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半年の時を経て、あの夏がいまよみがえる

re:Union 2018 Osakaは幻のあのイベントの登壇予定者が目白押し

2018年12月25日 11時00分更新

文● 重森大

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 ときは西暦2018年。それまで東京でしか開催されなかったAWS Summitが、初めて大阪で開催される……はずだった。しかし開催前に大きな地震があったことから、開催は見送られ幻のイベントとなった。それを補うかのように、同年8月に開催されたre:Union 2018 Osakaは中身の濃いイベントとなった。Summitで登壇するはずだったメンバーに発表の場が与えられ、朝から夕方までびっしりと並んだセッションは10本。喋る方も聞く方もへとへとになったあの1日を、いま振り返ろう。

会場となったエムオーテックスオフィス

亀田さんのキーノートから、長い1日は始まった

 先鋒に立ったのは、アマゾンウェブサービスジャパンの亀田 治伸さん。AWS Summit Tokyo 2018の紹介からスタートした。「東京では3日間で2万2602名を動員し、LIVEストリーミングは1万5443名が視聴しました。213セッションと内部イベント、コミュニティイベントといった例年通りのプログラムに加えて、初の試みとしてAWS全体のことを語るプリセッションが開催されました」(亀田さん)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン プロダクトマーケティング エバンジェリスト 亀田 治伸さん

 例年新サービスを多く発表するAWSだが、今年はインフラの拡大も話題にのぼった。18のリージョンと1つのローカルリージョンがすべて、Amazon自前のダークファイバーで結ばれたのだ。これまではリージョン間の通信がインターネットを通る可能性があったが、今では東京リージョンに引き込んだ専用線から海外のリージョンまで、Amazonの回線だけでアクセスできるという。

 もうひとつのポイントは、AWSのサポート体制。地方ではいまだに「AWSって日本人がいるんですね」と言われることもあるそうだが、亀田さんはじめ多くの日本人が国内オフィスでサポートに当たっている。加えて、目黒駅前にAWS Loft Tokyoのオープンも予定されている。AWSユーザー向けのコワーキングオフィスだが、AWSのソリューションアーキテクトが常駐し、相談に乗ってもらえるというのが大きな特徴だ。サンフランシスコ、ニューヨークについで3店舗目のAWS Loftが東京にできるというところからも、AWSが日本を手厚くサポートしてくれていることがわかる。AWS Loft Tokyoは10月オープンの予定……と記事にすべきところだったのだが、筆者がうかうかしている間にオープンしちゃって、すでに盛況な様子だ。

 セッションの中ではAWSを使った特徴的な事例として、フジテックの友岡 賢二さんとStrolyの代表取締役社長共同CEO/共同創業者、高橋 真知さんが壇上に呼ばれた。前者はかつて武闘派CIOとして名を馳せており、読者の中にも知る人は多いだろう。

「AWS Summit Osaka 2018で大企業の経営層を相手に話すつもりで用意した内容なので、今日集まっているエンジニアの方々は、『大企業の経営者をどう口説けばいいか』と裏読みして聞いてほしい」(友岡さん)

フジテック株式会社 常務執行役員 “武闘派CIO” 友岡 賢二さん

 そう前置きをしたうえで、AWSのコストはサーバー購入のコストと比較するのではなく、データセンターのコストと比較すべきというコスト論や、エンタープライズにおけるITチャレンジにおいて人材育成が重要であり、コミュニティの存在意義の大きさについて語った。

 一方、高橋さんはStrolyのサービス紹介を行い、AWSを使ったクラウドネイティブな開発のメリットについて語った。

 「StrolyはStrolとStoryを掛け合わせた造語で、社名でもありサービス名でもあります。観光地で配られるような絵地図の中に現在地を示して、お散歩マップとして使ってもらえるサービスです。世界中どこからでも同じセキュリティレベルを担保でき、かつ管理を自動化できるので、京都を中心に国を超えて分散した開発チーム作りが可能になりました」(高橋さん)

Stroly 代表取締役社長共同CEO/共同創業者 高橋 真知さん

 こうしたふたりの話を受けて最後に亀田さんは、こう締めくくった。

「10年以上前、これからの経営者はITを知っていることが必要だと言われていました。これからのPMは機械学習について知っている必要があるでしょう。AWSはいま『BUILD ON』というキャンペーンをやっています。クラウドでリスクを極小化して、どんどんチャレンジしてみる。チャレンジして失敗した知見は財産になり、いつか新しいビジネスにつながっていきます。Amazonも自分たちの失敗からサービスを作ってきたのです」(亀田さん)

みんながみんな、キラキラしている訳じゃないんだよ

 AWS界隈ではサーバーレスや機械学習など最新のサービスを組み合わせて実現されたサービスを「キラキラしたアーキテクチャ」などと呼ぶ風潮がある。しかし、いきなりキラキラしたアーキテクチャに手を出して痛い目を見ることもある。学びが追いつかないし、これまでの知見も活かせない。そこで、いきなりキラキラしたアーキテクチャに飛びつくのではなく、もっと堅実なCloud Journeyを提案したのが、サーバーワークス 代表取締役の大石 良さんだ。大石さんは「Lift-and-Shiftによる失敗しないAWS移行のやりかた」と題して、まずは既存システムをas isでクラウドに移行することを勧めた。

「AWSにはVPCというSDNがあり、既存のネットワーク構成を持ち込みやすくできています。仮想マシンでサポートされるOSも幅広く、マイグレーションツールも充実。さらに、多くのアプリケーションベンダーがAWS上での利用をライセンスで認めているので、BYOLもやりやすい」(大石さん)

サーバーワークス 代表取締役 大石 良さん

 こうして、まずはインフラだけをAWSに移し、その後に開発する新規サービスや更新のタイミングで少しずつAWSならではのメリットを取り入れていくのがLift-and-Shiftの手法だ。初めからクラウドありきで立ち上がったスタートアップならいざ知らず、既存IT資産を持つ企業のIT部門は、そもそもDevOpsで開発と運用を回せるような組織になっていない。だから段階的な移行が現実解という訳だ。

 実はこうした話は、最後のセッションにおける亀田さんの話にも通じていた。亀田さんは、すっかりみんながだらけてしまった夕方、10セッション目という厳しい局面で「AWS Night School ~AWSの基本サービスを学ぼう 初心者向けセッション、上級者はちゃちゃいれてもいいですよ~」というセッションを敢行。Amazon EC2やAmazon S3に始まり、Amazon RDSやAmazon Auroraなどのデータベースまでをテンポよく紹介した。その際、冒頭で亀田さんはこんな話を紹介した。

「AWSは機能が多く、サービスアップデートも早い。いまから勉強しても追いつけそうにないという声を聞くことがありますが、心配はいりません。AWS利用料の一般的な内訳を見てみると、EC2やRDSが毎月の利用料金の9割程度を占めるケースが多いというのが、現実です」(亀田さん)

 つまりEC2から順番に学んでいけば、今からでもAWSを使えるようになるということだ。キラキラした機能に目を眩みひるんでいるエンジニアのみんなも、この現実を見てがんばってほしいと思う。

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