“ゲームは1日1時間”。私が学生の頃、ゲームはあまりよくないものとして教育されてきた。しかし、昨今ではこのゲームに明確なルールを設け、競技として成立させた「eスポーツ」が日本でも浸透している。
プロゲーマーやストリーマーの活躍により、日本でもかなり“eスポーツ”という言葉を聞いたことがある人は増えてきているのではないだろうか。しかし、言葉はしっていても、中身はよくわからないという人が多いのも事実だ。
しかし、そんなeスポーツを教育で活かす活動が、日本の教育分野において広がってきているのをご存知だろうか。その中心にいるのが、NASEF JAPAN(ナセフ ジャパン)だ。
NASEFは、北米教育eスポーツ連盟(North America Scholastic Esports Federation)の略で、アメリカ合衆国カリフォルニア州を発祥とする特定非営利活動法人で、主に高校生や中学生に対して、eスポーツを学習や教育を促進するための効果的ツールとして活用し、デジタル人材の育成に資することを主な目的としている。NASEF JAPANは、簡単にいうとその日本本部となる。
eスポーツ×教育という点で、頭にクエスチョンマークが出る人も少なくないだろう。NASEF JAPANは、いったいどのようにeスポーツを教育に活かしていこうとしているのだろうか。そこで今回は、NASEF JAPANの理事長を務める松原 昭博氏に、NASEF JAPANとは何なのか、詳しく話を伺ってきた。
NASEFの視察で青天の霹靂
アメリカと日本のeスポーツの差にも注目
──よろしくお願いします。まずは、NASEF JAPANが発足した経緯を教えてください。
松原 昭博氏(以下、松原氏):私は2018年にサードウェーブに入社して、プロダクトとマーケティングの責任者を担っていました。その同年に、アメリカで大きなeスポーツの大会があるということで、視察に行ったんです。その際に、カリフォルニア大学アーバイン校にNASEFがあって、そちらにも寄らせてもらったんです。
──NASEFをしったのはそのときなんですか?
松原氏:そうです。アーバイン校にはeスポーツの施設があって、その一角でNASEFが活動しており、どういった活動をしているかの説明を受けて、これは是非日本でもということで、NASEF JAPANを2020年11月に設立しました。
──視察に行ってから、結構時間が経ってからの発足たっだんですね。
松原氏:日本はコンソールがべースという背景があるので、対戦というよりかはCPU相手に1人で遊ぶ作品が多かったんですね。アメリカでパソコンを使ったeスポーツの文化がすでに広がっている中、日本で広まるのが遅くなった理由の1つだと思っています。加えて、ゲームということに対してネガティブな意見も多かったので、なかなか難しいものがありまして。でも、同じ時期にサードウェーブが毎日新聞社と「全国高校eスポーツ選手権」をスタートさせたということもあり、日本でもっとeスポーツを教育分野で活かしたいという思いも強まり、2年後にサードウェーブの尾崎社長の後押しもあって、任意団体としてNASEF JAPANを発足するに至りました。
──松原さんはまだサードウェーブに席を置いていらっしゃるのですか?
松原氏:初めは兼任だったんですけど、団体としてより中立性を出したいということで、2022年の8月にNPOとして独立しました。現在はサードウェーブは退いて、専任で理事長やらせていただいています。今でもサードウェーブが最大のサポーターであることは変わらないのですが、今後はより多くの企業さんにもご支援いただいて、もっと公的な活動をしていかなくてはなと思ったのもあります。
活動内容は大きく3つ
教育活動、啓発活動、子供たちに対する場の提供
──では、NASEF JAPANが実際に行なっている取り組みについて教えてください。
松原氏:大きく3つにわかれるんですが、1つ目が教育活動、2つ目が啓発活動、3つ目が子供たちに対する場の提供です。
──1つずつ伺ってもいいですか?
松原氏:教育活動については、まず重要なのが生徒さんではなく先生向けの活動だと考えています。eスポーツを教育分野にといっても、まず先生方が何をしていいかわからないという場合が多いんです。そこで、先生方にeスポーツを教育にどう活かすかを伝える活動をしています。そのために、日々学校にお電話して、加盟校になっていただくよう説明をさせていただいています。
──具体的にどういった教育をしてもらいたいのでしょうか。
松原氏:1つは、STEAM教育です。これは、サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マテマティクスに、アートを加えてSTEAMになります。例えばゲームを例に出すと、作る人はエンジニアリング、ゲームがどう動くかという物理演算はマテマティクス、キャラクターやマップなどのデザインはアートといった感じです。NASEFでは、eスポーツをつうじてこのSTEAM教育を実施するエコシステムを作りました。このエコシステムを先生方にお伝えするのが、我々の大きな役目となっています。
──eスポーツをつうじて、さまざまな分野を伸ばしていくわけですね。
松原氏:もう1つは、PBL(課題解決型学習)です。今までの教育は、先生が生徒に教えるダウンロード型だったわけですが、PBLは子供たちが自分で探求していって、それに先生は寄り添うといった教育なんです。何もないところから課題を見つけていく探求心を育てていくことが、今後の時代にはどんどん重要になっていくと思っていますので、そういった素質を持った生徒を育てていけるように、我々も貢献したいなと考えています。
──部活動マニュアルというのも、その活動の一部になるんでしょうか?
松原氏:部活動マニュアルは、顧問教員のための部活動の手順書でして、部のルール、行動規範といったものを生徒たちの中でつくってもらうようなマニュアルになっています。顧問の先生はルールや行動規範を作るのではなく、作っている生徒たちを見守る、ミーティングの時間を作らせる、時間になったら家に帰すといったことが主な作業になります。
──eスポーツタイトルって、試合中はコーチも話せないですし、自分たちで何とかしなくてはいけないことがほとんどだと思います。そういった意味でも、自分たちで作戦を組み立てて、連携して実行するということに関しては、コーチや監督が試合中にアドバイスできるリアルスポーツよりも、もしかしたら育つのではないかと思っています。
松原氏:eスポーツタイトルを練習するなかで、自分たちで課題を見つけて、それに対して練習をするということが、PBL教育に繋がっていると思っています。また、チームメイトにどういったら上手く伝わるかといったことも考える必要があるので、コミュニケーション能力も上がっていくと期待しています。
──eスポーツだけではなく、「マインクラフト」を使用した「Farmcraft」も実施されていますよね?
松原氏:Farmcraftは、アメリカのNASEF考案のものなんですけど、イメージでいうと、マインクラフトのゲームの上に農業の環境をガバっとかぶせたものになります。コンテスト仕立てになっていまして、環境に考慮しつつ、畑の収穫高をいかに最大化できるかを考えてもらっています。また、2023年からは物流の要素も入ってきて、マーケティングについても考える必要がでてきました。これを実践して、最後に動画を撮影して英語でプレゼンテーションをするというのが、コンテストの内容になっています。マインクラフトをつうじて、農業や環境問題のほか、マーケティングや英語といった複数のことが学べるというのが、最大の魅力です。
──めちゃくちゃ面白そうですね。
松原氏:2022年は全世界から1152チーム、日本からは7チーム参加しています。その中で、日本は世界第3位と第4位を獲得しました。
──スゴイ!
松原氏:Farmcraftのもう1ついいところは、学校に我々の活動について説明する際に、“eスポーツ”というとそれだけで興味をなくす先生方がまだまだいらっしゃいます。そんなときに、Farmcraft(マインクラフト)の話になると「それどういった取り組みなんですか?」と興味を持っていただけることがあるんです。
──なるほど、確かにマインクラフトはかなり有名ですもんね。
松原氏:我々の主目的はeスポーツを広めることではなく、あくまでeスポーツを使った教育というのが目的ですから、できるだけ興味をもってもらうために、幅広い活動をさせていただこうと考えています。