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パートナーとの協調のもと「多様な社会課題の解決」「サステナブル企業への変革支援」にも注力

SAPジャパンの2022年ビジネス戦略「クラウド企業としてさらに深化を」

2022年02月17日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 SAPジャパンは2022年2月16日、2022年のビジネス戦略に関する記者説明会を開催した。出席した同社 代表取締役社長の鈴木洋史氏は、2022年は「クラウドカンパニーへのさらなる深化」「多様な社会課題の解決」「サステナブルな企業への変革支援」という3つの方針を掲げて取り組むと述べ、そのための具体的な施策を説明した。

SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏。2022年の「3つの方針」を説明した

日本においてもクラウドビジネスへのシフトが急速に進む

 説明会冒頭、鈴木氏は昨年(2021年)のビジネスについて総括した。グローバル、日本とも堅調な業績を収めている。

 グローバルの業績では、前年比47%増の売上を見せた「S/4 HANA Cloud」が牽引するかたちで、クラウドビジネスが前年比19%増と大きく伸長している。これに伴って、クラウドおよびソフトウェア売上は前年比5%増、総売上は同3%の増となった。

 さらに日本では、このグローバルの成長率を上回る成長を達成している。2021年、SAPジャパン単体の売上は前年比6%増となる13億8000万ユーロ(約1770億円)だった。また昨年の発表と同様に、そのほかの指標についても「すべての指標でグローバルを大きく上回っている」(鈴木氏)という。日本市場におけるクラウドビジネスの売上比率は公表していないが、その成長率は19%を上回っているということだ。

 「グローバルの中で、日本はオンプレミスのビジネスがまだまだ大きい市場だが、クラウドビジネスの成長率はグローバルを上回っている。その背景には、コロナ禍を経て、経営のシンプル化、標準化を決断する経営者が非常に増えたことがあると考えている。基幹システムにおいても、これまでのように自社独自の要件を作り上げ使い続けるのではなく、不確実性の高い社会の変化に自社ビジネスをアジャストしていくアジャイルなものが求められている。そうした流れがSAPジャパンのクラウドビジネスの成長を支えているものととらえている」(鈴木氏)

 鈴木氏は昨年の主な取り組みについても振り返った。昨年提供開始した、企業のビジネス変革を包括的に支援するサービスパッケージ「RISE with SAP」は、すでにグローバルで1300社以上が採用しており、日本でも多様な規模/業界の顧客で採用実績が生まれている。

 また、リモートワークの増加とそれに伴うペーパーレス化の動向を背景に、経費精算の「SAP Concur」や人材管理の「SAP SuccessFactors」といったSaaSソリューションが好調だった。そのほか、大阪府や沖縄市などとの連携による社会課題の解決支援、企業のサステナビリティ改善を支援するソリューションの提供開始などの取り組みも行った。

SAPジャパンにおける2021年の主要な取り組み

ビジネスを通じた社会課題の解決、サステナブルな企業への変革を支援

 2022年のビジネス戦略について、鈴木氏は、まず顧客企業が直面する3つの課題と、その解決に向けた3つのアクションから説明した。

 「ビジネス変革」の課題においては、従業員がより付加価値の高い業務に注力し、企業として競争領域におけるビジネスをさらに成長させられるような、継続的な変革の取り組みが不可欠だ。「サプライチェーン強化」では、多くの企業が体験しているサプライチェーン危機を防ぐための、企業どうしもつないだサプライチェーン全体の可視化が求められる。そして「サステナビリティ実現」では、CO2排出量のような非財務情報もビジネスプロセスに組み込んで可視化するアクションが必要となる。

 「2022年、ドイツのSAP本社は創立50周年、またSAPジャパンは創立30周年という大きな節目の年を迎える。企業が対応すべき3つのアクションを支援するために、SAPはグローバルで、トップクラウドカンパニーとして、顧客をインテリジェントでサステナブルな企業へ変革する支援をしていくことを最重要の柱に掲げている」(鈴木氏)

企業が現在直面する課題と3つのアクション

 そうしたグローバルのビジョンに基づき、SAPジャパンでは「3つの方針」を掲げて2022年のビジネスに取り組んでいく。冒頭で触れた「クラウドカンパニーへのさらなる深化」「多様な社会課題の解決」「サステナブルな企業への変革支援」の3つだ。

 まず、クラウドカンパニーへの深化においては、単にクラウド型の製品を提供するだけでなく、SAPが伴走しながら顧客の変革を支援することで高い価値を提供していく。そのためには「RISE with SAPが大きな役割を果たす」と、鈴木氏は説明する。RISE with SAPは、まさにそうした狙いをもって設計/構築されており、変革の道のりで必要となる要素(製品、サービス)をすべて提供するものだからだ。

 「RISE with SAPは、インテリジェントでサステナブルな企業への“道しるべ”となるもの。変革の長い道のりをSAPが伴走する。今回、システムの導入から利活用支援までを一括して担う新組織、クラウドサクセスサービス部門も新設した」(鈴木氏)

 クラウドサクセスサービス部門は、今年初めに日本を含むグローバルで新設された組織であり、国内で約600名の人員規模を持つ。パートナーとも協調しながらRISE with SAPを採用した顧客への導入支援を行うとともに、顧客社内における積極的な活用もきめ細かくサポートして効果につなげる。

RISE with SAPは、顧客企業における変革の道のりをサポートする製品やサービスをパッケージとして提供する

製品群としては「S/4 HANA Cloud」を中核に、さまざまなSaaSを必要に応じて利用できる仕組み。その導入と活用を支援する新部門も立ち上げた

 “変革に向けた顧客との伴走”という観点から、昨年から開講している「COO養成塾」、今年からスタートした「Industry 4.Now塾」の取り組みも紹介した。前者は「SAP自身の変革の道のり」を題材として、データドリブン企業への変革を目指すCOO(最高執行責任者)の養成を図る講座、後者は製造業においてDXを推進するミドルマネジメントの全体構想力向上を目標とする講座で、いずれも少人数を対象に無償で提供している。

 第2の方針である「多様な社会課題の解決」に向けて、パートナーとのクラウドビジネスにもさらに注力していく。SAPがこの数年でクラウドビジネスに大きく舵を切った結果として、SAPパートナーにおけるビジネスもクラウドにシフトし、すでにオンプレミスと同規模にまで成長している。昨年は新規パートナーも52社増えて424社となり、RISE witn SAPの再販やサービスの認定パートナーも37社を数えるまでになったという。

 パートナー支援を強化する目的のひとつとして、中堅中小企業に対する販売モデルの転換と販売強化がある。今年から年商800億円未満の中堅中小企業層に対しては100%パートナー企業による間接販売とすることとし、「SAPがグローバルで培った知見を積極的にパートナーにも共有していく」方針だと説明した。

 また「新しい働き方」という社会課題に対して、SAPではグローバルで「Pledge to flex」を掲げた取り組みを行っていることも紹介した。これは「勤務地の柔軟性」「働く時間の柔軟性」「働く場所の柔軟性」の3つの実現を目指す取り組みで、コロナ以後も引き続きテレワーク(国内の通勤圏外も含む)を選択できるようにしたこと、週の稼働日の調整や選択型福利厚生制度を取り入れること、オフィスの位置づけを柔軟な働き方を実現する場所、従業員のコラボレーションスペースなどとして、大阪、東京オフィスのリノベーションを図っていることなどを紹介した。

SAPはグローバルで「Pledge to flex」を掲げ、従業員の多様で柔軟な働き方実現を目指している

 第3の方針であるサステナビリティ推進については、顧客企業のサステナブル化を支援する“Enabler”、SAP自身での実践を行う“Exemplar”の両面で取り組むとした。顧客支援ではサステナビリティ経営を包括的にサポートするソリューションを提供するほか、サステナビリティ分野のスタートアップ連携も強化する。自社での実践では、2023年までに自社の活動におけるカーボンニュートラルを実現したうえで、2030年にはネットゼロを実現する計画だと述べた。

サステナビリティ推進に向けて、「顧客の支援」と「自社での実践」の両面で取り組みを進める

 最後に昨年の記者会見で発表されたSAPジャパンの中期変革プログラム「SAP Japan 2023 Beyond」についても、その進捗が報告された。2年目を迎えた現在、社員160名以上が6つのカテゴリ(人、顧客、サステナビリティ、社会、認知、製品・サービス)に分かれ、“自分ゴト化”をテーマに組織横断で取り組んでいる。今年は6カテゴリを横断する大目標として「社員にとって働きやすい環境の維持」「クラウドビジネスの大きな成長」「1億人の生活をより良くする」の3つを掲げている。

 「2021年の従業員エンゲージメント指標は86%だった。これをグローバルと同等以上のレベルでキープしていく。また、カレントクラウドバックログ成長率を指標として、グローバル以上にクラウドビジネスを加速させていく。最後に、さまざまな社会課題の解決支援を通じて1億人の生活をより良くする。壮大な目標ではあるが、社員一人ひとりの力を結集して推進する」(鈴木氏)

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