っている。チームランキングでは2位に浮上したところだ。

ちなみにTokyo E-Prixのタグ・ホイヤー・ポルシェフォーミュラEチームは、特別な“東京バージョン”のデザインを採用した99X Electricを走らせる。ポルシェは「このカラーリングは、世界的なネオンサインの都市として知られる東京と日本のストリートアート、そして自動車文化への視覚的なオマージュである」としている(写真提供:ポルシェ)

 また、ポルシェのカスタマーチームであるアンドレッティ フォーミュラ Eチームでは、昨シーズンのフォーミュラEチャンピオンであるジェイク・デニス(イギリス)氏と、ノーマン・ナトー(フランス)氏がドライブする。

 ポルシェ全体としては、今季は2回のポールポジションを獲得し、約2週間前のブラジル・サンパウロのレースでは4位に入賞するなど、調子をあげてきている。日本での初レースにおいて、ネットアップのサポートが、ポルシェチームのさらなる躍進に貢献できるかどうかに注目したい。

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