オンプレミスとクラウドのプラットフォーム統一で“双方向性”実現、今後もマルチクラウド対応を強化
大幅強化された「Dell APEX」の優位性とは? 担当幹部に聞く
2023年06月22日 07時00分更新
Dell Technologiesは、今年(2023年)5月に開催した「Dell Technologies World 2023」において、アズ・ア・サービスブランド「Dell Technologies APEX」を大幅に強化した。会場で、APEX担当バイスプレジデント、プロダクトマネジメントを務めるデーボン・リード氏に、APEXの現在とこれからや、Dellが考える競争優位性などについて聞いた。
――Dell Technologiesは2年半前に「APEX」構想を発表しました。これまでの経過をどのように見ていますか?
リード氏:発表からこれまで、APEXは進歩を遂げてきました。
簡単に振り返ると、2年前(2021年)のDell Technologies Worldで最初のソリューションとなる「APEX Data Storage Services」「APEX Private Cloud」「APEX Hybrid Cloud」を発表しました。翌2022年のDell Technologies Worldでも新製品を加え、さらに今年のイベントでも約10種類の新しい製品を発表しました。
今年の発表は、APEXの製品戦略において重要な意味があります。これまではオンプレミスのソリューションが中心でしたが、今年の発表によりマルチクラウド戦略を進めたからです。発表の内容を簡単に3つのポイントで説明しましょう。
まず、ファイル/ブロック/オブジェクトストレージとデータ保護などのエンタープライズストレージ資産を、パブリッククラウド資産に拡張できる「APEX Block Storage for AWS」「同 for Microsoft Azure」「APEX File Storage for AWS」などを発表しました。これにより、顧客はストレージ環境を選ぶ必要がなくなります。
2つ目は「APEX Cloud Platform」です。“クラウドtoグラウンド(Cloud to Ground)”として、VMware、Red Hat OpenShift、Microsoft Azureのクラウドスタックをオンプレミスまたはエッジ上に拡張し、マルチクラウドでの運用を実現します。オンプレミスとクラウドのプラットフォームに一貫性を持たせることができるようになるため、APEXポートフォリオにとって重要なステップとなります。
3つ目がアズ・ア・サービスポートフォリオの拡大です。「APEX Compute」「APEX PC as a Service」などを発表しました。
これに加えて、SaaSベースで提供する管理サービス「APEX Console」も拡充し、マルチクラウドに関する作業をワンストップで行うことができます。今年のDell Worldでは「APEX Navigator」として、マルチクラウド向けの「APEX Navigator for Multi Cloud Storage」とコンテナ向け「APEX Navigator for Kubernetes」を発表しました。
APEXの提供地域も拡大しています。4カ国でスタートし、5月の段階で日本を含む26カ国に拡大しています。世界経済のほとんどをカバーしたことになります。
このように、現在APEXのメニューはかなり包括的なものになりました。市場で最も包括的なサービスを擁しており、規模も拡大しています。
――ベアメタルインフラのアズ・ア・サービスである「APEX Compute」について教えてください。どのようなユースケースを想定しているのでしょうか?
リード氏:APEX Computeは「Dell PowerEdge」サーバーをサービスとして提供するものとなります。コンピュートサービスであり、顧客はワークロードの内容や必要なメモリ容量に応じてノードのタイプ(汎用/コンピュート最適化/メモリ最適化など)やGPUを選択し、最終的には使用した分だけを支払うというものです。
ベアメタルサーバーなので、さまざまな用途に使用できます。ハイパーバイザーでもコンテナでも使える柔軟性を備えています。
――“クラウドtoグラウンド”戦略では、Dell以外の顧客も視野に入れているのでしょうか?
リード氏:もちろんです。既存顧客も新規顧客も視野に入れています。
“クラウドtoグラウンド”では、先述のAPEX Cloud Platformが共通のインフラプラットフォームとなり、Dellのソフトウェア定義(Software-Defined)資産、PowerEdgeサーバー、ストレージと運用環境のオーケストレーションなどで構成されます。Microsoft Azure、Red Hat OpenShiftなどのクラウドスタック、さらにはVMwareスタックに対しても、共通のプラットフォーム上で一貫性のある体験を提供します。
そのため、顧客はPowerEdgeのAPEX Cloud Platformを購入し、実装時にクラウドスタックを選択することができます。これはさまざまなユースケースを可能にすると見ています。BI、データベース、業務アプリケーションなど、「VxRail」上で動かすようなユースケースはもちろん、Red Hat OpenShiftがよく用いられるKubernetesアプリケーションも考えられます。
――DellのAPEXは、競合であるHPEの「HPE GreenLake」よりも遅れて登場しました。APEXの競合優位性をどのように見ていますか?
リード氏:HPEとの文脈ではなくAPEX単独で見た場合の強みを分析すると、Dellにはストレージ、コンピュート、エコシステム、パートナー、サポートと最も広範なポートフォリオを持っています。
マルチクラウドでは、オンプレミスをサービスとして提供するだけでなく、APEX Consoleを使ってクラウドtoグラウンド、グラウンドtoクラウドを実現します。これはAPEXの重要なアドバンテージになると見ています。
企業にとってマルチクラウドでの運用は重要な課題です。ほとんどの企業が最低でも2種類のパブリッククラウドを使っています。APEXはそのようなニーズに対応します。
――ハードウェアベンダーとして生まれ、成長してきたDellにとって、ソフトウェアやサービスへのシフトは、プロダクト開発やプロダクトマネジメントにどのような影響を与えているのでしょうか?
リード氏:マルチクラウドの世界ではソフトウェアが重要になります。Dellの取り組みの例を紹介しましょう。
クラウドへの移行はソフトウェアが重要です。従来、Dellはハードウェアを提供していましたが、現在、ストレージへの投資の多くはソフトウェアへと移行しています。我々はソフトウェアを分離させてソフトウェア定義のアセットにしてSaaSの形で提供します。
また、APEX ConsoleはSaaSで提供するマルチテナント型プラットフォームです。これはDellにとっては大きな転換となります。
このようにソフトウェアにシフトすることによる変化は出てきています。プロダクトマネジメントは、ハードウェアは製品開発やライフサイクルが比較的長期であるのに対し、ソフトウェアは継続的インテグレーション、継続的デプロイメントが重要になります。顧客に価値を提供するスピードは格段に速くなります。
企画という点でも、これまでとは違う発想で市場や顧客のニーズにアジャイルに対応しています。
これらの変化が意味することは、顧客と近い関係を構築することがさらに重要になっているということです。Dellはカスタマーサクセスマネージャーなどの仕組みを使って、実現しています。
――APEXの今後の計画について教えてください。
リード氏:APEXはかなり包括的なポートフォリオになりましたが、まだ完成していません。
中でも、APEX Consoleとマルチクラウドは、これからも強化していきます。例えば、「APEX Block Storage for Public Cloud」では対応するクラウドを拡張していきます。File Storageも同様です。また、APEX Navigatorについても、顧客体験の拡張や改善を続けたいと考えています。