ストリーミング全盛の時代となり、音楽は身近となった。しかし、クラシックファンは少し不満を持っていたかもしれない。世の中にはこんなにも多くの音源が存在するのに、自分が求めるものにたどり着くのが困難だからだ。
3月28日(米国時間)ついに配信が始まった「Apple Music Classical」は、「あるはずなのに探せない」というクラシックファンのストレスを軽減するだけでなく、新しい音楽との出会い取り持つサービスになるかもしれない。
#AppleMusicClassical is here! Watch as two of the most powerful talents in classical music, @AliceSaraOtt and @kcanellakis, team up to introduce you to the new app. https://t.co/lwnF4Dx4uapic.twitter.com/cbEbageOha
— Apple Music Classical (@AppleClassical) March 28, 2023
豊富なメタデータで、目的の曲がきっと見つかる
“究極のクラシック音楽ストリーミング体験”をうたうApple Music Classicalは既報の通り、全世界のApple Musicユーザーに向けてリリースされた、クラシック音楽特化のストリーミング再生アプリだ。Voiceプランを除く、Apple Musicのサブスクリプションに契約していれば追加料金なしで利用できる。配信するトラック数は500万を超え、クラシック音楽のカタログ数としては世界最大規模。記念碑的な録音や忘れられた宝石(Hidden Gemというコーナーで紹介)まで様々な音源を楽しむことができる。Apple Music Classical限定のアルバムは数千。専門家が過去800年間の楽曲からピックアップした700を超えるプレイリストが用意されている。
ただし、その真価は数だけではない。豊富な種類のメタデータとクラシックを聴く人であれば必ず気になる多彩な検索機能が最大の特徴なのだ。Apple Music Classicalには約2万の作曲家、約11.5万の作品、約35万の楽章が登録されているが、その検索に使えるデータポイントは実に6000万に達するという。
なぜこれだけの数が必要なのか。それはクラシック音楽のトラックはあるアーティストのこの曲という単純な組み合わせだけで確定することは非常に困難だからだ。例えば、同じ作曲家の同じ協奏曲であっても、指揮者の違い、楽団の違い、ソリストの違い、録音年代の違い……などさまざまな差異を持つバージョンが存在する。また、探したい曲は曲名だけで決まるわけではない。アーティストを軸にさまざまな作品を聞きたい場合もあるだろう。また、リリースする国によって用いられている言語も異なる。正式な曲名ではなく「運命」や「レニングラード交響曲」といった愛称、あるいはケッヒェル(K)番号、BWV番号、作品(op)番号、使用楽器などを使った検索を試みたいという人もいるはずだ。
これらのすべてのキーワードを網羅し、かつ最短の道筋で聴きたい音源にたどり着ける。そのための仕組みこそが必要なのだ。
Apple Music Classicalは、こうしたクラシック音楽特有の複雑な検索を素早く処理できるインターフェースを持っている。人気のある楽曲やおすすめの楽曲、ムードにあった楽曲を選べる「Listen Now」に加え、作曲家やバロックなどの年代、ジャンル、指揮者などから目的の楽曲を探せる「Browse」、Apple Musicと統合した「Library」、そして豊富なメタデータを生かした「Serch」などを通じてより早くより簡潔に目的の曲にたどり着ける機能を提供している。また、演奏者などが異なる複数のバージョンをまとめて表示することもでき、演奏者ごとの解釈の違いを簡単に聞き比べることも可能だ。
アップルは作曲家のアートワークなどにもこだわっているほか、ベルリン・フィル、カーネギーホール、シカゴ交響楽団、ロンドン交響楽団、メトロポリタンオペラ、ニューヨークフィル、パリ国立歌劇場、ロイヤル・コンセルトヘボウ、サンフランシスコ交響楽団、ウィーン・フィルなどとパートナーシップを結び、最新かつ独創的で、限定的なコンテンツと録音を提供する。また、全世界のアップルストアでのライブパフォーマンスも実施するという。加えて、今日を代表するクラシック音楽の作曲家、演奏者などとも密接な関係を持ってサービスを展開していくという。
Apple Music Classicalのリリースに当たって世界的なチェリストのヨーヨー・マ氏は、Apple Music Classicalのようなサービスの必要性について早い段階から意見交換しており、リスナーがクラシックミュージックの世界に引き込むサービスになるとしている。同氏は「クラシック音楽に限らず、すべてのカルチャーにはつながりが必要であり、Apple Music Classicalはつながりを導くだけでなく、好奇心を刺激し、知っているものを再発見し、予期せぬ喜びを喚起するものだ」としている。
また、ヴァイオリニストのヒラリー・ハーン氏は「ストリーミング世代のクラシック音楽の新スタンダードになる」とし、ハイレゾロスレスやドルビーアトモスで収録された高品質なコンテンツを持ち運べる魅力について述べている。同時に、「音楽はさまざまな人々のコラボレーションによってつくられるものであり、作曲家、編曲者、指揮者、音楽家、プロデューサー、パブリッシャーなどさまざまな部分がメタデータに収録され、クレジットされることに価値がある」とも話している。
ロックバンド、レディオヘッドやThe Smileでの活動で知られるジョニー・グリーンウッド氏は「クラシック音楽ストリーミングの課題を解決するために協力している」とし、アップルが「エレガントな方法でデジタルクラシック音源の検索特有の問題に解答を出した」とする。ジョニ・ミッチェルの「ブルー」は1つの録音しかないが、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」は無数にある。また、クラシックに興味を持ち始めたばかりの人が、不満や戸惑いを感じずに探せるという点に意味があり、「音楽の宇宙への道筋となり、新しいクラシックファンも古いクラシックファンも満足させ、直接的かつ直観的な方法で、音楽への熱意に音楽で応えられる」といった趣旨のコメントをしている。
このように、クラシック音楽内外の豪華なアーティストから熱いコメントを集めているApple Music Classical。現状ではApple Musicを提供している各国のうち、日本、中国、台湾、韓国など一部が除外されている。国内でのサービス開始時期はまだ明らかになっていないが、日本はかなり近い時期にサービスインがなされるという話もある。同サービスが持つ多言語対応は国内盤と海外盤が混在し、さらに複雑な日本の状況を考えると大きなメリットがありそうだ。クラシック音楽をより身近にする存在となることを期待したい。