BIツールから領域を広げるQlik、日本法人トップの今井氏に現在の注力ポイントを聞く
「データドリブンが追い風、Qlikジャパンは新たなフェーズへ」
2023年05月09日 07時00分更新
BIツールベンダーとして知られるQlikが、日本法人のクリックテック・ジャパンを設立して13年目を迎える。コロナ禍直前にクリックテック・ジャパン代表に就任した今井浩氏は、Qlikが日本市場において「モメンタムを迎えている」と話す。
今回は米国で開催された「QlikWorld 2023」会場で、同社が提唱する「アクティブインテリジェンス」、日本の優先取り組みとする「AIの民主化」と「データファブリック」、米国本社が進める「Talend」の買収などについて話を聞いた。
日本でもアクティブインテリジェンスの受け入れが進んでいる
今井氏はユニークな経歴の持ち主だ。日本IBMでキャリアをスタートさせているが、最初はIBMのアメフト実業団チームに所属する選手だった。高校まではサッカー、大学で本格的に打ち込んだアメフトの実力が評価されての入社だ。IBM時代のポジションはランニングバック。
しかし間もなくIBMは、アメフトチームやラグビーチームの選手にもビジネスの役割を担わせるように方針を転換。今井氏はアメフトをやりながら営業をすることになる。「当時、IBMのアメフトチーム責任者から『アメフトで一流を目指していたのなら、ビジネスでも同じ。できるはずだ』と言われました」。そして実際、その言葉どおりだったようだ。
「ビジネスとスポーツはほぼ一緒。リーグ優勝することは、ビジネスでは1年かけて勝ち、お客様を幸せにすること。そのためにストラテジーがあり、戦術があり、オフェンスゲーム、ディフェンスゲームといったゲームシナリオがある。ゴールから逆算してマイルストーンを決めて、準備をする。そしてプラクティス、チームビルド――個を高めて、チームを作る。これはビジネスも同じです」
今井氏はその後、SAP、Microsoft、EMCなどを経て、2019年10月にQlikの代表に就いた。
コロナ禍を経て、Qlikは「日本でモメンタムを迎えている」と今井氏は語る。モメンタムの要因として、(1)「データドリブン」が日本でも注目され始めた、(2)社員やパートナーにおいて、Qlikが提唱するアクティブインテリジェンスの概念への理解が進み、大型顧客の獲得につながり始めている、という2つを挙げた。
(2)のアクティブインテリジェンスとはどんなものか。今井氏は「データの速さでビジネスを実行すること」だと説明する。
「現場で起こっている事実の速さで気づきを得て、推奨されるアクション(行動)を全従業員に提供できる。従業員はデータドリブンな仮説に基づき行動する。場合によってはアクションを強制することもある」
データから気づきが得られても、従業員が具体的にアクションを起こさなければ売上の拡大にもコスト削減にもつながらない。よってアクションを支援する部分は非常に重要であり、Qlikの重要な差別化ポイントとなっている。
BIから領域を拡大するQlik、その差別化を支える2つの技術
そこで重要な技術が2つある。1つ目が「Qlik Data Integration」だ。エンドツーエンドのデータパイプラインをカバーできるようになった。
「データソースからリアルタイムにデータをコピーできるチェンジ・データ・キャプチャ技術によって、現場で起きていることがSAPやOracleなどに記録されるタイミングで、そのままデータレイクにコピーすることが可能だ」
このように、さまざまなシステムからリアルタイムにデータを集約して、データウェアハウスの自動生成を実現するのがQlik Data Integrationとなる。この部分は、まもなく買収完了が見込まれるTalendが加わることで、さらに補完・強化されることになる。
2つ目の技術は「アクショナブルインサイト」である。これはユーザーの役割に合わせて、アクションに必要なデータ、インサイトをプッシュ型で配信する部分だ。
単にコミュニケーションツールを通じてユーザーに通知するだけでなく、RPAなど実行系のシステムをトリガーすることも可能だ。これにより、たとえばCRMツールをトリガーして、顧客に対するアクションを自動的にとるシステムを組んでいる顧客も出てきているそうだ。
「技術的に新しいものではないが、BIをBIで終わらせるのはもったいない。もっとAI化して、インサイト情報を与えるだけでなく、日々の業務の中に埋め込むことで、結果としてAIドリブンで行動していることになる。こうして自動化したほうがスケールできる」
このように現在のQlikは、「QlikView」「QlikSense」といった分析/BIだけでなく、データの準備、データ分析からアクションまでをソリューションとして体系的に提供するベンダーへと拡大を遂げている。
2023年の注力分野は「AIの民主化」と「データファブリック」
アクティブインテリジェンスの実践に当たって心強い技術が「Qlik AutoML」だ。2021年に買収したBig Squidの技術が土台となっており、クラウド上で機械学習(ML)モデルを構築して分析や予測を実行できる。
今井氏は、QlikのAutoMLのポイントとして「使いやすさ」を挙げる。「ビジネスユーザーが使うBIツールと連動して動くので、一般的なAutoMLエンジンのように難しくない。BIを使っているうちに、AutoMLが使えるという感覚で使うことができる」という。
ユースケースとしては、営業、マーケティング、生産、研究開発など、幅広い業務が想定されている。たとえば、特定の顧客が離脱している原因を探った後で、AutoMLのあるアルゴリズムを活用し、離脱のタイミングを事前予測する。そしてキャンペーンメールを打つ最善のタイミングを予測して、離脱を防ぐ――。こうした使い方ができるという。
「日本でも評価検証中のお客様が増えている。これまでAutoMLを活用するにはデータサイエンティスト教育が必要だったが、QlikのAutoMLは“気がついたら使っている”という感覚で使えると評価いただいている」
AutoMLは、今井氏が2023年の重点目標に掲げる「AIの民主化」を支援する一技術となる。もう一つの重点目標が「データファブリック」だ。あらゆるデータソースからデータを集めて、従業員が必要な時に・必要なインサイトを提供するのを支えるのを支援するもので、「1対1ではなく、N対Nで接続できる」と説明する。
買収完了目前のTalendのチャンスはどこにあるのか
2023年は「AIの民主化」と「データファブリック」に加え、今四半期中に完了が見込まれるTalendの買収もある。
日本におけるTalendの可能性をどう見ているのか? Qlik顧客は「Informatica」を使っている企業が多い中、InformaticaのモダナイズとしてTalendを検討する企業が多い、と今井氏は話す。Talendは元々オープンソースのETLとしてスタートし、エンタープライズ向けの機能を拡充させてきた。そこで、リアルタイム性が重視されるところはQlik Replicate/Composeを、バッチ処理でよい部分はTalend、という使い分けも考えられるという。
今後の計画については買収が完了した後となるが、日本のQlik顧客ですでにTalendを使っているところも少なくない。機能面で有機的に連携して欲しいという期待を感じる一方で、今井氏は「ベンダーロックインのようなデメリットが発生しないようにという声もいただいている」と話す。「最も大切にしていることは、お客様、パートナー様、従業員にコンフリクトを起こさないこと。そのためには、人にフォーカスしながら、お客様のビジネスを最大化できるような状態をつくるにはどうすればいいのかを考える必要がある」と続けた。
製品面以外の取り組みでは、日本のデータリテラシー向上も重要な取り組みと位置付ける。「データリテラシーが上がることで、日本企業の利益率が上がり、ビジネスが上向き、結果として日本企業の株価が上がり、国際競争力が上がる。日本が豊かになり、人々の幸せにつながる。ここを目指してやっていきたい」。
日本でも大企業がソリューションとしてQlikを導入するケースが増えており、4月に米ラスベガスで開催した年次カンファレンスでは、、Qlikを使ってビジネス変革を遂げた企業を表彰する「Global Transformation Awards」で、日本から初めて本田技研工業(ホンダ)が選ばれた。
「ホンダ様は、単なるデータの可視化ではなく、製品開発やマーケティングなど複数の部門でアナリティクスとして使われ、それがビジネスの効果を生んでいる。日本の製造業がこのような取り組みをしているという点が、Qlikの米国本社に大きく評価されている」
富士通など大手の採用も追い風となっており、パートナーも、日本法人設立前からのパートナーであるアシストをはじめ25社程度に増えた。
AIの民主化により、これまではエンドユーザーの技術者が主たるターゲットだったが、ビジネスユーザー、経営者に広がりつつある。これまでとはフェイズが変わってきており、ソリューションやバリューエンジニアリングの部分を強化していく必要性を感じていると今井氏。定期的に開かれているユーザー会、パートナー会も強化していく。
「アクティブインテリジェンスというコンセプトとアーキテクチャで、日本のデータリテラシーを上げることで日本を元気にしていく。それが私の今のビジョン、ゴールだ」