WBC栗山英樹監督の人材育成論、京大最新スパコンの技術、デジタル政府動向まで、「Intel Connection 2023」レポート
DcX、生成AI、デジタル教育… 「技術とビジネスをつなぐ」新イベントをインテルが開催
2023年06月30日 11時00分更新
■京都大学:「実効性能」重視の新スパコンで第4世代 Xeon SPを採用
AI分科会で登壇した京都大学 学術情報メディアセンター 准教授の深沢圭一郎氏は、最新の「第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー」や「インテル® Xeon® CPU Maxプロセッサー」を主要CPUに採用して現在構築中(一部試験運用を開始)の新スーパーコンピューター(スパコン)システムについて紹介した。
京都大学では1969年からスパコン(当時は汎用コンピューター)を導入、運用しており、2006年からは東京大学、筑波大学との共通基本仕様に基づく「T2Kオープンスーパーコンピューター」を採用している。近年の京大スパコンは、ユーザーの多様な利用目的に対応すべく、異なる特性を持つ複数のシステムで構成しているのが特徴だという。
「システムを1つにして全体の理論性能が高くなることを目指すと、使い勝手が悪くなる。(特性の異なる)複数のシステムを運用することで、より多くのユーザーに使ってもらえて、なおかつ性能も出るシステムを狙っている」(深沢氏)
2019年に構成検討をスタートし、現在構築が進められている新スパコンも、メニーコア/広帯域幅メモリ(システムA)、汎用x86/メモリ多め(システムB)、大容量メモリ(システムC)、GPU搭載(システムG)という構成となっている。
この新スパコンについて、深沢氏は「実効性能の高い、ユーザーが使いやすいシステム」を狙ったと説明する。理論上の演算性能、つまり“見かけの高速さ”よりも、実際の学術計算を行う場合の高速さ=実効性能を重視してシステム設計を行った。「理論性能ではなく、実効性能で評価しないと、アプリの性能が出るシステムは作れない」(深沢氏)。
実効性能を考えるうえで、特に重要なのが「B/F値(Byte per FLOP値)」と呼ばれる指標だ。CPUが演算を行うためには、演算するデータをメモリから持ってくる必要がある。B/F値の大きなアプリケーションを実行する場合、たとえ理論性能(CPUそのものの性能)が高くても、CPU~メモリ間の帯域幅が小さければボトルネックとなって実効性能は上がらない(理論性能を100%使えない)。
この点をふまえたうえで、新しいスパコンではシステムB、Cに第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーを採用した。第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーでは、前世代(DDR4)比で2倍のメモリ帯域幅をサポートするDDR5メモリに対応している。
さらに、より広いメモリ帯域幅を必要とする演算処理(B/F値の大きなアプリケーション)向けのシステムAについては、第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーのパッケージにHBM2eメモリを「内蔵」した、インテル® Xeon® CPU Maxプロセッサーを採用している。そのメモリ帯域幅は1.6TB/sにも及び、実効性能の大幅な向上が期待できる。
実際に、インテル® Xeon® CPU Maxプロセッサー(試作機)と通常の第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーのベンチマーク比較を行ったところ、インテル® Xeon® CPU Maxでおよそ3倍の性能向上が見られたという。「CPUの性能としてはほぼ同じだが、メモリ性能(メモリ帯域幅)がおよそ3.5倍ある。その結果、コードを何も書き換えなくてもこれだけ性能が高められる」(深沢氏)。
そのほか深沢氏は、第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーが新たに搭載したアクセラレーター群(AVX-512、インテル® AMXなど)も実効性能向上に大きなインパクトを与えるだろうと期待を示しつつ、セッションを締めくくった。
■スキル教育:次世代イノベーターを育てる教育を支援するインテル
「教育」分科会のセッションに登壇した米インテルのシーデム・アーテム氏は、生徒の学習成果を高める教育現場のイノベーション、またデジタルスキルの差を埋めるためにインテルが展開するスキル育成プログラムなどを紹介した。
アーテム氏は、予算やスタッフの不足、コロナ禍を通じた長期的な学習能力低下、デジタルスキルの不足など、世界の教育現場が直面する課題に対する戦略として、インテルは「3つの柱」を掲げていると紹介した。
「レジリエントな教育システムの構築」は、パンデミックやサイバー攻撃を受けてもすぐに回復できる教育基盤を構築していくという戦略だ。現在はサイロ化しているシステムを統合することで、サイバーリスクへの堅牢性と同時に利便性も高められると語る。
「デジタルスキル構築のための投資」では、次世代に求められる新たなスキルの獲得を支援するプログラムから、小学校~高校の生徒を対象とした「インテル® Skills for Innovation(SFI)」を取り上げて紹介した。SFIは、生徒が次世代のイノベーターになることを支援するための、7つの重要なマインドセットとスキルセットにフォーカスした教育のフレームワークだ。現在は日本を含む47カ国で展開されている。
「現在と将来を見据えた正しい投資」では、対面型の伝統的な学習、パンデミック状況下のリモート学習、それ以後のブレンド型(ハイブリッド型)学習を経て、次のフェーズではメタバースを活用した「没入型学習(イマーシブラーニング)」に進むと紹介した。PwCの調査によると、VRを使って没入型のeラーニングを行った学習者は、通常の学習者よりも275%も多く「学んだスキルを活用できる自身が持てた」という。
VR/ARだけでなく、教育の現場で生徒が利用するPC、教職員が利用するPCはそれぞれ「新たな使い方」へと進化しつつある。アーテム氏は、4~5年間のPCライフサイクルと、その間に必要となる性能/機能をふまえながらPCの調達や更新を進めてほしいと語った。
■展示会場:第4世代 インテル® Xeon® SP搭載サーバー、AI業務ソリューションなど
Intel Connectionではインテルやパートナー各社による最新製品、ソリューションの展示も行われ、多くの来場者が熱心に説明員の話に耳を傾けていた。
富士通ブースでは、第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーを搭載した「Fujitsu Server PRIMERGY M7モデル」の実機展示のほか、富士通が開発するAI技術やツール群を顧客企業自身のデータで簡単に試せるプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi(開発コード名)」などが紹介されていた。
PRIMERGY M7モデルは、新設計の筐体により空冷効率を高めると同時に消費電力を削減した最新機種となる。サーバー単体のリモート管理を可能にする「iRMC(integrated Remote Management Controller)」に加えて、複数台のサーバーやサーバールーム全体を統合管理できる「ISM(Infrastructure Manager)」も提供しているのが特徴。ISMでは、リソース状態を継続的に記録/分析してリソース不足の発生時期を予測する機能を追加予定(2023年7月予定)であり、「設備コストの最適化とシステムの安定稼働を両立させられる」とアピールしていた。
NECブースでは、第4世代 インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー搭載の「NEC Express5800/R120-j」サーバーをベースとしたHCIシステム「NEC Hyper Converged System(HCS)」をアピールしていたほか、同社が開発するAI/機械学習技術を組み込んだ複数のソリューションデモが披露されていた。
AIソリューションの1つ「工場付加価値時間計測ソリューション」は、工場内の組立/検査工程のカメラ映像からAIが手や身体を検出して、各工程における「付加価値時間(稼働時間)」と「ムダ時間(停止時間)」を分析/可視化するもの。さらに現在開発中のバージョン(今年度中の提供開始予定)では、手指骨格推定と物体認識も追加され、たとえば「複数のネジ止め順序が正しいかどうか」など細かな作業が監視/記録できるようになる。これにより作業者に手順の誤りを指摘したり、正しい手順で作業がなされたという作業保証をデジタル記録として残せたりするという。なお、このAIの推論処理は軽量に出来ており、現場設置が可能な小型エッジデバイスで稼働する。
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Intel Connection 2023ではこのほかにも、企業変革とDX/DcX、サステナビリティ、デジタル金融、STEAM教育など幅広いテーマの基調講演、分科会セッションが2日間にわたって展開された。
現在の企業や社会が直面するさまざまな課題を、最新のデジタルの力で解決していく――。そうした議論を進めるためには、まさに今回のイベントテーマである「技術とビジネスをつなぐ」ことが不可欠だ。このイベントをきっかけに、そうした“つながり”の場が増えていくことに期待したい。
(提供:インテル)