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次世代プラットフォーム、エコシステム、グローバル展開などの構想を語る

青野社長の頭の中にある「サイボウズNEXT」とは?

2023年05月22日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2023年5月17日、サイボウズは青野慶久社長と記者とのメディアラウンドテーブルを開催した。青野氏は、最新動向や事業戦略を披露しつつ、SaaSの乱立という課題に端を発した「サイボウズNEXT」と呼ばれるプロジェクトについて自身の構想を披露した。

サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏

「会社として強くなったので、赤字まで持って行けなかった」

 冒頭、青野氏はサイボウズの最新動向を説明した。社員数は昨年末1150名だったが、直近で1200人を超えているとのこと。国内拠点やグローバルの現地法人も増え、直近ではマレーシアのクアラルンプールにオフィスができ、国内では広島や名古屋も新しいビルでリスタートするという。

 全社理念は以前と変わらず「チームワークあふれる社会を創る」。「簡単に言えば、グループウェアを使いこなせる組織を増やしたい。グループウェアでみんなで情報共有して、オープンに情報を出して、議論しあう。そういう組織を増やしたい。そういう組織が僕は好きだから」と青野氏は語る。

 コロナ禍はクラウドへの追い風を感じており、2021~2023年の2年は「BET」というスローガンを掲げ、「赤字でいいから投資する」というフェーズだった。その1つの成果物がTVCMで「小学生でも『どクラウド』って言ってくれるようになった。知名度をとにかく作ってみた」と青野氏は語る。

 こうした積極投資戦略もあって、2022年度は昨年に比べて営業利益は約6割減った。2015年も赤字前提のクラウド投資を実施したが、今回は営業利益を確保してしまった。「昔より会社として強くなってしまったので、赤字までは持って行けなかった」と青野氏は涼しい顔で語る。パッケージの打ち上げもあまり減っておらず、全社売上も200億円を超え、前年比で2割近く伸びているという。

連結売上高・営業利益の推移

 そして既報の通り、kintoneの売上も100億円を突破した。成長の背景にあるのは、エコシステム(関連記事:kintoneの売上髙がいよいよ100億円超え エコシステムに強み)。「立ち上がりは相当キツかったんですが、付加価値を付けてくれるパートナーが増えてきた」と青野氏は語る。kintoneを強化するプラグインや外部連携サービスが増え、従来型の受託と異なる伴走型・教育支援型のSIサービスが充実してきた。さらにユーザー自体が増えてきたので、コミュニティも増えた。「ここまでエコシステムに振り切っているSaaSはないと考えている」と青野氏は自負している。

匍匐前進のグローバル進出に「リコーとの協業」という強み

 BETを掲げて積極投資を続けてきたが、2023年~2025年の2年は「25BT(2025 and go Beyond with Trust)を全社スローガンに落ち着いて開発と販売に専念するという。

 具体的な取り組みの1つ目は、「SaaSの隆盛とサイロ化問題」にチャレンジする。「ユーザーはいろいろなSaaSを切り替えながら使っている。それぞれデータを持っているので、全体最適はしにくい。なんとかkintoneのようなプラットフォームに、他のSaaSからもデータを集めてきたい」と青野氏は語る。

SaaSと隆盛とサイロ化問題

 とはいえ、現状はkintone、サイボウズOffice、Garoon、メールワイズなど自社製品も連携はとれてない。そのため、現在は後述する「サイボウズNEXT」というプロジェクトを進め、4製品を結合・統合していくとともに、パートナーが周辺サービスを提供できるインフラを進める。今年の秋頃から具体的な成果物が出てくるという。

 販売に関しては、シンプルにグローバル展開を強化する。。「僕の中では、これをやらないと死ねない(笑)。世界中に使ってもらうということに関しては、利益や売上や会社規模以上にこだわりがある」と相変わらず鼻息は荒い。kintoneもグローバル前提で作られたサービスで、サイボウズ OfficeやGaroonでは実現できなかったという。

 昨年までは赤字前提の匍匐前進で事業を進めていたが、今年はガートナーのマジッククアドランドに載ったり、顧客満足度調査で評価を受けたり、注目度は上がっている。海外拠点も増え、北米では25%増、中華圏では9.2%増、東南アジアでは16%増(すべて昨年対比)と拡大している。

 そして、このタイミングで実現したのが、リコーとの協業だ。長らく複合機を販売してきたグローバルチャネルで、デジタルサービスを販売しようと考えたリコーが選んだのがkintone(関連記事:サイボウズとリコーが業務提携 リコーブランドのkintone提供へ)。「RICOH kintone plus」というブランドで先月から北米でも販売を開始したという。

 そして最後に紹介されたのは、いわゆるメソッド事業の取り組みだ。チームワークのよい組織作りを支援すべく、サイボウズはチームワーク総研という組織で研修やコンサル、ワークショップなどを事業として展開している。具体例として挙げられたのはパナソニックとの取り組み。定期的に同社の人材を受け入れており、情報格差を生まない企業文化とツールの使い方を学んでいるという。

 最近取り組んでいる「サイチャレ(Cybozu for Chalengers)」は、このコンサルとツールを組み合わせた中小企業経営支援プログラムで、業務システムの内製化と会社のチームワーク醸成を実現する。従業員50名以下の企業という条件で募集を行ない、参加費用5万円で従業員分のkintoneライセンス、チームワーク総研による研修、パートナーによる伴走支援、非公開のコミュニティなどを提供するという。1年間を通じたプログラムの参加が必須で、現在エントリしてきた参加企業を選定中だという。

究極的には淘汰されるSaaSをkintone上に巻き取りたい

 その後の質疑応答では、サイボウズNEXT、エコシステム、グローバル展開などについて現状や将来構想、そして青野氏の想いなどが披露された。特に多くの質問が集まったのはサイボウズNEXTについてだ。

ホワイトボードを使って、構想を説明する青野氏

 サイボウズNEXTの発端は、やはりSaaSの乱立だ。異なるSaaSがそれぞれ違うデータベースを持ち、サイロ化している点に大きな課題感がある。まずはkintoneを中心に、自社製品との連携を強化し、将来的にはパートナー製品にまで拡げて行きたいというのが、サイボウズNEXTの骨子だ。

 クラウドサービスとしてスタートしたkintoneは早い段階でAPIを公開してきたが、最近はGaroonもAPIが強化され、kintoneと同じようにプラグインや外部サービス連携が容易になっている。しかも、最新のサイボウズ製品は、すでにコンテナベースのインフラで動作しており、機能の多くがモジュラー化されているという。そのため、製品同士をAPIで連携するか、他製品の機能をkintone上に構築することで、ユーザー体験としてはシームレスに利用できる環境を提供できる。「だから、機能同士の連携やプラグインの追加など地味な機能強化に見えると思う」と青野氏は語る。

 大谷の「サイボウズ製品同士を連携・統合することによるユーザーのメリットがあまり見えない」という声については、「モジュール化したらもっと面白い世界が待っているような気がする」と青野氏は語る。いまサイボウズのグループウェアを購入すると、使うと使わざるを問わず、すべての機能が全部入りで使うことになるが、モジュール化することで、たとえばスケジュールとアドレス帳だけをkintone上で利用できるようになるかもしれないし、現在存在しないマーケットプレイスも実現するかもしれない。とはいえ、まだ構想段階であり、現在は社内での検証とロードマップを作っているところだという。

 そして、サイボウズNEXTのフォーカスは、自社アプリだけではない。SaaSの乱立という課題からスタートしただけに、他社のアプリをkintone上に巻き取っていくことも視野に入れている。青野氏は、「究極的な理想を言えば、みんなアプリをkintone上で作ってほしい。ほとんどのSaaSは今後淘汰されていくはず。1000社くらいのお客さんはいるけど、損益分岐点を超えなかったサービスは、たぶん開発の継続が難しくなる。生き残れなかったサービスは、なるべくkintoneの上に誘致していきたい」と将来構想として披露する。

 また、エコシステムに関しても、高度な機能を持つか、専門性に特化しない限りは淘汰されていくと指摘した。すでに無償のシンプルなプラグインは淘汰が始まっており、gusuku Customineのようなカスタマイズツールで代替されるようになっているという。一方で、選挙の候補者用の「スマート選挙」のようにkintoneを用いた専門性の高いWebサービス・アプリも出てきているという。

 一方で、マイクロソフトやグーグル、セールスフォースのようなビッグプレイヤーとは異なるエコシステム戦略を目指す。「どこにも入れなかった有象無象のSaaSをうちに引き込めないかなと考えています。そうすれば、ユーザーもログインも1回で済み、検索も一発でできるようにできる。グローバルスタンダードを押しつけられるより、顧客に合わせたツールを使える方が多様性がある」と青野氏は語る。

 そして、グローバル展開はまさに青野氏の悲願だ。「目標はない。なぜなら何年かかってもやりきるから。短期的な目標をセットしたからといって、それがうまくいくとも思えないし、達成したからといって、それがなんだという話。本当に行きたい世界は1000社とか、1万社というレベルじゃない」と鼻息も荒い。青野氏は、「イビサさんと最初にお会いしたのは26歳でしたが、そんな私も来月52歳です。やってあと10年、長くても20年なので、なんとかこれをやりきりたい」と語る。

スライドには「日本発・日本初のグローバルソフトウェア企業へ」というフレーズ。

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