2023年7月13日、RPAを中心とした業務自動化ソリューションを手がけるUiPathは生成AI×自動化の最新事例、製品戦略を披露する記者発表会を開催した。後半ではUiPathのユーザー企業4社が登壇し、仕事、プロセス、働き方、経営などさまざまな観点で生成AI×自動化の活用例や将来像について語った。
生成AI×自動化で日本発の事例を世界へ
発表会の冒頭、「生成AIとオートメーションの近未来」というタイトルで講演したUiPath 代表取締役CEOの長谷川 康一氏は、RPAベンダーとして手がけてきた既存のオートメーション(自動化)に加え、実用度が一気に高まってきた生成AIを組み合わせることで、新しい価値が創出できるとアピール。「私たちができなかったこと、やりたいことができるようになる」(長谷川氏)として、UiPathのオートメーションプラットフォームにAIを搭載していくというAI戦略を披露した。また、日本を最重要拠点の1つと位置づけ、「現場に神宿るユースケース」を世界へ送り出していきたいと抱負を語った。
オートメーション基盤にAIを搭載するUiPathのAI戦略。AIはオープンなプラットフォームで利用することができ、AWS、マイクロソフト、OpenAI、グーグルなどの生成AIのみならず、ベンダーやユーザー、UiPathなどの特化型AIも選択できる。また、人間を中心にAIモデル、ロボット、アプリケーション、コミュニケーションなどを自由にオーケストレーションすることも可能。さらに人手を介した検証や継続的なモニタリング、監査などいわゆる責任あるAIという点にも重視されている。
開発生産性を向上する具体的なアプローチとして披露されたのが、日常業務の転記作業を「UiPath Clipboard AI」になる。これは請求書、発注書、Excel、メールなどのアプリケーションにおける転記作業をワンクリックで自動化するもの。長谷川氏はメールのリクエストに基づいて、SAPに送金情報を入力するデモ動画を披露した。
もう1つは開発中の「Wingman」というプロジェクトだ。これは自然言語から自動的にワークフローを生成する機能。これは「届いたメールに添付されているファイルをGoogleDriveに保存する」など、自動化対象となる業務をテキストで入力すると、自動化のワークフローが自動的に生成されるというものだ。こちらも日本語でのデモが披露され、現場導入も間近と思われた。
UiPathユーザー4社が語る最新の取り組み
発表会の後半はUiPathのユーザー企業4社が最新の取り組みを披露した。
トップバッターはSMBCバリュークリエーション 代表取締役社長の山本慶氏。SMBCバリュークリエーションは、SMBCグループで600万時間の業務時間を削減した実績とナレッジを、パートナーファームの持つ業務効率化のノウハウとかけあわせ、ユーザー企業の生産性向上を支援している。
従来は開発者までの敷居は高かったが、生成AIの活用により、今後は誰もが自動化プロセスを簡単に作れるようになる。同社が掲げる「Automation for Every Person」の未来では、生成AIによる「デジタルアシスタント」とSMBCバリュークリエーションのノウハウ・アセットを掛け合わせることで、自動化のプロセスを活用。人が自らの能力を最大限に活かせる仕事に注力できるようになるという。
続いて登壇したリコーの浅香孝司氏は、同社が進める「プロセスDX」について説明。デジタルに大きく軸足を動かした同社では、デジタルを効率的に導入し、業務の可視化、プロセスの最適化、ツールやデータの活用をPDCAとして回し続けているという。
同社は2018年からUiPathを導入し、製品ラインナップを増やすとともに、業務プロセスを改革し続ける体質作りを進めてきた。さらに生成AIを活用することで、アイデア出しや調査の負荷を軽減する。UiPath×生成AIの具体的なPoC事例として披露されたのは、発明者のための先行文献の調査アプリ。製品化にあたって搭載する技術が他社の権利を侵害していないか調べる調査において、検索ワードや対象文献の抽出、生成AIによる文献の分類、要約を作成しつつ、自社技術との類似点、相似点も調べられるようになるという。
3番手として社員のWell-beingを向上させるオートメーションとChatGPTについて説明したのはパーソルプロセス&テクノロジーの小野隆正氏。人材採用や定着が大きな課題となっているコールセンターにおけるオペレーターの業務負荷・心理負荷を下げるためUiPathとChatGPTの事例を披露した。
同社がコールセンターでの業務負荷・心理負荷を下げるべくチャレンジしたのが、UiPathとChatGPTを組み合わせた問い合わせ対応の自動化だ。社員からの問い合わせ対応をPoCとして試し、社内情報を適切に参照しているか、質問に答えているか、簡潔に答えているかを調べてみると、十分に機能することがわかった。UiPath Action Centerをオペレーターの作業UIに利用し、開発期間を短縮し、ChatGPTがFAQデータを元に回答することでハルシネーション(でっち上げ回答)を回避できたという。
最後、生成AI/LLM、RPAによる企業経営の可能性について語ったのはアクセンチュアの金若秀樹氏。不確実性の高い現在、アクセンチュアが調査で見いだしたのは、DXにより突出した成果を出している全体の8%にあたる企業。これらリインベンターズ(再創造企業)は、「戦略として事業の再創造を行なっている」「デジタルコアを競争優位性の源泉にする」「ベンチマークだけではなく、最善の現実解を導き出している」など、いくつかの共通点が見られたという。
こうした企業全体の再創造を行なうには、経営パフォーマンスの課題を確認したり、対応施策を行なえるAIによるマネジメントコクピットが必要になる。さらにアクセンチュアとしては、現実世界のデータをクラウド上に挙げ、データ上でさまざまな分析やシミュレーション、意思決定を行なうデジタルツイン・エンタープライズを提案しているという。
このシミュレーションベースの経営により、CEOの能力は拡張され、従来の制約に縛られず、瞬時にアクションが打てるという。そして、これを実現するためには生成AIを含む、さまざまなAIエンジンを適材適所で組み合わせ、さまざまなデータと連携しつつ、セキュリティも確保した「AI HUBプラットフォーム」が必要になると説明した。