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2023年06月30日 11時00分更新
基調講演:国/社会の「真のトランスフォーメーション」に求められるものを議論
「これから問われる真のトランスフォーメーションとは」と題された1つめの基調講演は、衆議院議員の小林史明氏、デジタルガレージの伊藤穰一氏をゲストに招き、日本の行政や社会のトランスフォーメーションの見通しについて議論が交わされた。
前デジタル副大臣であり、現在は自民党副幹事長を務める小林氏は、「多様なテクノロジーの社会実装を進め、自分自身がサラリーマン時代に感じていた『規制のアンフェアさ』を取り払いたいと考え、規制改革に取り組んで来た」と語る。ただし、膨大な数の規制を1つ1つ改革していくのではあまりに時間がかかり、テクノロジーの進化にも追いつけない。
「皆さんが一生懸命、GX(ガバメントトランスフォーメーション)やDXを頑張っても、なぜかこの国は前に進まない。その根本にある問題は“この国のインフラが古くなっている”こと。制度、ガバナンス、リソース、これらが時代遅れになっているのではないかと考えている」(小林氏)
そうした問題意識のもと、まず「制度」について、規制改革と行政改革、デジタル改革を一体で進めることを目的に岸田政権が立ち上げたのが「デジタル臨時行政調査会」である。具体的な取り組みとして、「目視」「対面」「書面」などを義務づける“アナログ規制”の一括見直し、見直した規制と対応する技術のマッピング、法制事務のデジタル化や官報電子化などがあるという。
また「リソース」改革については、デジタル庁が進める国/自治体システムのガバメントクラウドへの統合の取り組みを紹介した。行政システム間のデータ連携や統合による効率化、迅速化、利便性向上だけでなく、行政向けシステムの開発事業者がアプリケーションレイヤーだけを開発するだけでよくなるメリットもあると語る。「大企業だけでなく中堅・中小企業、スタートアップにまでシステム調達の門戸を開く。IT産業の構造転換のきっかけとしたい」(小林氏)。
そして、制度、リソースの改革によって「ガバナンス」改革も実現可能になると語った。規制改革やクラウド、web3のようなテクノロジーの活用を通じて、旧来の「上意下達型」ではなく「双方向型」のガバナンス形態を実現していく。
「それが実現できれば、たとえここ数十年人口が減少したとしても、この国は十分に回っていくし、むしろたくさんの成長が生まれる。その実現のためには皆さんの力が必要。だからこそわたしたちは意図的に、産業におけるダイバーシティを加速していきたい。そのために『スタートアップ5カ年計画』も推進している」(小林氏)
続いてリモート登壇した伊藤穣一氏は、web3、DAO、ブロックチェーン、LLMといった新しいテクノロジーキーワードも取り上げつつ、それらを活用してトランスフォーメーションを進めるためには、中心に「アーキテクト/アーキテクチャ」の視点が欠かせないと語った。
「アーキテクチャで重要なことは、(それを構成する)素材や技術が変われば『できること』も変わるということ。物理的な建築で言えば、木と石と紙しか素材がない時代は平屋が正しい建築だったが、コンクリートやガラスが登場したことで高層ビルなども作れるようになった。こうした変化をふまえて“そもそも論”の話をすることで(根本的な議論に立ち返って)、新しい考え方を提案できる」(伊藤氏)
伊藤氏は、アーキテクチャの視点から根本的な議論に立ち返らなければ、いくらテクノロジーが進化しても「コンクリートとガラスでいまだに平屋を作っている」ような社会になりかねないと指摘する。そして、これからの社会をどのように変えていくのかという議論を進めるために、そうした視点と知識を持つ人材育成やリテラシー向上が必要だと語る。
「そのほかに、組織の縦割りという課題もある。縦割りで権限が分割されると、誰もそもそもの(大局的な)話をする権限がなくなってしまう。その一方でトップの社長や政治家には、技術のディテールについての情報が上がってこず改革を起こしにくい。今回のようなカンファレンスで、細かい技術の話からそもそもの話までを展開して、何かクリエイティブな変革が起きたたらいいとイメージしている」(伊藤氏)
またデジタル人材の育成については「そもそもポテンシャルがある日本人を、エンジニアにさせていないシステムを変えなくてはならない」と強調した。伊藤氏が最近国内で出席したあるブロックチェーンハッカソンでは、表彰されたファイナリストの半数以上が日本人だった。「ただし僕が話したほとんどの日本人は、海外に行って(働きに出て)しまっている人だった」(伊藤氏)。エンジニアや技術系教員の評価と待遇を向上させ、海外から「文化」込みで人材を招聘するような取り組みを進めるべきだと提案した。
基調講演:WBC優勝監督の栗山英樹氏に聞く「次世代人材を育てるコツ」
続く基調講演第2部「名将と語る勝利の方程式“グローバル人材”と“テクノロジー”」では、今年のWBCで日本代表監督を務めチームを優勝に導いた栗山英樹氏が登壇した。“選手のスイッチを入れる”ための1対1のコミュニケーション、選手育成やゲーム戦略におけるデータ分析の重要性、さらには北米で市場を急拡大させているスポーツベッティングなど、鈴木氏とのトークテーマは多岐に及んだ。
なお、会場からは栗山氏に対して「チームの新人のモチベーション、主体性を引き出すために心がけていることは」という質問が出た。栗山氏は次のように答えている。
「僕は『この選手は打ってくれるかな?』と思いながら送り出すことはない。『絶対打ってくれる』と信じ切って送り出している。その気持ちが選手に伝わり、やがて選手が自ら、劇的に変わる瞬間が来る。若い選手には『今できないことも、いつかできるようになる。自分はダメだと言うな』と言い続けてきた。これは理想論として言っているのではなく、自分がこれまでの監督にそういう経験をさせてもらったからだ」(栗山氏)