知識とユーザー目線、腹落ちさせるロジック 亀田さんのここがすごい
実は今回、このイベントに関して記事を書く予定はなかった。あくまで1人の参加者としてイベントを楽しもうと、取材の準備もしなかった。最後まで参加できたわけではなく、手元にはイベントの録音も写真もない。50歳頭の記憶のかけらしかない状態でも、なにかしらアウトプットしなければと思ったのは、やはりAWS時代の亀田さんの偉業をきちんと記事にしておきたかったからにほかならない。
私が記者として亀田さんを初めて意識したのは、2018年に大阪で開催されたJAWS FESTAの基調講演だ。秋晴れの中、パナソニックスタジアム 吹田に登壇した亀田さんは、テクノロジーを用いた仕組みの実装という観点でクラウドのメリットを説いた(関連記事:AWSを利用すべきもう1つの理由は「メカニズム」の実装である)。テクノロジーに関わる者が意識すべきクラウド利用のロジックを示した亀田さんの講演は、午前中の友岡賢二氏の講演ともに、強烈な印象を残した。その後、亀田さんの講演は折に触れて記事化させてもらっている。
なぜAmazonはマイクロサービスに舵を切ったのか?(2018/1/24)
https://ascii.jp/elem/000/001/620/1620756/
“Learn and Be Curious”- AWSエバンジェリスト対談が教えてくれたもの(2018/3/27)
https://ascii.jp/elem/000/001/653/1653618/
AWSを利用すべきもう1つの理由は「メカニズム」の実装である(2018/11/19)
https://ascii.jp/elem/000/004/048/4048703/
re:Union 2018 Osakaは幻のあのイベントの登壇予定者が目白押し(2018/12/25)
https://ascii.jp/elem/000/001/789/1789446/
エンジニアの心のよりどころとは?AWSがJAWS-UGにメッセージ(2019/2/25)
https://ascii.jp/elem/000/001/818/1818148/
ぎゅっと絞り込んだre:CapをJAWS-UG初心者支部で聞いてきた(2019/12/13)
https://ascii.jp/elem/000/001/997/1997490/
クラウドのメリット、AWSを選ぶ理由を改めて学び直そう(2020/12/8)
https://ascii.jp/elem/000/004/036/4036405/
AWS亀田さんが語る「コロナ渦におけるクラウドとコミュニティで学ぶ意義」(2021/3/25)
https://ascii.jp/elem/000/004/048/4048703/
イベントのオープニングでは亀田さんに公開取材をやらせてもらったが、登壇記事を過去にいくつも書き、重森さんや谷崎さんの原稿を編集してきた担当として、私は亀田さんのすごみを「自己紹介のようにサービスを語れる知識量」「サービス愛と客観的なユーザー目線の同居」「複数のトピックをつなげる天才」「90分を飽きさせない構成のマジック」「初心者~上級者まで満足させるレンジの広さ」とまとめさせてもらった。
熱狂したユーザーが飛びついた黎明期と異なり、本格的な普及期の目の肥えてきたユーザーをどのようにクラウドにディープダイブさせるか。豊富な知識量とユーザー目線に加え、ユーザーを腹落ちさせるロジックを追求してきた結果が、亀田さんのエバトークになったわけだ。そして自らコミュニティにダイブし、多くのメンバーと交流を重ねていくことで、得た知見をまた自らにフィードバックするというループを5年以上に渡って実践。老舗の秘伝のタレのごとく円熟味を増したエバトークを、私たちはいろいろなイベントで楽しむことができたのだ。
インタビューでは、プロフェッショナルの流儀のようなイメージでそんな亀田さんの仕事について聞かせてもらった。「多くの講演ではスライドを作ったら、実は当日まで見ない」「AWSの要人が登壇したパネルでモデレーターをやったことで、初めてエバンジェリストとして認められた」「一番気持ちよかったのは、やっぱりパナソニックスタジアムのJAWS FESTAのキーノート」などのコメントをいただけた。
最後のクラウドエバ亀田さん 大変だったことは「なかった?」
イベントの後半、いっしょにAWSの成長期を走ってきた小島英揮さんと沼口繁とのパネルでは、「エバンジェリストの光と影」というタイトルで、5年半で大変だったことを質問されていた。いかにも毒舌をあぶり出しそうなタイトル設定だったにも関わらず、亀田さんの答えは「困ったことはほとんどなかった」だった。えっ?
亀田さんがエバンジェリストとして活躍したのは、クラウドが急成長し、AWSが猛烈な数の新サービス・新機能をリリースしてきた時期。当然、お客さんやパートナーの期待もリクエストも強烈だったはずだ。それでも(少なくとも表面だけでも)涼しい顔でエバを務めてこられたのは、自ら認めるとおり、プレッシャーをかけられ、いじられる方が実力を発揮するというドM体質、もしくは努力を人に見られたくないシャイなタイプなのだろう。
そんなAWSのエバンジェリストという役割は、亀田さんで最後になるという。ご存じの通り、マイクロソフトやグーグルでも、いわゆるクラウドエバンジェリストという役職はなく(あえて言うとデベロッパーアドボケイト?)、亀田さんはいわば最後のクラウドエバンジェリストになるはずだ。一つの時代の終わりと、次の幕開けを感じさせるイベントだった。
ともあれ、おつかれさまでした。そして最大級のありがとうを込めた「ジーク、カメダ!」