業務を変えるkintoneユーザー事例 第187回
導入がゴールではない! 経験してわかった現場との継続的な対話の重要性
関西電力の早く・安く・高品質なkintone業務改革 次は「総伝道師化計画」へ
2023年07月13日 09時00分更新
kintoneへの期待が高まり、開発依頼が殺到する
このアプリの成功を受け、同社ではさまざまな部門がkintoneの導入を求めるようになる。「あれもこれもkintoneという状態になった」と藤井氏は言う。
コンタクトセンターのアプリ開発が終わったころ、デジタルお助け隊には大きな開発依頼が舞い込む。同社が新しく顧客向けに提供を開始したサービスの業務管理システムの話だった。
2021年6月に受付を開始した「はぴeセット」という新サービスは、初期費用0円で自宅をオール電化にできる、関西電力として初の商品だ。このプロジェクトチームが、顧客管理ツールの開発を依頼してきたのだ。
プロジェクトチームの要望は、申込受付から成約後の顧客管理までを一括で管理したいこと、社外パートナーと連携できることなどだった。これらを満たすパッケージ製品は存在せず、スクラッチ開発ではコストや納期的に難しい。そこで、kintoneによる開発が決まった。
システム構成は、「お客さま情報管理アプリ」を中心に、その周りに「料金管理アプリ」「機器マスタ」といったアプリやデータベースを配置することにした。また社外のパートナーである施工店と連携するために「施工店用アプリ」も開発した。
kintoneで情報を入力し、RPAを経由して基幹システムに自動連携する仕組みは、コンタクトセンターのシステムの実績を生かしている。
「新しいサービスということで、開発は何も決まっていないところからスタートした。プロトタイプを作って業務担当者に確認し、そのレビューを受けてプロトタイプを修正しながら作り込んでいった。これもkintoneだからできる開発スタイルだった」(藤井氏)
スクラッチ開発で見込まれた開発期間に対して、約半分の時間でシステムは完成した。また開発コストは、実質的に開発担当者の人件費のみで、大幅なコスト削減を果たした。そして肝心の品質も、業務部門のさまざまなニーズに応える機能を盛り込むことができたという。「早く、安く、高品質なものができた」と藤井氏は誇らしげに語る。
kintoneで継続的な業務改善を進める専任チームが発足
順調に進んだように見えたkintoneによる業務改革だが、その陰で、思わぬ問題が発生していた。最初に開発したコンタクトセンター向けのアプリの利用率が、低下していることが判明したのだ。「業務効率化によるコスト削減効果が、kintoneの利用料を下回り、“赤字”の状態になっていることがわかった」(藤井氏)
デジタルお助け隊は、急きょコンタクトセンターの業務現場に出向き、なぜ使っていないのかを聞いた。すると、アプリの導入後、受付のパターンが増えていき、アプリで対応できないケースが増えてしまったことがわかった。また、最初は使いにくかった基幹システムにようやく慣れてきて、直接入力しても問題にならなくなったことも、アプリ離れの一因だった。
「アプリをリリースした後、利用者とのコミュニケションが取れておらず、業務の変化にアプリが置き去りになっていることがわかった」(藤井氏)
ただ、デジタルお助け隊のリソースは、開発後のメンテナンスができるほど潤沢ではなかった。当時は社内から多数寄せられるkintoneの開発対応のほか、別の基幹システムの運用管理も担当していた。
しかし、これまでのアプリ開発によって、業務改革にとってkintoneが非常に有効なことは、ソリューション本部としても十分に認識していた。その効果を最大限発揮するにはどうすればいいか議論を重ねた結果、kintone専任のチームを作ることが決まった。それが、藤井氏、中野氏の所属する「業務改革チーム」である。役職者1名、担当者4名による専任5名のチームで、kintoneなどのITツールを活用した業務効率化支援、そのツールによる業務効率化を継続できる体制やルール作り、デジタル人材の育成をミッションとしている。
業務改革チームは、開発したアプリのアフターフォローにも力を入れている。改めて、kintoneアプリを利用している全ての部署にヒアリングを実施し、現在の業務とkintoneアプリのギャップを確認。必要に応じて都度アプリの改修を行なっている。
システム部門全員をkintone開発者に育てる社内プログラムを開発
開発とアフターフォローの体制の改善によって、業務改革チームのkintone開発はさらに加速する。ノウハウの蓄積も進み、もっとたくさんの業務にkintoneを使っていきたいと考えるようになった。
そこで同社では次の段階として、システムグループのメンバー50名の全員が、kintoneを使った業務改革の推進役になる「総伝道師化計画」を立ち上げた。
まず、kintoneの基本から実践までスキルアップができる育成プログラムを作った。最上位のステップ4では、社内の業務効率化案件に開発メンバーとして加わり、実践的なスキルが習得できるようにした。スキル認定制度も整備し、人材育成の指標も明確化した。このプログラムを利用し、現在ではシステムグループの約9割の社員が、kintoneの開発スキルを習得するまでになった。
こうした取り組みの結果、2023年3月末時点で、同社が開発し、稼働しているアプリの数は266、kintoneのライセンス数は1500ユーザーまで拡大した。その結果、2022年度の業務効率化は、コスト換算で1.6億円に上ると算定している(RPAを含む)。
今後は、規模の大小に関係なく、より、かゆいところに手が届くアプリの開発をしていきたいと藤井氏は語る。そのために、現在は業務改革チームのみが保有している開発権限を、各現場の社員にも付与することを考えている。同時に、これまで業務改革チームが蓄積した開発ノウハウを、社内で再活用する仕組みも整備していくという。
「関西電力はこれからも、kintoneで『早く・安く・高品質』な業務改革に取り組んでいきたい」と、藤井氏は最後に語った。
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