最新パーツ性能チェック 第399回
TDP 65Wになり扱いやすく!AMD「Ryzen 9 7900」「Ryzen 7 7700」「Ryzen 5 7600」最速レビュー
2023年01月09日 23時00分更新
消費電力と熱
ゲームでのワットパフォーマンス検証を済ませたばかりだが、ここではCPUの消費電力について、ラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を利用して検証する。システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、Handbrakeエンコード(設定については前述のベンチと共通)時の“高負荷時(最大)”と、処理中盤以降に出現する“高負荷時(安定)”の値をそれぞれ計測した。
MTPを無制限設定としたCore i9-13900やCore i7-13700の消費電力が大きいのは当然といえるが、3番手以降に登場するRyzenではX付き型番とTDP 65W版Ryzenとで消費電力の傾向が全然違う点に注目したい。
この消費電力の差がTDPの差ではあるが、TDP 65W版Ryzenはシステム全体で217Wあたりで完全に頭打ちになる。ElmorLabs「PMD」を利用しEPS12Vに流れる電力を直接計測しても、TDP 65W版Ryzenの最大値は117~125W、エンコード開始~終了までの平均値は105W前後と、見事なまでに制御されている。
そしてHandBrakeエンコードでもワットパフォーマンスを見てみよう。前掲の検証で処理時間と一緒に提示されるエンコードのフレームレートを、PMDで計測したCPU Power(EPS12Vコネクター2つぶんの合算値)の平均値で割り、それを100倍するとCPU Power 100Wあたりのフレームレートが算出できる。
エンコードのフレームレートは処理時間と連動する(当然)のでX付きよりもTDP 65W版Ryzenの方がフレームレートは落ちるが、CPU PowerはTDP 65W版Ryzenは一律105W前後に制限されてしまうため、ワットパフォーマンスではX付きよりもTDP 65W版Ryzenの方が圧倒的に高くなる。
一方、第13世代CoreはMTP無制限時はお話しにならないほどワットパフォーマンスが悪いが、MTPを定格に絞ってやるとワットパフォーマンス的には良い働きをしていることが分かる。
同梱のクーラーを使うなら圧倒的にTDP 65W版Ryzenが良好
ここまでの検証は全て360mmラジエーターを搭載したAIO水冷で冷却環境を統一して行っているが、TDP 65W版Ryzenには似つかわしくないクーラーであることも事実(下手をするとCPUよりクーラーの方が高価だ)。
そこでここでは、各CPUに同梱されているクーラーを使用した場合、どんな性能が出るかを3本のベンチ(CINEBENCH R23/ Handbrake/ Cyberpunk 2077)で検証した。第13世代Core勢のMTPは定格の値に絞った時のみを計測している。MTP無制限設定ではCPUクーラーの性能が足らないことが分かっているため、検証は見送った。
グラフ中にあるCPU名に“Air”と付いているのが同梱のCPUクーラーを使用した際のパフォーマンスであり、何も書いていなければ前掲の360mm AIO水冷時のデータとなる。両者の差が開くほどリテールクーラーでは冷却力が不足することを示している。
TDP 65W版Ryzen、およびMTPを定格に絞った際の第13世代Coreにおいては、同梱のクーラーを使うとパフォーマンスが低下するものの、せいぜい数%程度の微差であった。そしてこの基準で比較するのであれば、どのテストにおいてもTDP 65W版Ryzenは第13世代Coreの同格モデルに対し“やや上”以上の性能を発揮している。
第13世代Coreでは強力なクーラーを使ってMTPを無制限にすれば(そして無制限設定がデフォルトのマザーボードも結構多い)性能を伸ばせるというロマンがあるが、逆にTDP 65W版Ryzenはチープな(失礼)リテールクーラーでも十分なパフォーマンスが期待できる。
まとめ
まだ本稿のためにデータをいろいろ蓄積してきたが、残念なことにそのデータ全てをお見せするだけの時間は筆者に残されていない。しかし、本稿のデータだけでもTDP 65W版Ryzenの使い勝手の良さは掴めたのではないだろうか。
クリスマスから年初にかけてSocket AM5版Ryzenの値段が激しく下がったため、TDP 65W版Ryzenの価格設定の妙が消えかけてしまった感はあるものの、第13世代Coreと比較すると「CPUの」コストパフォーマンスは良いものに仕上がっているといえるだろう。
しかし、問題はマザーボードの価格だ。Socket AM4は既に終息へ向かっており、新しいコンセプトの製品(例えばASRock「LiveMixer」シリーズのようなもの)はほぼ期待できない。より優れた設計のものを手にしたいならTDP 65W版Ryzenと一緒に乗り換えるのが一番だが、まだ割高感は残っている。第13世代CoreのようにDDR4版がないというのも辛いところだ。
とはいえ、値段の問題はSocket AM5プラットフォームの寿命という点を考慮することによって緩和できる。今後登場する3D V-Cache版Ryzenや次世代RyzenがSocket AM5用にどれほど出るのかは分からないが、ここで乗り換えておけばCPUを最低ひと伸び、あるいはふた伸びさせるチャンスも得られる。長期的に見ればコストパフォーマンスは決して悪くないと考える。
ただ惜しいのは同梱されているリテールクーラーのチープさだ。リテールクーラーだから安っぽいのは当たり前だが、高負荷をかけるとやはりファンが高回転する音が耳につく。特にWraith Prism w/LEDはマザーボードとPCケースの天井との間にクリアランスがないと取り付けに苦労する(特にEPS12Vケーブルの接続など)。QOL向上には4000円程度で良いので定番CPUクーラーを購入することをお勧めしたい。
この連載の記事
-
第455回
デジタル
「Ryzen 7 9800X3D」が最強ゲーミングCPUであることを証明する -
第454回
デジタル
性能が最大50%引き上げられたSamsung製SSD「990 EVO Plus」は良コスパSSDの新星だ -
第453回
デジタル
性能も上がったが消費電力も増えた「Ryzen 7 9800X3D」最速レビュー、AI推論の処理速度は7800X3Dの約2倍! -
第452回
自作PC
Core Ultra 200Sシリーズのゲーム性能は?Core Ultra 5/7/9を10タイトルで徹底検証 -
第451回
自作PC
Core Ultra 9 285K/Core Ultra 7 265K/Core Ultra 5 245K速報レビュー!第14世代&Ryzen 9000との比較で実力を見る -
第450回
デジタル
AGESA 1.2.0.2でRyzen 9 9950Xのパフォーマンスは改善するか? -
第449回
デジタル
Ryzen 9000シリーズの性能にWindows 11の分岐予測改善コードはどう影響するか? -
第448回
デジタル
TDP 105W動作にするとRyzen 7 9700X/Ryzen 5 9600Xはどの程度化ける? レッドゾーン寸前を攻める絶妙な設定だが、ゲームでの効果は期待薄 -
第447回
デジタル
Zen 5とTDP増でゲーム性能は向上したか?「Ryzen 9 9950X」「Ryzen 9 9900X」の実力チェック -
第446回
デジタル
「Ryzen 9 9950X」「Ryzen 9 9900X」は“約束された”最強のCPUになれたのか? ベンチマークで見えた利点と欠点 -
第445回
デジタル
「Ryzen 7 9700X」「Ryzen 5 9600X」のゲーミング性能はゲームキングRyzen 7 7800X3Dに勝てる? - この連載の一覧へ